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担当者に聞く、北陸ジュニア竜王戦の魅力とは!?

2022年に新設される北陸ジュニア竜王戦。
北陸在住の将棋ファンとして居ても立ってもいられなく、主催の読売新聞の担当者さんに突撃取材を敢行。
TOP画像の山口さんにお話を伺いました。

本日はお忙しい所、お時間をありがとうございます。早速ですが、すでに将棋大会は多数開催されていますが新規で創設する狙いはどこにあるのですか?
 北陸3県は全国的にみても将棋が盛んな地域です。特に石川県は加賀藩が将棋を技芸として奨励していたこともあり、10万人あたりの将棋人口比率は全国最多を誇るほどです。この北陸で、自分の強さをきちんと図ることができ、同時に参加者が切磋琢磨できる機会を子どもたちに与えたいと考えました。
 3県の子どもたちに参加資格を認めた大会は他にもありますが、1日で予選から決勝トーナメントまでを行うため、大きな時間制約の中で大会が進みます。北陸ジュニア竜王戦ではまず、3県ごとに予選を行うことにしました。予選段階から1手30秒の「秒読み」を可能な限り採用し、本大会では3県の代表が頂上決戦に臨むスタイルにしました。
 こうしたきめ細かいやり方こそが、真の「最強ジュニア」を決めるやり方にふさわしいと思ったのです。

なるほど、つまり最強ジュニアを決めたい、というのがこの大会の狙いなのですね。最強ジュニアを決める意義についてもう少し詳しくお聞かせください。
 多くの子ども向け大会は、小学生または中学生などの学制単位、あるいは小学低学年、高学年などの学年別で行われます。しかし、幼稚園児でも才能あふれる子は少なくありません。
 一般的に9~12歳頃は、知能や運動神経が大いに発達する時期と言われます。本大会は、この年齢層をはさむ前後3~4歳の年代を合わせて「ジュニア」としてくくり、切磋琢磨して力を磨いてもらうことを理念に据えました。参加部門を、学制や年齢で分けなかったのもこのためです。
 一方ジュニア期は、キャリア形成に向けての探索時期でもあります。今後自分の「進路」と向き合う中で、将棋の奥深さを通して長い人生を歩むバランス感覚を身につけてほしい。そんな願いも込めて、本戦にあたる本大会の開催時期も9月としました。
 各県の予選で気づいた課題や教訓に向き合って腕を磨き、その成果を9月の本大会に思う存分発揮してもらう。大会後はその「実り」をかみしめてもらい、その後はほとばしる知的好奇心を受験勉強等に注ぎ込んでほしい。その意味で9月という開催時期は、特に中学3年生を意識しました。

最強を目指すこども達にメッセージをお願いします。
 「自分はいったいどれくらい強いのか」
 それを意識して日々将棋と向き合っている子どもたちにはまさに打ってつけの大会です。北陸ジュニア竜王戦は、Aクラスの竜王とBクラスの昇竜の2部門でそれぞれ3県の各代表4人、つまり12人ずつが頂上決戦に臨む大会です。
 予選から本大会まで2か月近くあります。予選での課題に向き合い、克服して自信を深めれば暑い夏に一気に一皮も二皮もむけ、力を伸ばせると思います。優勝したいという相互の思いが大きなエネルギーとなって本大会はさらに熱戦となり、そのトップに立つ初代北陸ジュニア竜王には、さらなる高みの風景が待っていると思います。
 一方、9月4日の本大会では豪華賞品付きの二部戦を用意していますので、県予選で惜しくも県代表になれなかった人も本大会会場にて楽しんでいただきたいと思っています。

ざっくりとAクラスとBクラスは将棋ウォーズで言えば何級程度を想定しているのですか?
 Aクラスの竜王部門は将棋ウォーズで初段以上、Bクラスの昇竜部門は1級以下を想定しています。自分の今の棋力に応じてどちらに挑戦するかを決めれば良いと思います。将棋を始めて間もない子はBクラスに参加してください。
 6月26日に行われた富山県予選では、Bクラスでも、やはり準々決勝、準決勝、決勝へと進むにつれてハイレベルの戦いになっていきました。
 初心者にとっては1勝を挙げるのは容易ではないでしょうが、まずは挑戦してほしいです。県予選で1勝もできなくても、9月の本大会二部戦で1勝できるようになれば、確実に力が付いたということになります。

初心者向けのコンテンツは用意しているのでしょうか?それともガチ勢にターゲットを絞っているのですか?
 初心者とガチ勢の両方に照準を定めています。まずは大会に挑戦しようとした勇気に応えて、県予選と本大会とも参加賞を用意しました。いずれも市販されていない読売新聞の限定グッズです。また、地元企業さんから「塩あめキャンディー」の提供をいただくので、これも配ります。
 これとは別に大人も夢中になれる特別冊子を用意しました。一から作ったオリジナルの将棋図鑑です。読み進めるごとに将棋への関心が湧くようなページ構成になっています。冊子の中に出てくる、プロ棋士で北陸先端科学技術大学院大学副学長の飯田七段の「養われる共感力」というインタビュー記事や、「優勝したい強く思う気持ちが大切」という野原未蘭女流初段のお話は大変参考になると思います。また、竜王戦七番勝負の「舞台」と「年表」も一生懸命作りました。
 3県のトップを切って行われた富山県予選の会場で配りましたが、翌日「将棋図鑑のようで参考になる。将棋の奥深さが学べる」という感想を寄せていただきました。存分にご活用いただきたいと思います。

会場で配布される特別冊子

非常に魅力的なグッズを用意されているのですね。とはいえどちらかと言えばガチ勢よりのコンテンツが充実していて、相対的に初心者向けのコンテンツがちょっと弱い気もするのですが。
 確かにそういう一面はあるかもしれません。まずは北陸最強ジュニアを決める最高峰の戦いの舞台を整えたいと考えました。そしてそのガチ勢の背中を見て初心者の子たちが憧れを持ち、それを上達のモチベーションしていただけたらと考えています。
 もちろん、初心者にも楽しんでいただけるよう、局数に応じて記念品が付く自由対局コーナーも準備しています。さらにプロ棋士が4人も参加する指導対局の用意もあります。参加賞もつきます。その意味で十分に初心者にも楽しんでいただける大会になっていると自負しております。
 その上で、プラスアルファとして北陸最強決定戦の雰囲気を初心者の子にも楽しんでいただける。そう考えると初心者向けのコンテンツもそれなりに充実していると言えるのではないでしょうか。

たしかに、自由対局コーナーがあって、参加賞があり、さらにプロの先生が4名も指導にいらっしゃる将棋大会と考えれば、十分に初心者に喜んでもらえる内容ですね。さて中学生と小学生では年齢的に棋力の差がある場合もありえそうですが、その点はどのようにお考えですか? 
 先ほど述べた通り成長期の子どもたちは、ものすごい速さと正確さで物事を吸収し進化を遂げています。こどもの1日は大人のひと月といって良いくらいです。6月26日の富山予選でも小学生の活躍が光りました。真剣勝負の対局を経験するたびに加速度的に棋力を増す子どもたちもいるということだと思います。勝っても負けても互いに刺激を与え合えば良いと考えます。
 ですから、小学生と中学生の棋力差は北陸ジュニア竜王戦においては大きな障害にはならないと考えています。

特別冊子に見入る子どもたち

3県予選の後に行われる本大会についてお聞かせください。
 まず会場が一つのセールスポイントです。約500年の歴史を体現する真宗大谷派の金沢東別院をお借りして行います。実は、将棋大会創設のデザインを描いた時、真っ先に浮かんだのが東別院でした。
 東別院で今から3年前、まさに北陸3県のこどもたちを対象にした「第1回寺王戦」が開かれました。その名の通り、お寺で最強棋士を選ぶ大会です。寺王戦もA、Bの2クラスで年齢、学制・学年不問でした。本堂で厳粛な開会式があり、畳が何枚も敷かれた和室で対局が進みました。Aクラス決勝対局は奥の間で行われ、室内にセットされたカメラの映像を元に、参加者全員が別室でアマ高段位者の大盤解説を聞くスタイルでした。多くの子どもたちが広い畳の上で落ち着いて将棋を指していたのが印象に残っています。
 お寺は生命の重みを理解し、その尊さを分かち合う場所です。思考を巡らし、思索する場でもあり、長い年月と知恵が刻まれています。考えてみれば、「先の先を読む」将棋の対局には最もふさわしい舞台とも言えます。
 北陸ジュニア竜王戦は、この第1回寺王戦を土台に組み立てています。大盤解説をするのは、アマ段位者ではなく、第1期竜王戦七番勝負で米長邦雄永世棋聖を破って初代竜王に就いた島朗九段です。この土台部分に、島九段らプロ4人の指導対局、予選敗退者を対象にした二部戦、記念品付き自由対局を上乗せしています。

第1回寺王戦の様子をまとめていただいたブログ記事

本大会では素晴らしい将棋駒が使用されると聞きました。プロのタイトル戦でも使用された銘駒とのですが、そのような駒を用意された狙いと願いは?
 金沢東別院という探求の場にふさわしい荘厳な「和の空間」でやるのですから、あわせて、できる限り最高の環境と栄誉を用意したいと思いました。すると関係者から「それなら最高の駒を用意してくれる方を紹介します」と提案を受けました。紹介されたのが、日本将棋連盟石川県支部連合会理事の塩井一仁さんでした。
 塩井さんは、うちの読売の竜王戦のほか名人戦など数々のタイトル戦に通算24回、16種の駒を提供している方でした。珠洲市の塩井さん宅に伺い、大会に参加する子どもたちのことを話したところ、小さな手になじみ扱いやすいものが良いだろうといろいろと出してきてくれました。駒を決めるのに2時間近くは要したと思います。
 最終的に、駒を持ち慣れている比率が高いAクラスの竜王用には、書体が「源兵衛清安」の盛上駒。Bクラスの昇竜用には、書体が「巻菱湖」の彫駒となりました。わたしも子どもたちの手の大きさを想像しながら駒の感触を確かめましたが、本大会に最適の駒だと感じました。

数々の銘駒を前にして、その中から選ぶという贅沢なひと時。1将棋ファンからするとなんとも羨ましい話です。その時の駒の感触や感じられた印象をお聞かせください。
 第一印象は「ツルッとしているなぁ」でした。私が普段使っている彫駒とは感触が全然違いました。意外と軽くて、手先との一体感を覚えました。また盛上駒なので立体的に見えます。実際にこの目で見るとその芸術性に圧倒されました。

Aクラス決勝で用いられる盛上駒
Bクラス決勝で用いられる彫駒

優勝者が毎年招待されるとのことですが、プロの竜王戦と一緒ですか?藤井竜王のようなタイトル保持者みたいなイメージであっていますか?  
 Aクラスの竜王の方は、プロのタイトル戦の竜王戦のような形をイメージしています。ですので来年の2023年は初代竜王に、本大会トーナメントで1位になった人が挑戦する形式となります。
 そして竜王位についている限り、高校3年生になるまで連覇記録を刻むことができます。そして通算3期竜王位に就けば「永世ジュニア竜王」の称号を付与することにしました。現在中学3年の方も永世竜王になる道が用意されています。
 なお竜王には、最強の証しとして鋳物メーカー「能作」の真鍮トロフィーが贈られます。トロフィー土台部分に名前が刻まれ、多くの芸術家や研究者らが訪れる能作本社ロビーに展示してもらいます、多くの来場者の目に留まることでしょう。もちろん、竜王には自宅で飾れるレプリカ版を作ってもらいます。

優勝トロフィー

まさにジュニアに向けてのタイトル戦ですね。副賞、優勝者への取材、インタビューや紙・誌面掲載、インターネット配信、などの特典があればお聞かせください。
 本大会では、Aクラス竜王決定戦、Bクラス昇竜決定戦、Aクラス二部戦、Bクラス二分戦の四つのクラスで対局が行われます。いずれのクラスでも上位4人には賞状とメダルが用意されます。またどのクラスの優勝者にも第34期竜王戦の開幕記念扇子と藤井聡太の竜王就位記念扇子のどちらか1本が授与されます。
 このほか読売ジャイアンツの記念グッズや読売キャラクター「猫ピッチャー」のマグカップ、プロ棋士の直筆サイン色紙などを副賞として用意します。
 大盤解説の模様は後日、YouTubeにアップする予定です。当日の様子は、読売新聞のほか、テレビ金沢など複数のテレビ局で取り上げられる予定です。また大会の棋譜速報は北陸ジュニア竜王戦の公式Twitterにアップする予定です。
 優勝者のインタビュー記事と竜王、昇竜位決勝戦の棋譜、観戦記は翌年大会用の特別冊子に載せることにしています。このほか、本大会1週間前に紙面を丸ごと1ページ使って、本大会の魅力と各県代表の顔写真を載せた特集記事を載せる予定です。そこまで待てないという人もいると思うので、紙面や読売オンラインなどで先行公開することも考えています。

https://mobile.twitter.com/yomihoku_jrryuo
北陸ジュニア竜王戦の最新情報はこちらから

北陸ジュニア竜王戦は北陸3県の将棋連盟の協力があったと聞いております。開催にあたって各県の連盟からの反応はいかがでしたか?
 みなさん大きな期待感で受け止めていただけましたが、中でも福井の理事長さんの喜びが大きかったです。福井県はプロ棋士がまだ輩出されていないことや、タイトル戦の開催が福井県では少ないことがあり、大会を通して福井のこどもたちの盛り上がりにつながるのでは、ということから大きな期待を寄せられました。

北陸地方の将棋関係者のみなさんから大きな期待を励ましをいただいているのですね。そんな中、開催にあたって苦労されたのはどんなところですか?
 今回は1から企画を組み立てていったのですが、最初はそれが本当にこども達に響く形になっているのだろうか、という確信がなかなか持てなかった点です。そういう意味で暗中模索という感じでした。
 しかし企画を練り上げていく過程で、将棋に携わるいろいろな方達の反応をお聞きし、期待の言葉を投げかけられるうちに、「なんとか形になってきたかなぁ」という手ごたえを感じられるようになりました。
 もちろんまだまだこれからなのですが、様々なアドバイスをいただいたり、理念に共感するお言葉をいただいたりすることが大きな支えになっています。
 また他にも将棋大会が沢山ある中で、北陸ジュニア竜王戦という新たな大会を設立するという意義を明確にしなければならないと思い、そこのところを言語化してご説明できる準備を整える、ということが大変といえば大変でした。

主催者としての山口さんの責任感や熱意をひしひしと感じます。話は変わるのですが、将棋っ子を持つ父としての山口さんに興味がわいてきました。将棋に触れる中で感動したこと、お子さんとの将棋について、一親将として見た将棋大会への思い、をお聞かせください。
 親将として、今回将棋大会を立ち上げていく中で、将棋大会を主催していただいているスタッフの方々への尊敬の念が深まりました。将棋大会を準備するというのは本当に大変です。将棋への情熱とこどもへの愛情がなければなかなかできません。
 またこどもが真剣勝負を通して悔しがっている姿や、はち切れそうな笑顔をこぼしている様を目の当たりにできることは、親将として何物にも代え難い喜びです。そんな成長の場を用意したいと思っています。
 実はこども達が対局しているすぐそばで親同士の雑談や世間話に花が咲いて、こども達が集中しきれない環境の将棋大会にも参加したことがあります。もちろん会場の物理的な制限もありますし、将棋大会の場は親将として貴重な情報交換の機会ということも理解できます。しかし、一歩下がって見守ることも大切です。
 今回の北陸ジュニア竜王戦では本当の最強を決めるという意味合いを大切にし、可能な限りこども達が集中できる環境を整えたいのです。
 幸い今回の本選会場である金沢東別院は会場も広く、部屋数にも余裕があるので、対局は対局、交流は交流というふうに棲み分けができるのではないかと考えてます。

親将としての熱い気持ちも感じられました。主催者としても、親将としても、ですね。さて今回は記念すべき第一回大会になるのですが、今後の将来的な展望をお聞かせください。
 大会実績を積み重ね、参加エリア県を少しずつ増やしていきたいです。とはいえ全国の子どもたちに参加の門戸を開いたとしても、北陸ジュニア竜王戦の名が示すように、北陸で本大会を開くのが大事だと思っています。そしてお寺にこだわりたい。将棋への理解や、交通アクセス、施設の規模などを総合的に判断すると、可能な限り長く金沢東別院で本大会を開きたいです。
 加えてガチ要素を強めたいと思っています。
 できれば県予選からたっぷり時間を確保して全ての対局で秒読みを採用したいと思ってます。そして本大会では総当たりの形も検討したいと思っています。
 トーナメントだと、どうしても対戦相手に偏りができてしまいます。総当たりなら実力がより反映されやすく、ガチ要素が強いです。すなわち北陸最強のジュニアを決めるという理念により叶う形になるのではないかと考えています。もちろん時間的制約もありますし、様々な工夫も必要になるでしょうが。工夫といえば、例えば本大会に2日制を導入してみるのもひとつですよね。
 より良い真剣勝負の環境のために試せることはなんでも試したいと思ってます。

最後に山口さん個人としての北陸ジュニア竜王戦にかける思いをお聞かせください。
 北陸ジュニア竜王戦を通して、北陸の文化や歴史、自然。豊かな多様性を全国の人に知ってもらう機会になってくれれば、北陸を愛する者として幸いです。
 私は新聞記者になって最初に赴任したのが富山でした。それから約四半世紀たって金沢支局長として再び北陸に来ました。そうした中で縁あって子どもたち2人が将棋教室に通うようになりました。ゆっくりゆっくりですが少しずつ強くなっていく子どもたちをみて、うれしくなって色々な大会に連れて行くようになりました。ある意味、子どもたちとの大会行脚がジュニア竜王戦構築の下地になっています。
 さて2年以上に及ぶ新型コロナウイルス下の暮らしで浮き彫りになったことは、私たちが当たり前だと思っていた概念の定義が崩れつつあるということではないでしょうか。私たちは今、大きな歴史的転換点に立っていると言えます。
 地球規模の課題や困難を解決する原動力やヒントは、次代を担うジュニア世代1人1人の叡智にあるのかもしれません。その自由な開花を、全力で応援したいと思っています。人生は決断の連続です。最善手を導く能力はもちろんのこと、悪手を指してしまっても、冷静に立て直してみる気概を身につけてほしい。ジュニア竜王戦が、思考力や判断力に磨きをかけようと励んでいる皆さんの刺激になれば幸いです。この大会の意義と将来性を読売社内で共有できるよう、私も全力を尽くしたいと考えています。