「秋雨」
夏の終わりの長月の雨
静かな闇に人恋しくて
流浪ぎつねがケンと鳴く
深い藍の十五夜は
まるであの人の瞳のようで
金色(コンジキ)のしっぽを抱え込み
思い出すのは仮初めの恋
純粋に生きたいと願いつつ
逃れ得ぬ垢の重みに耐えながら
人は今日を生きていると
寂しく笑った彼でした
ああ 哀しいかな 畜生の身は
人の心を癒す術(スベ)を我は知らぬ
尾のない女に化け得ても
所詮さだめはけもの道
切ないのは 人間なのか 狐なのか
夜道を照らす月を隠し
しとしと しとしと雨が降る
物思いに沈む金色(コンジキ)の背中
秋の気配がしめやかにひそむ
「流浪ぎつねがケンと鳴く」新風舎 収録