大学受験世界史の標準的な勉強法
はじめに
今回は、大学受験世界史の標準的な勉強法について話していきます。
世界史の他に、英語、現代文、古文、漢文、数学、地理の標準的な勉強法についての記事もありますので、もしよければそちらも参考にしてください。
毎回同じような説明をしていますが、改めて述べておきます。
ここでは、広く受け入れられていそうな参考書や考え方を紹介していきますので、特に目新しいことないかもしれません。私が個人的におすすめする参考書や勉強法については、別の記事を書く予定です。また、「勉強法」とどう向き合うかについては『自分に合った勉強法や参考書を見つけるためのヒント』を参考にしてみてください。
また、高校の先生の方針や予備校のカリキュラムをそれぞれが抱えていると思いますから、ここで示す流れの通りに進まなくとも気にしなくて構いません。それぞれに得意不得意もありますから、これから示す勉強の流れや参考書のすべてをやる必要はありません。
まず、ここで紹介する勉強法は、高校入学から大学受験直前までの期間を想定しています。「このランクの大学を目指す人向け」といったレベルは設定していません。その分、大まかな流れを示すに留まっていますがご了承ください。
とはいえ、世界史は、私立志望か国公立志望かで問題の傾向が大きく変わってきます。それに伴って、勉強の方向性も変わってきます。
そのため、基礎的な知識を身に付ける段階までの流れを説明したあとは、私立対策と国公立対策で分けて説明をしていくことにします。
まずは、世界史の勉強の大まかな流れを話していきます。その上で、各分野についてその注意点とよく使われる参考書を紹介していきます。
受験世界史の勉強の大まかな流れ
受験世界史の勉強は、概ね次のように進みます。
まず、教科書や講義系参考書、資料集、用語集などを使いながら、通史への理解を深めていきます。
それと同時並行で、世界史用語の暗記用参考書などを使いつつ、基本的な知識や用語を押さえていきます。暗記をしていくことが通史の理解にもなります。そして次から、私立志望者と国公立志望者で分かれていきます。
私立志望者は、基礎知識を固めた上で、世界史用語集や一問一答などを使いながら、細かい知識を補強していくことになります(特に早慶志望)。そして、私大の過去問などを集めた短答式の問題演習に入り、過去問演習へとつなぎます。
国公立志望者は、次のステップとして細かい知識の補強には入らず、教科書や資料集を何度も徹底的に読み込むといったことをしながら、通史への理解を高めていきます。同時に、論述式の問題演習を行って、設問要求にこたえる訓練をしていきます。そして、過去問演習に入って、志望大学の出題形式を把握することになります。
流れを把握するために大まかに書きましたが、実際には、通史などは簡単に理解して次に進めるようなものではありません。また、用語もかなり多いので忘れてしまいがちです。常に復習をし続けながら演習を進めて行く必要があります。
これから、詳しい解説に入っていきます。ここまで紹介してきた流れに合わせて、「通史理解」「基本知識定着」「細かい知識の補強」「短答式問題演習」「論述問題演習」に分けて説明していきます。
各分野の勉強に使われる参考書と注意点
通史理解
「通史を学んで流れを理解する」というのは、まずもってかなり難しいです。「それを終えたら次のステップに進む」と言えるほど簡単なものではないし、そもそもその理解こそが世界史学習の核にあたります。
通史への理解は、私立志望者にとっては知識を乗せる土台に、国公立志望者にとっては自在に使いこなせなければならない武器になります。用語だけを覚えていてもそれがどういう位置づけなのかを理解していなければ問題には答えられないし、教科書にあるような文を自ら作成できるようでないと論述問題に答えるのも難しいのです。
通史は、範囲も広いため、一歩一歩確実に進めて行っても、一周したころにはやはり多くを忘れてしまっています。進めながら過去の範囲も復習して、一周したらもう一周して、三歩歩くと忘れるとしても何度も何度も塗り重ねていって、完成度を上げていくしかありません。
文章をただ漫然と読むのではなく、自ら書き込んで整理したり、図表でまとまっているものを見たり、疑問を抱いたら調べたりして理解を深めていきましょう。
この「調べる」という作業は非常に重要です。自ら考えたり調べたものはよく記憶に残るからです。そのためにも、教科書だけでなく、資料集や用語集を積極的に使っていきましょう。インターネットで調べていくのもアリです。
通史理解のベースとなるのは、やはり教科書です。山川の教科書が広く使われていますが、実教や帝国書院の教科書など、他のものを使っているとしても問題はありません。
ただ、教科書だけで理解を深めるのが難しいという人も少なくないと思います。高校で行われている授業はその理解を補うものとなっていると思いますが、自分自身で勉強を進める場合には、講義系参考書や資料集を使うことになります。
まず、講義系参考書は、講義形式で書かれたかなり分厚い参考書(もしくは何冊にも分かれている参考書)のことです。初めて勉強をする人でもわかるように丁寧に書かれていることが多いため、教科書の内容を理解するのに役立つはずです。
しかし、分かりやすさを追求した結果として、分厚いのはもちろん、厳密さを欠いていることが多いです。講義系参考書には載っているけれど、歴史的に真実かは怪しく教科書に載っていないものも多くあります。そのことに意識は向けておきましょう。
また、資料集は、世界史の理解を深めるためにぜひ使いましょう。講義系参考書を中心に使っている人は資料集を使っていないことが多いように思います(気のせいかもしれないけど)。
世界史を、テーマごと、地域ごと、そして時代ごとに理解していくために、上手く整理されてある資料集というのはとても役立ちます。どの資料集の冒頭にも載っている、「〇世紀の地図」などは、何百回でも目を通してもよいくらいです。
『アカデミア世界史 時代と地域の羅針盤』(浜島書店)をはじめ、いろいろなものが出版されています。もし学校で採用している資料集があればそれを、なければ書店で好みに合うものを探してみましょう。
資料集は、何かわからないことがあって調べる時に使われることも多いと思います。同じような場面で使われるものとして、辞典や用語集があります。
たとえば、世界史小辞典編集委員会(2004)『山川 世界史小辞典』(山川出版社)があります。所有している人は少ないかもしれませんが、電子辞書などに入っていると、調べやすく便利です。
もっと身近なところだと、Y-History 教材工房「世界史の窓」というサイトがあります。分からない用語があったときなどに調べると、分かりやすい解説が載っていてとても助かります。
では、講義系参考書と資料集の紹介に移っていきます。
講義系参考書は、山ほどあるので何を取り上げるか悩むところなのですが、まず何冊にも分かれている参考書だと、青木裕司(2023-2024)「世界史探究授業の実況中継」シリーズ(語学春秋社)があります。「世界史探究」に準拠したものが最近出たばかりで、4冊目の発売は9/10です。
他に、評判の良いものとして、茂木誠(2021)『大学入試 茂木誠の世界史Bが面白いほどわかる本』(KADOKAWA)があります。ただ、これは今販売休止中になっていて、中古か、高値で取引されているものでしか購入できません(世界史Bから世界史探究への移行で販売が休止されているのでしょうか? ただ世界史探求版の販売情報は出ていなそうです)。
類似した参考書として、鵜飼恵太(2023)「大学入試 ストーリーでわかる世界史探究」シリーズ(KADOKAWA)というのも一応あります。
少し系統の違うものも紹介しておきます。
まず、時代ごとのヨコのつながりをよく学習できる、斎藤整(2017)『ヨコから見る世界史 パワーアップ版』(学研プラス)です。これだけで世界史の通史を十分に押さえるのは難しいですが、ある程度世界史の知識がついていきた段階で読んでみると、知識と知識が繋がるような感覚を得られると思います。
世界史の教科書の内容を掘り下げて詳しく(「分かりやすく」というよりは「詳しく」)解説したものである、木村靖二・岸本美緒・小松久男編(2017)『詳説世界史研究』(山川出版社)というのがあります。東大をはじめとした最難関大学志望者には人気です。
基本知識定着
「通史理解」で紹介してきた参考書や教科書を使いながら、世界史を勉強していくわけですが、その際に用語などの基本的な知識も覚えていかなければなりません。
「カタカナ語を覚えるのが大変だ」「中国史の用語は漢字が難しすぎる」といったこともあるかもしれません。何とか気合で覚えていくしかない部分もあるわけですが、用語を覚えることは理解と別にあるわけではありません。
人名や用語を覚えていくことで、その「キーワード」を起点に知識を整理しやすくなり、結果として、世界史の通史に対する理解を深められることにもなるのです。
この段階で知識が完成してくると、共通テストではある程度点数が取れるようになってくるはずです。
参考書を使わず、教科書や資料集中の語句をマーカーで隠したり、講義系参考書の赤字を覚えたりするのでも良いでしょう。ただ、参考書が使われることも特に多い分野なので、よく使われるものを紹介していきます。
まずかなり評価が高いのが、相田知史・小林勇祐(2024)『時代と流れで覚える!世界史用語』(文英堂)になります。基本的な知識には留まるものの、重要な用語はほぼ網羅してあるほか、その用語が文章内にあるため流れを意識しやすい構成になっています。また、左ページに図解があるのも魅力的です。
他に、山川の世界史の教科書に準拠した、書きこみ教科書詳説世界史編集部(2023)『世界史探究 書きこみ教科書詳説世界史』(山川出版社)というのもあります。本文は教科書と同じで、重要語句が空白となっており、自分で(オレンジペンなどで)書き込み、覚えていく形式です。
細かい知識の補強
どこからが「細かい知識」なのかという線引きができるものでもありません。あるいは、そもそも「細かい」と言うこと自体、価値判断を含んでいてよくなかったかもしれません。
とはいえ、教科書レベルからすると、最難関私大では「細かい」ように見える知識問題がよく出題されます。そのため、特に早慶志望者は、細かい用語まで覚えていくことが必要になってきます。
国公立志望者は、細かい知識を補強していくよりは、通史の理解を高めることに注力したいところです。細かい知識を補強する時には、やや断片的に用語を覚えていくかたちになりがちですが、断片的な知識は、論述問題が中心となる国公立大学の入試では活きにくいのです。
とはいえ、国公立志望者で私大を併願することもあると思いますから、戦略によっては時間を割くのも良いと思います。知識を補強することで世界史の理解が深まることも間違いありません。
ここでよく使われる参考書として、まず、全国歴史教育研究協議会(2023)『世界史用語集』(山川出版社)があります。先ほど「通史理解」のところでは、調べる際に用語集を利用したいという話をしましたが、『世界史用語集』は用語の説明がそこまで詳しいわけではないため、「覚えるものとして」使われることが多いかなと思います。
他に、一問一答もよく使われます。光森佐和子・増元良英編(2024)『山川一問一答 世界史』(山川出版社)や、斎藤整(2024)『斎藤の世界史一問一答 探究対応版』(Gakken)がメジャーかなと思います。
短答式問題演習
私立志望者は、過去問演習に入る前に、入試の形式に慣れるため、短答式の問題演習をするのがよいでしょう。通史の復習にもなります。ここを終えたら、過去問演習に入るということになります。
国公立志望者がこの演習をしておくのもアリです。もともと短答式だけの問題集ではないので、論述の演習もすることができます。特に「細かい知識の補強」を通らなかった場合には、せめて併願校の入試の形式に慣れておくという点でも有意義でしょう。
よく使われるのは、平尾雅規・市川賢司(2015)『HISTORIA 世界史精選問題集』(学研プラス)です。単元ごとにまとまっているため、通史の復習をしやすい形式になっています。
他に、Z会出版編集部編(2013)『実力をつける世界史100題 改訂第3版』(Z会)というのもあります。
この「短答式問題演習」の段階で、共通テスト演習を行っても良いと思います。ただ、共通テストの問題のレベルはそれほど高くないので、(少し形式が特殊なためなれる必要はあるとしても)この段階で点数はほとんど取れるようでありたいです。
論述問題演習
国公立志望者は、通史の理解を高めながら、入試で出題される論述形式に慣れていく必要があります。十分に通史をやっていたり、普段から自分でまとめていたりすると、特段演習を積まなくてもよいかもしれませんが、多くの人はこの段階を通ることになります。
世界史の論述問題集はどれもそれほど大きな違いはないので好みで選ぶと良いと思います。大論述に特化したものもあるので、志望大学の形式と異なる場合は注意してください。
まず、字数の少ないものから問題が構成されている、Z会出版編集部(2005)『段階式 世界史論述のトレーニング』(Z会)があります。
次に、世界史のテーマごとに問題が構成されている、金貞義・伊倉正武・井上徳子・山内秀朗・坂本新一・清水裕子(2016)『判る!解ける!書ける! 世界史論述』(河合出版)があります。
それぞれ、問題の並び方に特徴があるので、自分の好みに合うものをやってみましょう。
おわりに
世界史の勉強は、中々に大変です。理解できなくていろいろ調べまわったり、理解はしていても用語を何百個も覚えていかなきゃいけなかったりしますから。
しかし、簡単には理解できないような、本に載っているから正しいと断定できないような、そういう複合的なものと向かい合って考えることは貴重な経験です。世界史を学ぶことは、私たちがいま生きている現代の理解にもつながります。だからこそ、世界史を勉強するのが好きだという人が多いのでしょう。
好きな人はもっと勉強を重ねて得意科目に、苦手な人も現代とのつながりを意識しながら、自分の興味を持ったところからでよいので調べたりしながら、少しずつ勉強してみましょう。