映画『百花』 (ネタバレあり)
アルツハイマー型認知症になってしまった母という題材だけだと、ある程度流れが読めてしまうよな。
母親が少しずつ日常の中で問題を起こし始め、息子が違和感に気づき出し、進行と共にいろんなことを忘れていき、それを息子は受け止めきれず、現実と向き合うことに苦悩しながらも受け入れていく…などと。
そこに何がプラスされるのか。という思いと、キャストに期待してこの映画を観に行った。
やはりそれだけではなかった。
母がアルツハイマー型認知症になるよりもはるか前に、基盤としてまず、息子は裏切られた許し難い過去を持ち、その時の傷をずっと抱えている。
そこへ来ての認知症ということなのだ。
母の姿(老いも含め)、女性としての母の姿、息子の思い、母の思い、親子の形、すべて少しづつ変わっていくもの。
自分の成長や経験の中で、多面的に物事が考えられるようになり、幼い時の寂しくて辛かった思いだけではなくなる。
そうやってその出来事を、自分なりに腹に落とし込むための作業を、主人公は何十回も何百回も繰り返してきたであろう。
良くも悪くも、今の母は思い出の中に生きている。
認知症にはムラがあり、時々まともなことを言う。息子は「覚えてるんだ。」とホッとした直後、また噛み合わない会話となり、現実に打ちひしがれる。
『たべっ子どうぶつ』という、小さい子のおやつに定番のアイテムが出てくるのが、とても切ない。
赦すとか赦さないとかではなく、ただ現実をみている受け身的な主人公。
この人はいずれ何もかも忘れてしまうんでしょ!と投げやりになり、感情を爆発させて子供のように『なんであの時いなくなったのか、自分がどれだけ寂しく惨めな気持ちだったのか、今でもその気持ちを引きずっている』ことを母に当たり散らすシーンをもっと観たい!と思ってしまい、演技派俳優たちの鬼気迫る演技をもっと観たい衝動に駆られた。
その点では物足りなさを感じた。
まぁでもリアリティで言ったら、こうなるのかな。
神戸、平成、やっぱり入れるか。阪神淡路大震災。
これをきっかけに息子の元へと戻ることになったのだが…ちょっと無理くり感は否めなかった。
結果、★★★☆☆ といった感じ。