レポート:本を通して新しいパラダイムの組織を学ぶ〜ティール組織ラボブッククラブ5月編『コーポレート・レベルズ』
今回は『ティール組織ラボ』が主催した、ヨースト・ミナー&ピム・デ・モーア著 『コーポレート・レベルズ:Make Work More Fun』を扱ったオンライン読書会のレポートです。
今回の企画は、株式会社コパイロツトに所属するABD認定ファシリテーターの長谷部可奈さんをファシリテーターとしてお招きし、『ティール組織ラボ』編集長・嘉村賢州さんからは今回の企画の位置付けや『コーポレート・レベルズ』に関しての紹介を、木戸伸幸さんがファシリテーターのテクニカルサポートを担当される形で進められました。
本企画に関する前提共有
ティール組織ラボとは?
2023年12月、『ティール組織ラボ』というティール組織(Reinventng Organizations)をはじめとする進化型組織の情報ポータルサイトが公開されました。
2018年1月のフレデリック・ラルー著『ティール組織』出版以降、国内では新しい働き方・組織運営のあり方に関するムーブメントが巻き起こり、『ティール組織』をはじめとする様々な情報が積極的に発信されるようになると同時に、実際に書籍などの情報もとに実践する企業・団体が多く現れました。
そして、2023年現在。国内における『ティール組織』の概念の急速な広がりや実践の増加によって生じたさまざまな状況について、落ち着いて振り返る時期が訪れつつあります。
さまざまな状況の例としては、以下のようなものが挙げられます。
一方で、海外に目を向けてみると、まだまだ日本では一般的になっていない『ティール組織』に関するウェブサイトや、企業における豊富な実践事例が多数存在しています。
このような背景のもと、国内の状況にもったいなさを感じていた嘉村賢州さんはフレデリック・ラルー氏に『ティール組織』に関する情報を統合して閲覧できるメディアづくりについて提案し、ラルー氏もこの提案に賛同されたことから、ポータルサイトづくりが始まったとのことです。
昨年12月にオープンした際は、公開記念トークイベントも開催されました。
なお、『ティール組織ラボ』とは、情報ポータルサイトの名称でもあると同時に、ティール組織やソース原理(Source Principle)などの新しいパラダイムに基づいて運営される組織・コミュニティのあり方を研究する有志の研究団体の名称でもあります。
有志の研究団体としての『ティール組織ラボ』は、2020年頃からティール組織に関する講座作り・実施や、国内外の情報を集めるポータルサイトのオープン・情報発信を行ってきました。
今回、実施されたアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)形式での読書会も、このような取り組みの1つです。
読書会の背景について、ティール組織ラボ編集長・嘉村賢州さんからは以下の記事を紹介いただきました。
本記事では従来型の延長線ではない、新しい組織運営のあり方に関して述べられた書籍の年表が紹介されており、現在も新しい書籍が見つかるたびにコツコツ更新されているといいます。
そして、この年表を眺めてみると、2014年のフレデリック・ラルー『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』出版以降、海外では何冊もの新しいパラダイムに基いた組織づくりの書籍が出版され、大きな潮流となりつつあることが見て取れます。
このような、従来の延長線上にはない新たな組織運営のパラダイムの視座が得られ、解像度が高まるような本を選んでABDを行うことで、共通言語を作り、皆で学んでいこうという思いのもと、今回のブッククラブも企画されたとのことでした。
このブッククラブのシリーズは、これまで第1回『ヒューマノクラシー』、第2回『フリーダム・インク』、第3回『関係の世界へ』に続き、第4回目にあたります。
今後も継続的に、このような場は開催していく予定とのことです。
コーポレート・レベルズ
コーポレートレベルズとは?
コーポレート・レベルズ(Corporate Rebels)は、『Make Work More Fun(仕事をもっと楽しく)』をタグラインとし、ピム・デ・モーア氏(Pim de Morree)とヨースト・ミナー氏(Joost Minnaar)によって設立されたオランダ・アイントホーフェンの企業です。
あらゆる先進的な取り組みを行なっている企業へ訪問・取材し、動画コンテンツや記事を作成・発信するメディア運営を行なっている他、ハーバード・ビジネス・スクールとの連携・協働、ネル・グループ(NER Group)やビュートゾルフ(Buutzorg)、ホラクラシーをはじめとする経営モデルをコンテンツ化したメンバーシップ(学習コンテンツプラットフォーム)の運営を行なっています。
また、コーポレート・レベルズのユニークな取り組みとして、スペイン・ビルバオに拠点を置くネル・グループ(NER Group)と共同でプライベート・エクイティ・ファンドKRISOS(クリソース)を設立・運営していることが挙げられます。
スペイン語で、サナギから蝶へ変容するプロセスを示すという語から名付けられたKRISOSは、ある企業を買収した後、企業再生の中で進化型組織へ変容、従業員に売却するというスキームを構築しています。
このようにコーポレート・レベルズは、アカデミックな研究だけではなく企業再生の実践という両輪の実現に取り組んでいます。
コーポレート・レベルズと翻訳者・山田裕嗣さん
今回のブッククラブで扱った『コーポレート・レベルズ』の翻訳者・山田裕嗣さんは株式会社令三社の代表取締役であり、r3s magazineという国内外の企業の組織づくり事例を取材し、紹介するメディアを運営されています。
また、山田さんは令三社創業メンバーである青野英明さん、嘉村賢州さんと共にトム・ニクソン著『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』(英治出版)を翻訳出版された方でもあります。
r3s magazineそのものもコーポレート・レベルズに着想を得て始めたという山田さんは、コーポレート・レベルズの創設者2人(ピム、ヨースト)と書籍の翻訳以前から協働関係を築いていました。
r3s magazine内でコーポレート・レベルズの英語記事を日本語訳して紹介する・ピムとヨーストの来日時には国内企業への取材のアレンジを行うなど、海外の企業事例を国内へ、国内の事例を海外へ発信するため、現在も積極的に活動されています。
また、『コーポレート・レベルズ』翻訳出版時には出版記念ウェビナーを開催され、ウェビナーの模様はログミーBizの記事となっている他、令三社YouTubeでも公開されています。
今回、なぜ本書を扱ったのか?
ティール組織ラボ編集長の賢州さんにとって、海外の新しいパラダイムに基づいた組織づくりの情報を得るリソースは、長らくEnlivening Edgeというポータルサイトでした。
しかし、ある時期を境に、より精力的に情報発信を行っているサイトとしてコーポレート・レベルズが検索に引っかかるようになり、チェックするようになったと言います。
共に海外の組織づくりの探求を進める仲間である山田裕嗣さんを通じてコーポレート・レベルズについて詳しく知っていく中で、創設者である2人がこのような領域で新進気鋭の若手の研究者であることもわかってきました。
そんな2人がどのような視点で組織づくりについて眺めているのか?を探求するべく、本書を選んだとのことです。
また、本書では著者である2人が世界中の組織……中小企業から上場企業、非営利団体や政府機関、歴史や伝統のある企業からスタートアップに至るまで、さまざまな組織を巡る中で見えてきた8つのトレンドが紹介されています。
それは、以下のようなものです。
また、賢州さん自身も進化型組織を探求するための8つのテーマをまとめつつあり、2024年5月現在、丸の内オアゾ内の丸善本店にて8つのテーマに関連して選書されたブックフェアが開催されている最中でした。
『コーポレート・レベルズ』を読み進める際、このような切り口の違いを比べてみても面白そう、とお話しされていました。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)とは?
アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎の概要
現在、Active Book Dialogueの頭文字を取ってABDの愛称で親しまれているアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎は、ファシリテーションの技法・哲学を読書会に活かす形で生まれた新しい読書手法です。
一冊の本を複数人の参加者同士で分担して読み、要約し、プレゼン発表を行なった後、パワフルな問いをもとに対話を進めるという、参加型ワークショップ的な進め方が特徴です。
現在のABDの原型は2013年、現・一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会代表の竹ノ内壮太郎さんがエドワード・デシ『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』の読書会を継続的に実施している際に、参加者の間でより生成的な学びを生み出していくためにさまざまな試行錯誤を続ける中で生まれたと言います。
一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会は、このABDという読書法を通じて『草の根の集合的な学びの広がり』と『書籍の叡智を誰もが分かち合い、対話し、繋がりあえる未来』を実現していくために設立されました。
現在は、今回実施する認定講座の実施の他、出版社や大学など様々なセクターとの協働、ABDに関する情報提供、書籍への寄稿などを行っています。
どのような場面で活用されているか?
アクティブ・ブック・ダイアローグ協会は2017年、ABDの実施方法についてのマニュアルの無料公開を開始しました。以降、現在に至るまでさまざまな場所で実施事例が報告・紹介されています。
大学のゼミ活動・研修会、中学・高校の国語や総合学習の授業、まちづくり現場での勉強会、有志の読書会など、全国各地で新しい学びや読書の体験として受け入れられられている他、最近では企業内での研修・勉強会の場に応用し、共通体験を通したチームビルディングや共通言語作りといった目的でも実施されています。
さらに、近年のコロナ禍においてオンラインでのコミュニケーションおよび学びの場づくり、ワークショップ実施の需要が高まったことから、対面だけではなく、オンライン上でABDを実施する事例も増えてきました。
ABDに関するお問合せ等は、こちらをご覧ください。
今回のABDのプログラム構成
ABDはその目的、選書、参加者の集まり方、活用できる時間などにより、さまざまなバリエーションの実施方法が存在します。
今回のプログラムは以下のように構成されていました。
チェックイン(小グループ×3回)
趣旨説明(嘉村賢州さんより)
リレープレゼン(3〜4人ごとに1分ブレイク)
ギャラリーウォーク(ペアになって感想共有)
ダイアログ(小グループ、その後全体で)
チェックアウト(全体で感想共有)
今回、扱った範囲は『訳者まえがき』『推薦の声』『謝辞』『脚注』を除く『コーポレート・レベルズ』丸1冊分。
書籍の購入と担当部分のまとめを当日までにGoogleスライドに入力しておき、サマライズ(読み込みと要約)を事前に終わらせておくスタイルでした。
以下、参加者の皆さんがダイアログの中で扱われたテーマや話題についても抜粋して紹介できればと思います。
対話の中で扱われたテーマや視点
8つのトレンドをどう見るか?
全体対話の中では、主にコーポレート・レベルズで紹介された8つのトレンドについて扱われました。
8つのトレンドでは、以下のように従来型の組織運営のあり方から新しいあり方への移行の傾向が見て取れたと紹介されており、本書中ではそれぞれのトレンドの実践に関して企業事例も掲載されてました。
全体対話の初めでは、そもそも、新たな選択肢としての右側の項目も、従来型の組織運営では行き詰まりに陥ったり、うまく行かない事態が発生した中の試行錯誤で生まれてきたものではないか?従来型の組織づくりのあり方、新しく生まれつつあるあり方のどちらかだけに偏るのではなく、双方をバランスよく眺めていくことが重要ではないか?と投げかけられました。
従来型の組織づくりのあり方の「わかりやすさ」
この点に関連し、続く対話の中では、従来型の組織づくりのあり方にある「わかりやすさ」についても扱われました。
従来型の組織づくりには、明確な管理、予測、計画、利益目標など数値化することができる指標が手がかりになる一方、新しく生まれつつある組織づくりのあり方にはどうやってめざすのか、難しいものも見受けられます。
ある参加者の方からは、組織の変革の中で「利益重視」の方針から「利益を追わず、パーパスに向かうことを重視する」へと方針転換がなされたことにより、喪失感や戸惑いを感じられた方もいらっしゃったと紹介いただきました。
なお、この事例を共有いただいた方自身は「パーパス実現のためには、利益も大事だよね」というメッセージも同時に受け取っていたため、大きな混乱に陥ることなく対応してくることができた、とお話しされていました。
従来の延長線上にない組織づくりにもまた、2種類の考え方
対話を進める中で賢州さんからは、トレンドの右側にある世界観・組織づくりにもさらに2種類あるのではないか、とお話しされていました。
1つは、創造的な人だけが右側に向かうことができる、という考え方・世界観。
もう1つは、右側の中でも創造的な人、フォロワー的な気質の人の組み合わせが起こり、協力しあっていけるという考え方・世界観。
従来のパラダイムでは、フォロワーとして着いていくにも選択肢の少なかった状態から、フォロワー気質の人であっても、どのような創造性を持つ人と一緒にやっていくかを選択できるような世界。
そんな世界を考えることもできるのではないか?という投げかけがありました。
また、トレンドにおける右側・左側のどちらかだけに偏って組織の変革を訴えた場合、考慮されていない側からの反発も起こり得ます。
そのため、双方の価値やメリット・デメリットを眺めつつ、各組織に適した形で取り入れていくのが良いのではないか?というお話もありました。