天然染料の煎じ方
当工房で行っている、基本的な天然染料の煎じ方です。
染材によっては方法が多少変わったり、酸や薬品を入れて煎じることもありますが、基本的には以下の方法で行っています。
(天然染料では、染材により、こちらで説明しているものとは違う、特殊な方法もありますが、ここでは省略します)
この染料のつくり方は「引染」用(生地を張って刷毛で地色を染める方法)の染料にするためのものです。引染用では、濃度を高く、室温で安定するようにつくります。室温で色素分を多く含んだ、透明な染液にする必要があります。
浸染に使う場合(生地を染液に浸して染める方法)、この染料を薄めて使います。
今回は乾燥した“矢車附子”を使って説明いたします。
矢車附子の場合では乾燥状態の500gでおおよそ7~10Lの染液を取ります。
一般に良く行われている一煎、二煎、というように回数を重ねず一度で全量の染液を取ります。
煎じるには、使う鍋の大きさなどに気を使うことも大切です。大き過ぎる鍋で少量煎じたり、水の分量に対して染材が多過ぎても少な過ぎても良くありません。
薄い染料を使う場合は、適正な濃度に煎じた後に水で薄めます。
濃くしたい場合には、煎じてから煮詰めて濃度を上げます。
煎じる時には一定の環境をつくることが大切です。
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1)煎じる前に水洗いし、汚れを落します。染材が粉末状になっている場合は洗いません。
2)染材を火にかける前に染材に水を良く浸透させるため、洗った染材を水、あるいはぬるま湯に浸し、水の表面にラップをして数時間~一日置いておきます。
浮いていた染材がおおよそ沈んだ状態を目安にします。
粉末状になっている染材も、染材に水が浸透するまで水に浸しておきます。
あまり長時間浸けておくと夏期には発酵してしまうこともあるので、一日以上は浸けません。
一日で水が浸透する程度に染材を砕いたり、切ったりしておくことが必要です。
3)おおよそ染材が沈んだら、火にかけます。
この時点で染材の成分が出ているもの、殆ど出ないもの、いろいろあります。
4)火にかけ、沸騰したら中弱火ぐらい、染材が水のなかで回るぐらいの火加減にし、30分煮ます。
5)30分経ったら、火を止め一度室温程度まで冷まします。室温程度になると、染材はほぼ全て沈みます。
ここまでは「煎じるための準備」になります。この時点で染液が多少濁っている場合があります。
6)室温まで下がったらもう一度火にかけ、沸騰後染材が回る程度の火加減、だいたい弱めの中火ぐらいで、1時間~3日煎じます。(多くは2時間~6時間)
煎じている最中に液面が蒸発して下がりますが、これは染材の種類や状態によって、途中で水を足し、液面を一定にする場合、煮詰まって液面が下がるままにする、あるいは、途中までは液面を一定にし、染液の濃度が適正な地点になってから、水を足さず下がるままにするなど調整します。
天然のものなので、個体差があります。
その都度その都度、良く観察して調節することが大切です。
このような仕事に必要なのは決まりきった時間や方法を守ることよりも素材の要求に臨機応変に応答する姿勢、柔軟性です。
途中、アクは掬います。
鍋の内側についた汚れは拭き取ります。
時折、鍋の底から静かに混ぜます。
染材と、染液の色がほぼ同じになると、それ以上煎じても染材の成分が出ないので、それを煎じ終わりの目安にします。煎じ上がりが分り難い場合、15分単位ぐらいで染液の濃度をチェックし、15分たっても染液の濃度が変わらなければそれ以上は染材から成分が出ないので煎じ終わりになります。(その際、液面が一定になっていることがが条件です)
長時間煎じ過ぎると染材が崩れたりし、悪影響があるので染材の成分が出切れば煎じ終わりになります。
7)煎じ終わったら、熱いうちに目の細かいザルで漉して染材を取り除きます。熱いうちに染材と染液を分離しないと、染材に染料分が戻ってしまいます。
8)ザルで漉した後、染液をキッチンペーパー(リードペーパータオルなどの不織布系のものが良いです)を二枚重ねたもので漉します。キッチンペーパーで漉した染液は、漉しきれなかった夾雑物を沈殿させるために一日静置しておきます。
9)キッチンペーパーで漉した後、一日静置した染液を静かに掬って、コーヒーのネルで漉します。
10) 透明で濃度の高い染液が出来ました。この状態で、防腐剤を入れ、室温で保存します。
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*エキス状の染料の場合*
天然染料では、一度煎じたものを、煮詰めて固まりにしたものもあります。その場合は以下の方法で溶かします。
見本は “あせん(カテキュー)” です。
固まりの場合、表面にカビが出ている場合があるので水である程度洗います。固まりが大きかったら金槌などで砕きます。
固形のエキスを粉末にしたものはお湯で溶かしやすいですが、写真のような固まりの場合、溶け難く、鍋底にこびりついたりするのでザルに砕いたエキス染料を置き、熱湯に晒して溶かして行きます。ミソをミソ漉しで漉すような感じです。
今回の場合、鍋一杯に熱湯を張り、砕いた“あせん”をザルに乗せ、火にかけながら固まりの“あせん”を溶かします。
“渋木”のエキスの固まりもありますが、同じ方法で溶かします。
その後はやはりキッチンペーパーで漉し、翌日コーヒーのネルで漉し防腐剤を入れて室温で保存します。
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上記のように作った染料は上澄みを掬って使います。
煎じた染液よりも濃い染液が必要な場合は煎じた染液を火にかけて、半分から三分の一ぐらいまで煮詰めます。室温で保存するには一定以上の濃度を超えると成分が固形化してしまうものもあるので、染材によって可能な濃度は様々です。濃縮した後は同じように漉します。
引き染に使う時には、そのまま、あるいは薄めて使います。
濃色にするには染料を重ねます。
浸染に使う場合、この染料を薄めて使います。
保存しているうちに、液面に膜や結晶が出来たり、容器の壁面に結晶化した成分が付着して来るので時折、容器を洗ったり、保存していた染液をネルで漉し直したりします。引き染に使う場合、使う直前にもう一度漉します。
あまり長く保存すると色が悪くなるので、3ヶ月ぐらいで使い切るようにします。(それぐらいの期間は充分劣化無く持ちます)
染液の濃度を一定にして作り置きしておくので、引き染でも、浸染でも色をつくった染料を“割合”で把握しやすく便利です。(例えばこのグレーは、“矢車附子1:あせん2” の色、というように)
もちろん、化学染料よりは同じ色を再度出すことはむづかしいですが、同じ生地、同じ染液であるなら、この方法だとかなり近いものが出来ます。
煩雑な天然染料の作業の下準備をしておくこと、安定させることによって染だけに追い回されず、文様やその他、染の実務以外の仕事にエネルギーを向けることが出来ます。
仕事によっては、天然染料を煎じてすぐに使った方が良い場合があるのでその場合は煎じてすぐに染に使います。
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