【読書記録】対話型ファシリテーションの手ほどき─国際協力から日々の日常生活まで、人間関係をより良いものにするための方法論
今回の読書記録は、認定NPO法人ムラのミライ代表理事・中田豊一著『対話型ファシリテーションの手ほどき』です。
対話型ファシリテーションとは?
本書は、認定NPO法人ムラのミライ(旧団体名:ソムニード)が開発したメタファシリテーション®を学んだ際に紹介いただいた一冊です。
本書の紹介ページでは以下のように紹介されています。
また、対話型ファシリテーションとはメタファシリテーション®︎の別名であり、ムラのミライでは以下のように紹介されています。
このメタファシリテーション®︎を紹介している書籍として、『途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法』があります。
今回、読書記録に取り上げた『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)について身近な事例を交えた入門書と言えるものです。
「なぜ」「どうして」を使わない質問法
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)の特徴的な点に、「なぜ(why)」「どうして(how)」という質問を使わずに、「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」という5W1Hの内の4Wを活用しながら、相手に質問していく点があります。
ここには、私たちが誰かにものを尋ねられ、それに答える際のある種のパターンが関係しています。
相手に考えさせてしまう「なぜ」「どうして」という問い
「なぜ」「どうして」と尋ねられるとき、それも何かネガティブな問題に対して尋ねられると、どうしても人は自分を守るために言い訳を準備してしまうことがあります。
「どうして、今日は遅刻したの?」
「なぜ、そんなことをしたの?」
このように問われたとき、人は返答を返すものの、その質問によって心地よく尋ねられた側も改善に向かえるかは、わかりません。
遅刻の例で言えば、
「昨日は何時に寝たの?」
「寝る前まで何をしていたの?」
などの具体的なシチュエーションを尋ねていくことで、遅刻した本人も意識していなかったポイントが浮かび上がってくることがあるかもしれません。
「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」という問いは、「なぜ(why)」「どうして(how)」よりも誰もが簡単に答えやすく、解決したい課題について具体的な事実を浮かび上がらせることができる、パワフルな問いになり得るのです。
気持ち・感情、意見・考え、事実を区別する
こう質問されたら、あなたは何と答えるでしょうか?
など、さまざまな答えがあるかもしれませんね。
それでは、こう尋ねられたらどうでしょう?
実は、「いつも食べている」と思ったものとは違った答えが浮かび上がってくるかもしれません。
また、朝食を尋ねる際に、以下のような質問を用意すると、それぞれどのような違いが見えるでしょうか?
「あなたが好きな朝食は何ですか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人はその人の気持ちや感情に基づいて返答しています。
「あなたはいつも朝食で何を食べますか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人は自分が普段こうしているだろうという意見・考えに基づいて返答しています。
「今朝、あなたは朝食で何を食べましたか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人は今朝、具体的に何を食べたのかという事実に基づいて返答しています。
そのため、上記の3つの質問を整理すると以下のように表せます。
尋ねる側は使いやすい「どうだった?」
「〇〇はどうだった?」は、私たちの日常の中ではとても多く使われる質問です。
ところで、いざ「どうだった?」と問われたときに答える側は何について具体的に答えれば良いのかわかりません。
旅行であれば食べた料理、訪れた観光地、一緒に行った友人とのコミュニケーションなどさまざまな答えるポイントがあるのですが、尋ねた側にどんなことを伝えて良いのか判別できません。映画についても同様です。
このように、「どうだった?」は尋ねる側はとても気楽に使える問いであり、答える側に考えさせる問いです。
本人にそのような意図がなかったとしても「どうだった?」と尋ねることで、「一応は気にかけているんですよ」とメッセージを発し、次の瞬間別の話題に持っていくこともできてしまいます。
本書中では、開発途上国から対話型ファシリテーションを数週間から数ヶ月にわたって学びにきた公務員やNGO職員との以下のようなエピソードが紹介されていました。
事実確認から気づきを促す
以上、「なぜ(why)」「どうして(how)」という質問を使わないポイントについて確認してきました。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)は、「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」を相手に質問することで具体的な事実を浮かび上がらせ、積み重ねていくことで相手への気づきを促します。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)が生まれた背景には、途上国における支援の中で、現地の人々と支援者である国際協力組織やNGOの職員とのコミュニケーションがありました。
本書中でも、著者・中田豊一氏と和田信明氏それぞれの質問の仕方について、エピソード事例も紹介されています。
質問の違いによってどのような変化が起こりうるか、まず中田氏の事例を紹介した後、和田氏の事例を簡潔にまとめた形ではありますが、紹介します。
中田氏の事例(事実を元にしたストーリー)
和田氏の事例:ラオスでのエピソード
続いては、和田信明氏のストーリーです。これは、著者の中田氏が和田氏の事実確認インタビューを初めて目撃した際のエピソードとのことです。
メタファシリテーション®︎の定義
以上のような事例を見比べてみると、「なぜ(why)」「どうして(how)」を使うことは尋ねる側、尋ねられた側の思い込みや意見に焦点が当たってしまい、本来手をつけたいはずの課題に届かず会話が上滑りになっているような印象を受けます。
一方で、和田氏の質問はどれも相手が答えやすい事実を尋ねる質問ですが、尋ねた相手の盲点を浮かび上がらせるように働いていることが確認できます。
「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」を用いた事実確認の質問は、尋ねる側・尋ねられる側双方に解釈の違いや幅を発生させず、私たちが今ある現実を認識することを助けてくれるものだと感じられます。
上記のような気づきも振り返ってみると、以下のような和田氏・中田氏によるメタファシリテーション®︎の定義もより理解が深まるように感じました。
開発秘話:純粋な興味を持って尋ねる
本書『対話型ファシリテーションの手ほどき』を読み進める中で印象に残ったのは、このメタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)を国際協力の現場で実践しながら体系化してきた和田氏の気づきに関するエピソードでした。
1990年代半ば、インドのある村で和田氏はこう考えたそうです。
そして、山岳少数民族の村の家々を巡りながら、家計事情をインタビューしていったとのこと。
結果として、尋ねた先のご主人は借金の状態なども包み隠さずどんどん話はじめ、家々の家計は丸裸状態に。和田氏としてはかなり執拗に家計について尋ねていたと恐縮し、「立ち入ったことをあれこれ細かく聞いて申し訳ありませんでした」と謝りました。
すると、当のご主人は「いやいや、いろいろ聞いてもらって楽しかった。改めてわかったこともある。話を聞いてくれてありがとう」と話され、近くでやりとりを聞いていたご近所さんも「で、俺のところにはいつきてくれるんだ?」と話されたそうです。
この時、和田氏はこんなふうに感じられたそうです。
これに勇気を得て、和田氏は迷いなく実践訓練を積み重ねることができ、結果として手法が確立してされたそうです。
目の前の相手に純粋に興味や関心を持って尋ねること。これは、あらゆる対人関係を築く上でも最も基本的なことです。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)とは、その上で磨かれ、体系化された方法論であるのだな、と再認識できました。
参考リンク
以下、さらに学びを深めるための参考リンクです。
認定NPO法人ムラのミライYouTube
ムラのミライ【初級】メタファシリテーション講座
『途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法』
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