#3「気付かぬストレス」
「そんなにつらかったなら、"つらい"って言ってくれれば良かったのにね…」
主を失った机を見ながら、上司がつぶやく。笑顔で元気いっぱいだった彼が、いきなり学校にこなくなって何日経つだろう。
今でこそニュースに取り上げられるようになったけれど、本当に、心を病んでしまう教師は少なくない。
花がしおれていくように、だんだん、だんだん弱っていくのではない。前日まで元気ハツラツに働いていた(ように見えた)人が、いきなり来なくなるパターンが多いように感じる。
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私が経験したうち、最もひどかったのは1年で3人が休職、8人が通院を余儀なくされた学校。子どもの指導にあたる職員は担任・専科・特別支援を合わせて30人ほど。何がつらいって、朝会・夕会・会議といった職員が集まる時間。管理職vs.職員(一部)の構図が仕上がり、怒鳴り声・罵声がとびかう。
じっと目を閉じてうつむき、管理職に浴びせられる暴言を聞く。朝会で"バトル"が始まると、心を無にして「教室で子どもたちと笑い合っている」数十分後の自分を想像する。
実家に帰省したとき、母から「あんた、3つも500円ハゲ(円形脱毛)できとるやん」と指摘された。後頭部だったこともあり、全然、気付かなかった。
驚く私に母は、「よっぽど、大変な状況なんやね」とつぶやく。母の悲しそうな顔を見て、ようやく自分がストレスにさらされている事実に気付いた。
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大学時代、同じ苦学生でなんやかんや励まし合った男友達がいる。社会人になって4年目ぐらいだったか。久しぶりに会った彼が、「実はここ最近、メンタルやられて休職してたんよ」と、鬱になったことを打ち明けてくれた。
彼の話によると、いつも通り働き、いつも通り帰宅し、いつも通りに夕食を食べて寝た。いつも通りだったはずなのに、翌日、いきなり起き上がれなくなったそうだ。
「人間って、想像するよりも格段に弱いと思うで」
ことの経緯を話してくれた彼が、私の目をじっと見て言った言葉が忘れられない。
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いきなり来なくなったあの同僚も、自分では「ストレスを受けている」ことが分からなかったのかもしれない。ストレスを自覚していない人にとって、「早く言ってほしい」との願いは、無茶な要求だろう。
だから、家族や友人、ときには第三者と話すって大切やなぁと思う。あと、"自分は弱い"って思っておいたほうがいいんかも。
無理しない、背伸びしない。つらいときはつらいって言う。泣きたいときは泣く。
「我慢せんくていいからね」
そう言ってくれる夫と結婚し、学校も変わり、いつの間にやらあの大きな500円ハゲは全てなくなった。
▼5月12日の午前7時ごろまで読めます。こちらもぜひ♪
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