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シソの神様

産直市場は今日も人が多い。
安い野菜を求めて沢山の人がやって来ている。
ウチの街のこの産直市場は
私の中では国内トップクラスの産直市場だ。
値段が安くて質が良い。
お肉もお魚も惣菜も牛乳もヨーグルトもチーズもある。
もしもこの街を離れることになったら
この産直市場に来られなくなることだけは
心残りかもしれない。

さてそんな産直市場で
小松菜やサラダ水菜、鯛、厚揚げなど買い込んだ私は、シソを買おうとシソ売り場に行った。
おりしも生産者と思われる年配の女性が
シソを売り場に出しているところであった。

女性は、シソを見に来た私に
「奥さん、シソを買いに来たの?」と
聞く。
私が頷くと、ご自分の納品したシソのパックを持って話し始めた。

うちは20年ほど夫婦で蕎麦屋をしとったんじゃけど
夫が身体を悪くして店をたたんだんよ。
店をしよった時に業者のシソを使っとったんやけど、農薬を使っとるという話を聞いて
蕎麦屋をやめたあとは、皆のために
農薬を使わないシソを作ろうと思ったんよ。
シソってすぐ虫がつくんよ、知っとる?

ふむふむ、なるほど。
これは買わんわけにはいかんよな、と
その女性の納品したシソを1袋手にした。

すると、
奥さん、シソどうやって使うん?
と聞かれたので
焼き魚の横に置く大根おろしの下に敷きます、
と答えたら
ええ奥さんやねぇ、と言ってくれた。
聞いたか!ええ奥さんらしいぞ、夫よ!と
思って夫を探すと、遥か遠くにいた。おーい。

あー、これもあげるわ。
レジで生産者さんにもろうたって言うたら
わかるけぇ。
そう言って値段のついていないシソの袋をくれた。

ピーマンもいる?と聞かれたので
大丈夫です、他の方にあげてくださいと
全力で断った。私はピーマンが大の苦手なのだ。
お礼を言って、その場を離れる。

女性はそのまま納品したシソを
並べていた。

元お蕎麦屋さんなら蕎麦の実を育てるとかに
なりそうなものだが、よっぽどのシソ好きだったのか、女性はなぜかシソを育てる決断をした。
私たち夫婦がある日ワインに出会って
ワイン飲みになったように、
ひとはそれぞれ、強烈に惹かれる何かにいつか出会うのかもしれない。
シソを愛し、シソに愛された神様かな。
また彼女のシソを見つけたら買おうと思う。

レジで
このシソ生産者さんにいただきました、と言うと、あらぁラッキーやったねぇ、と言われた。
よくあることのようだ。

いただいたシソは
その日の夕ごはんの
ナスのマリネの上にたっぷり乗せて食べた。
甲府で買ってきた白ワインにもよく合った。

美味しかったよ!

ごちそうさまでした。

(了)















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