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レポート:「これくらいできないと困るのはきみだよ」?読書会
今回のレポートは、勅使川原真衣さん編著『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』の出版後、(おそらく)世界最速の読書会に参加した際の記録です。
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当日イベントページはこちらからどうぞ
「この本、読んでみたい」という1人の声から始まったという今回の読書会。
その注目度は恐ろしく高かったようで、facebookで公開されたイベントページには120名を超える「興味あり」の方がいらっしゃいました。
読書会の主催者の中に友人のはるくんこと石橋智晴さんがいたということと、本書のタイトルに惹かれ、今回参加することに決めました。
以下、参加してみての気づき・学びなどについてまとめてければと思います。
『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』
今回の読書会で扱うこととなったのは、勅使川原真衣さん編著『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』(東洋館出版社)です。
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本書は「これくらいできないと困るのはきみだよ?」と学校の先生方が言わざるを得ない状況・構造はいかにして生まれているのか?について、勅使川原真衣さんが野口晃菜さん、竹端寛さん、武田緑さん、川上康則さんといった教育・福祉の専門家・実践者の方々との対話を進められた末に出来上がった一冊です。
編著者の勅使川原真衣さんは、『働くということ 「能力主義」を超えて』 (集英社)、『職場で傷つく~リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)、『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)等の書籍の著者であり、本書は『「能力」の生きづらさをほぐす』出版時に読み広げられていたのが学校の先生方だった、という書き出しからスタートしています。
そして、以降も『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』の中では勅使川原さんのこれまでの書籍での記述がたびたび言及されています。
勅使川原さんの背景については、以下の記事にも詳しく紹介されています。
読書会の進め方
読んでない方も大歓迎の読書会
今回の読書会は「読んでなくても参加できる」読書会という、一風変わった読書会でした。
今回の読書会の開催は『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』出版の2日後であり、よほどの方でなければ一読して臨むことが難しい(おそらく)世界最速の読書会でもありました(笑)
実際に当日の参加者の方々の中には『今日の帰りがけに本を買ってきました!』という方がいらっしゃったり、主催者の中にも『読まずにきました』という方がいらっしゃいました。
中には『まだ手元に本が届いていません』という方もいらっしゃいましたが、今回の読書会のデザインと関連情報の共有があちこちから寄せられるなどもあり、訪れた誰もが安心して臨める設計になっていたように感じます。
以下、当日共有された関連リンクです。
『一行一会』
『今日の帰りがけに本を買ってきました!』『読まずにきました』『まだ手元に本が届いていません』……そんな方も多い読書会はどのように進められたのでしょうか?
当日は『読書会をやるというのに、読んでこないと困るのはきみだよ?』という前提を超える、『一行一会』という進め方を主催者の1人であるモックン(元木一喜さん)が準備してくださっていました。
まず、既に本を読み進めている方も、まだページを開いていない方も、目次目を通して『ここ、読んでみたいな』という章を考える時間を持ちます。
その後、15分ほど実際に1人でその箇所を読み進める時間を持ち、気になった一行を選びます。
それを全体に向けてシェアしたのち、当日は少人数のグループに分かれて対話が進められていきました。
モックンこと元木さん曰く、『この読書会で大切にしたいのは、知識を得ることではなく、知恵を持ち寄ること』であり、『書籍や選んだ1行を媒介に、共通する興味関心で集まった皆さんと語り合っていくこと』を重視されているとのことでした。
また、当日は簡単な全体シェアの場やチェックイン・チェックアウトの時間もあったため、語り合う時間は決して多くはなかったものの、『もっと語りたい!』が醸成される時間だったように思います。
読書会当日の気づき・学び
ここからは、読書会当日の対話などから得た気づき・学びについてまとめていければと思います。
『一行一会』に収まらなかった文章たち
『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』は、編著者・勅使河原さん含め5名もの方々が自身の専門知識、経験、現場の肌感覚をもとに対話した内容をまとめた書籍であり、カバーしている領域も『学校教育における能力主義』を超えた広範な範囲に及びます。
そのため、中には『一行に選びきれない』『珠玉の一行がたくさんある』といった声も当日は聞かれました。
私自身もその1人で、以下、ざっと読み進める中で気になった文章をピックアップできればと思います。
本当に直感で選んでいるため、その文章の示す文脈や意図についてはぜひ一度皆さんも書籍を読み進める中でご確認いただきたく思います。
通常学級の在り方を見直すことなく、どんどん別の場に行く子どもが増えている。だからある意味、通常学級では同質性が高まっていると思います。異質性が排除されていっているような。
「集団をそろえる」と言う能力観も、20世紀型モデルですよね。つまり、昭和型の集団管理型一括処遇。
抑圧を誘発するような組織、構造があると考える必要があります。学校運営の問題として。
変わるべきは自分ではなく、あくまで(できの悪い)相手である―書くと実に露骨ですが、能力主義に違和感を持たないまま教育や労働を進めていくとは、まさに、そんなことを恥ずかしげもなく主張していることに他なりません。
こうしてみると、改めて「他の方はどんなセンテンスを選んでいたんだろう?」「それらを選んだ背景はどういったものですか?」とついつい尋ねたくなってしまいますね。
「読んでなくても大丈夫」の安心感が醸される場
当日、参加して感じたのは本を既に読んできた方も、まだ読めていないという方も安心して対話に臨める安心感がホールドされている場だな、ということでした。
当日進行されていたモックン(元木一喜さん)のあり方や、主催者であるはるくん(石橋智晴さん)、まっつん(松永陽子さん)たちの関係性の中にある空気感が場に反映されているような、そんな感覚もあったように思います。
当日の最後は、ラスト30分で駆け込みで対話に参加された方もいらっしゃいましたが、チェックアウトの際には「皆さんの話も伺いながら、読めてもいないけど、本の大切な部分に触れられたように思います」といった感想を述べられていたのも印象的でした。
『一行一会』も、より読書会への参加ハードルを下げつつ、その人の興味関心やそこから始まる対話に向かいやすい進め方のように感じられました。
これまでの私は「読んでなくても大丈夫」で「参加した皆さんと一気に一冊読み切る」読書会の進め方としてアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)というやり方で進めるなどもしてきましたが、こちらはより構成的でワークショップ的なものだと理解できます。
おわりに
本書『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』を読み進め、そして皆さんと対話する中で私の中に浮かび上がってきたのは、京都市北区の放課後等デイサービスそらいろチルドレンでの私自身の経験です。
放課後等デイサービスそらいろチルドレンのスタッフとして子どもたちに関わっていたこと、また、その放課後等デイサービスの運営法人の理事を務めていたことを通じて学んできたことが、思わず浮かび上がってきたのでした。
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放課後時間を自分の好きな活動にあてることを尊重し、学校と家以外のサードプレイスとして安心して過ごせる空間づくりが意識されていたそらいろチルドレンでしたが、時に一人ひとりの「伸び伸びやりたい」同士がぶつかりあうこともありました。
そんな時に「どうすればお互いのやりたいを叶えられるだろう?」を子どもたちと一緒に考えたり、子どもも大人も一緒に共有している「そらいろチルドレンが大切にしたいこと」に立ち返ろう、と促していたことが思い出されました。
家庭、職場、学校などさまざまな場所で「望ましい振る舞い」や「よしとされる価値観」は異なりますが、個人的には一人ひとりのあり方がより尊重され、花開いていくようなそんな価値観をもとに制度設計された環境で過ごしていきたいし、そういった環境を増やしていければと感じるところです。
そのためにはもっとお互いの違いについて知る必要があるだろうと、近年では脳の機能に由来する多様性『ニューロダイバーシティ』や、一人ひとりの学びの多様性尊重のあり方『ラーニングダイバーシティ』についても探求を進めていたところでした。
そうした流れで今回の『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』読書会に巡りあったわけですが、今回の読書会をきっかけに数年来の再会が果たせたり、新たなつながりが生まれたりと、本当にありがたい機会となりました。
今後もよきタイミング、よき機会でこの読書会に集った皆さんや、「実はこの読書会、気になってた」という方、『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』についてもっと読み深めていきたいという方とご一緒できると嬉しいです。
さらなる探求のための参考リンク
読書会:「これくらいできないと困るのはきみだよ」?
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