【読書記録】『ティール組織』の源へのいざない―組織の進化への旅路をつむぐ
2018年1月24日に英治出版より「ティール組織」が出版されて以来2年が経ち、500ページを超える分厚い本の存在や、5段階の組織のモデル、「ティール組織」に至るための3つのブレイクスルーポイントとして紹介された「自主経営(Self-management)」、「全体性(Wholeness)」、「存在目的(Evolutonary purpose)」というものについての認知度は広がったように思われます。
このnoteを書き始めたとき、試しに検索エンジンGoogleで「ティール組織」を検索すると、約67万件がヒットし、「ティール組織」としてメディアに取り上げられる企業、団体もみられ、さらにティール組織づくりのためのノウハウ、サービスも現れてきていることからも、良くも悪くも広く、そしておそらくは表面的に「ティール組織」というものが広がったようにも見受けられます。
そういった流れの中、昨日(2020年7月30日)に出版された『「ティール組織」の源へのいざない〜組織の進化への旅路をつむぐ〜』。
本書は、「ティール組織」の解説を務め、著者フレデリック・ラルー氏より日本における「ティール組織」のムーブメントの『ソース(Source=源)』として指名された嘉村賢州さんと、天外伺朗さん、また、この書籍の元となったセミナーにゲストとして参加された武井浩三さんらと共に編纂されたものです。
今回は、本書について簡単にご紹介できればと思います。
※ソースについては、以下の回想録及びForbes JAPANの記事も参照ください。
場とつながりラボhome's viとは?
特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『未来のあたりまえを今ここに』をパーパスとして掲げ、社会の一人ひとりが幸せになれる組織づくり・仕組みづくり・コミュニティづくりに挑戦する、場づくりの専門集団です。ティール組織解説者・嘉村賢州が代表を務めている団体でもあります。
2008年に設立されたhome's viはこれまで、国内外のさまざまなファシリテーション技法やコミュニケーション技法の調査研究と2014年以降の継続的な連続講座シリーズの実施、そして、これらの手法を用いたまちづくり活動、大学での講義、企業研修、組織変革といった活動に取り組んできました。
home's viの代表理事を務める嘉村賢州さんは、集団から大規模組織に至るまで、まちづくりや教育などの非営利分野から営利組織における組織開発やイノベーション支援に至るまで、規模の大小や分野を問わず、年に100回以上のワークショップを実施するファシリテーターとしての活動を積み重ねてきた、国内のファシリテーション実践の先駆者でもあります。
また、home's viのメンバー一人ひとりも独自の専門性を探求する経験豊かなファシリテーターであり、多くのメンバーが以下のような書籍に事例やファシリテーション手法に関する寄稿を行い、一人ひとりが本当にその人らしい個性を発揮し、活かしあいながら化学反応を起こしていくためのアイデアを紹介されています。
以上のように、年に100回以上の対話の場づくりを行ってきた賢州さんですが、ある時から「折角いい対話が生まれても次に繋がらない」「働いている人の本当に多様な個性を生かせていない」と、感じるようになったと言います。
そして賢州さんは、以下のような問いに突き当たりました。
このような中で賢州さんが出会ったコンセプトが「組織の問い直し」であり、フレデリック・ラルー氏の著した『Reinventing Organizations(組織の再発明)』でした。
2018年に邦訳出版された『ティール組織』(英治出版)は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞、2019年にはフレデリック・ラルー氏の来日イベントも開催されました。
また、ラルー氏が来日時に組織における役割の一つとしてソース(Source)について言及されたことをきっかけに、ソース原理の探求も始まり、賢州さんは山田裕嗣さん、青野英明さんと共に『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』の翻訳に携わることとなりました。
ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)が生み出し、彼から学んだトム・ニクソン氏がソース原理について体系的に著した『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」の入賞も果たし、ビジネスの領域においての注目も高まっていることが見て取れます。
このような背景と経緯の中、ソース原理(Source Principle)の知見は少しずつ世の中に広まりつつあります。
ティール組織(Reinventing Organizations)
『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。
フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。
この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。
国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん、吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。
2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。
フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。
また、2023年現在。フレデリック・ラルー氏の賛同と国内の有志によってティール組織および進化型組織の情報ポータルサイト『ティール組織ラボ』がオープンしており、上記のビデオシリーズの情報をはじめ海外の最新の知見も毎月更新されています。
私自身の実践について
本書の読者である私は、場とつながりラボhome's viと言う団体において、ティール組織をはじめとする海外での次世代型組織の事例研究をするほか、「ホラクラシー」という組織運営手法の事例紹介、およびファシリテーターとしての実践を行ってきました。
本書に収録されているセミナー内容には、嘉村賢州が代表を務めるhome's viのティール組織化へ向けた泥臭いプロセスも語られているため、活動を共にしていた私自身はなんとも恥ずかしいような、こみ上げるような、少し誇らしいような、複雑な感情と共に読み進めることになりました。
「ティール組織」出版前後、ティール組織解説者・嘉村賢州は自分の組織に対してどう動き、どう振る舞ったか…?
home's viのメンバーは、どのようにそれを受け止めていたのか…?
組織全体として、何が巻き起こっていたのか…?
一部当事者として、本書の12章は、ぜひご一読いただければ幸いです。
ティール組織と「責任」についての議論
本書にて印象的だった点は、「自主経営(Self-management)」における当事者性、責任といったものについての議論がセミナー内で繰り広げられているのですが、以下のような嘉村の言葉です。
最後に。この本から生まれた問い
一通り読み終えてみての感想として感じたことは、この本1つを読み深めることで「ティール組織」や、そのような組織運営形態を目指していけるものではない、ということです。
むしろ、この本を読んだことから、
「私たちはどうしてティール組織というものに惹かれるのだろう?」
「私自身の本当の願いを知ったとき、ティールに限らず、どのような組織で働くことが一番なのだろう?」
「どうすれば、私たちの組織がヘルシー(健康的)に運営されていくのだろう?」
という、対話を生み出すきっかけとなる本のように思います。
本来であれば、もっと早くに出版されるはずであった本書が、様々な流れの中で、コロナ禍真っ只中の現在に出版される、というのも、何か縁があるように思います。
強いリーダーシップによる決断と実行、自律分散的にメンバーそれぞれが責任を持って動く、など、各組織においてこの苦境を乗り越えるための最適解や仮説はそれぞれだと思いますが、今一度、この本をきっかけに私たちはどんな組織で働いていきたいか、生きていきたいか?の考えを深めてみるのも、良いのかもしれません。