小説「ムメイの花」 #22感性の花
好奇心を持つには?
好奇心って興味を持つことだよな?
足りないのは好奇心……
僕の頭の中は
好奇心についてでいっぱいだった。
『♡VANILLA ONLY♡』と
貼られた奥の部屋で
バニラが何か作業をしながら
僕たちに問いかけた。
「ところで、アナタたちは何をしに来たの?」
「アルファがね、
花の意味を探していたんだけど、
答えに悩みすぎて
アルファじゃなくなっちゃったんだ!
花の幽霊の仕業だから
お祓いをしてもらいに来たんだよ!」
「お花の意味?
よくわからないけど、
お花の幽霊さんが側にいるなんて
最高じゃない!」
トンキュルトンキュル。
瓶が入った木箱を膝に乗せ、
バニラは部屋から出てきた。
再び開始された香りを抽出する作業。
心地良い香りたちが集められ、
不揃いの瓶にどんどん詰められていく。
「ああぁ!」
ブラボーがやっと目を開け、
バニラを見て飛び起きた。
「グッドモーニスタ、ごきげんよう」
「う、噂の……霊……」
「おだまり!何万回言えば気が済むのよ!
まぁそんなにまだ言ってないんだけど。
誰か教えてあげて」
僕とチャーリーは
ブラボーに近寄って大きな体を支えた。
「ブラボー、スッキリした顔してるぅ」
デルタは寝起きの顔を
すかさず写真に収める。
寝起きの顔なんて
撮られたくなかっただろうに。
「不思議と眠っている間、
とっても良い香りがして癒されたんだ。
目覚めもスッキリな感じ」
「香りをくれるお花には
誰もが本当の姿になってしまうわね」
バニラはご機嫌な様子で口角を上げた。
花は黙り続けて、僕には
本当の姿を見せてくれないのに。
「花が黙り続けると感じるのは、
アナタが受けとっていないからよ」
「何の話?受け取る?」
チャーリーは聞いた。
「アナタ。花1本のジェントルマン」
バニラは僕の方に視線を向けた。
「僕?こころが読まれてるの?」
「冗談よして。読めるわけないじゃない。
ただ、五感で感じたのよ。
お花の声を聞くときと同じように」
「霊媒師だから聞こえるの?
シックスセンスってやつ?」
「五感と言っているじゃない。
アナタ次、霊媒師と言ったら
デコピンからのチョップ決定だからね!」
バニラは目を閉じて大きく息を吸った。
「五感を研ぎ澄ましてお花の声を感じる。
お花語っていう言語はないの。
それはアナタにしか、
そしてアタシにしか理解できない言葉」
「花の声がわかったらどうなるの?」
チャーリーは会話に割って入る。
「お花の声を感じたら、
一緒にお歌を歌えばいいのよ!
ルゥルゥルゥ〜って!
ほら、こころにもお花が咲くでしょ!」
「こころに花ぁ」
デルタは下を向き、
自分の胸に向かってカメラを向けた。
「花は土に根付くものだけじゃなくて、
こころにも咲くのか!」
チャーリーも目を輝かせている。
ブラボーは……
今や花の魔法にかけられた長身のオトコ。
この様子をずっと微笑んで見ている。
「こころに花?数字の世界より難しい……」
感情がない僕に、五感を使えだなんて。
みんなとは違い、素直になれない僕に
バニラは言った。
「今アナタが持っているお花も
五感を使ってみなさい?
感情と感覚は別物よ?」
僕も知らぬ間に花の魔法に
かかっていたんだろうか。
ぼそっとこんな事を言っていた。
「花はこころにも咲くならば、
こころがあるところに花は咲く」
「こころを持つって最高にハッピーじゃない!」
右手の花も、なぜだ。
今はいつもと少し違って見える。
「声を感じ、こころにお花が咲くと
目の前のお花の見え方も変わるの。
あ!それがきっとお花の意味のヒントだわ!」
……ヒント?
きっとバニラは
花の答えを握っている。
知りたい。答えを知りたい。
答えは好奇心なのか?
好奇心の存在を知った今こそ
直接聞いてみなきゃ。
そう決めてから、
言葉にするまで時間がかかった。
こういう事こそ、
こころを読んで答えてくれたらいいのに。
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