滅亡の運命

運命を司る女神は、サイコロを振った。幾つもの面を持つそれは、コロコロと転がり、やがてピタリと止まる。止まった面には『滅亡』と書かれていた。

女神は頭を悩ました。運命のサイコロには、結果のみが書かれていて、方法が書かれていないのだ。女神は神々を集め、どうやって人類を滅亡させるかについて話し合う事にした。

神々による議論では、如何に少ないコストで目的を達成させるかの一点について、何日も検討が繰り返された。
巨大隕石を落とすか、いや、そんな物質を動かすとなると、神の力を酷使せねばならない。宇宙人の侵略か、いや、他の星の神との交渉が大変だ。戦争を起こすか、いや、天変地異は、いや、有毒物質は、いや・・・。
神々の議論は泥沼化していった。

そこへ、一人の少年の姿をした神が顔を出し、おもむろに一つの提案をした。

「この手鏡に映る人間の男の子に、この鉄の玉を拾わせよう。」

意味の解らない提案に、神々は揃って怪訝な顔をした。

「バタフライエフェクトさ。まあ見ててよ。」
少年の姿をした神はそう言うと、鉄の玉を片手にヒューっと下界におりていった。

ざわざわとする会議室の中、運命の女神は、その少年の姿をした神の事を思い出していた。
彼の名は、混沌の神、カオス。
かつて、桶屋を儲けさせるために、風を吹かせたのも、彼だった。


◆◆◆

そのへんてこりんな鉄の玉を拾ったのは、夏休み、僕がお爺ちゃんちに遊びに行った時の事です。お爺ちゃんちの庭には、パターゴルフが出来る広い芝があって、その日は庭の芝の上でゴロゴロと寝そべっていました。
すると、空からヒューっとゴルフボールが落ちてきて、見事にチップインしました。見に行くと、ゴルフボールサイズの鉄の玉が入っていました。ピカピカでツルツル。なにより面白かったのは、その玉を転がすと予想できない転がり方をするのです。すぐにお爺ちゃんに見せにいきました。お爺ちゃんは発明家なんです。いつもへんてこな面白い発明をしています。この不思議な鉄の玉の事も、何か解るかもしれないと思いました。


「重心がズレておるな。だから面白い転がり方をするのじゃ。」

僕はお爺ちゃんの言うことは、あんまり理解出来なかったけど、この鉄の玉が面白いことには変わりありません。


それから何日かたったある日、僕が庭でその鉄の玉をコロコロと転がし遊んでいると、お爺ちゃんがドタバタとやってきました。

「あの玉を、あの玉を見せてくれないか!」

お爺ちゃんに鉄の玉を渡すと、お爺ちゃんは両手を上げて空を仰ぎました。これは、お爺ちゃんが閃いた証です。また、何か面白い発明品を作るんだろうな。


◆◆◆

わしは、その鉄の玉を見て閃いた。
重心のズレによる予想できない転がり方。これは、時空にも同じ事が出来る。
真っ直ぐに転がる時間。重心をズラしてやれば、ほら、このとおり。タイムマシンの完成じゃ。

わしはすぐにタイムマシンに乗り込んだ。昔に戻り、初恋の娘に会いにいくんじゃ。ただ、ただ、もう一度、もう一度。

もう一度、妻に会いたかった。

一目見れれば満足じゃった。そのつもりじゃった。

だけど、いざ目の前に、元気に笑う若い頃の妻を見ると、見るだけじゃ我慢出来ない。わしは、妻に話しかけてしまったのじゃ。
特に大事な事を言った訳ではない。一言二言、挨拶をしただけじゃ。だけど、それでも、未来は変わってしまう。些細な出来事が、未来を大きく変えてしまう。因果は幾重にも複雑に絡み合い、出来事は広く深く波及してしまう。

バタフライエフェクトじゃ。


◆◆◆

バタフライエフェクトだよ。
ほら、見て。どんどんと未来は変わっていくよ。元の未来は跡形も無く消滅したね。元の世界に住む人類は、全員居なくなった。滅亡さ。

あ、そうそう。神々も、だけどね。


◆◆◆

運命を司る女神は、サイコロを振った。幾つもの面を持つそれは、コロコロと転がり、やがてピタリと止まる。

少年の姿をした神は、クスクスと笑う。

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夢蒟蒻
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