【読書記録】前編:Work with Source
今回の読書記録は、2021年3月に出版された、Tom Nixon(トム・ニクソン)『Work with Source: Realize big ideas, organize for emergence and work artfully with money(『ソースを活用する:大きなアイデアの実現、創発の仕組み化、そして、賢くお金を使うために)』です。
本書の著者であるトム・ニクソン氏は、フレデリック・ラルー氏の『Reinventing Organizations』に共鳴している起業家・コーチであり、ラルー氏とも対話を重ねてきた人物です。
『Work with Source』は、ピーター・カーニック(Peter Koenig)氏の提唱した『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』というコンセプトを、トム自身の経営者としての実際的な視点も踏まえつつ体系的に書籍としてまとめ、2021年3月に出版されました。
『Work with Source』で紹介されている『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』は、近年では『ティール組織』という組織経営に触れ、探求・実践されている方々の間で、少しずつ話題になりつつある概念です。
フレデリック・ラルー氏自身も2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、
『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、この『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』について言及しています。
本記事を書いている2022年8月現在、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』について体系的に紹介されている書籍は、邦訳出版されていません。(※2022年10月末追記。同年10月に邦訳出版されました)
そのため私自身、英文の原著を『DeepL翻訳』や私独自の視点での翻訳を進めつつ、その学びを元に、まだまだ数少ないいくつかの日本語解説等と照らし合わせながら、学びを深めている最中です。
このような事情から、今回の記事はまず、私個人の視点からになりますが、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』を取り巻く国内外のプロセス、その後『Work with Source』の本文の内容を扱い、まとめていきたいと思います。
本書に出会った背景:ティール組織とソース(Source:源)
今回、私が本記事を取り上げるきっかけとなったのは、『ティール組織』を探求してきた人々の中で『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』をめぐるムーブメントが現れ始めたことです。
私自身、ティール組織解説者・嘉村賢州が代表を務めるhome's viという組織において新しい組織運営、あるいは組織経営のあり方について探求し、国内外の現場で実践してきた中で、『ティール組織』、『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』に出会いました。
『ティール組織』ムーブメントを概観する
2014年にフレデリック・ラルー(Frederic Laloux)によって発表された『Reinventing Organizations』。
日本では2018年に『ティール組織』という邦題で出版され、500ページを超える大作でありながら、現在では10万部を超えるベストセラーとなりました。
『ティール組織』は500ページを超える大作でありながら、2023年現在では10万部を超えるベストセラーとなりました。
『ティール組織』では、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。
フレデリック・ラルー氏の調査によって浮かび上がってきた先進的な企業のあり方を基に3つのブレイクスルーとして整理されており、
以上の3つが、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介されました。
そして、この3つのブレイクスルーを実践するために、いくつかの関連書籍も出版されました。
また、ラルーは人類誕生以来の組織構造の変化の歴史を、思想家ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の意識の発達理論・インテグラル理論(Integral Theory)を用いて説明したためか、『ティール組織』出版以降、国内ではケン・ウィルバーの絶版本が再度出版される、新たな邦訳本が出版される等、発達理論および意識の変容に関する書籍が相次いで出版されました。
私自身も、『ティール組織』の事例として取り上げられた『ホラクラシー(Holacracy)』という組織経営法の体得のため、オランダにファシリテーターとしてのトレーニングに向かう等、より良い組織運営および組織経営の方法の探求と国内における普及、実践に取り組んできました。
また、国外に目を転じてみれば、『Enlivening Edge』という次世代型組織に関する事例を調査・研究し、寄稿する情報プラットフォームや、
現在は年に一回程度の頻度で開催されるイベント、『Teal Around The World』といった取り組みが存在しています。
さらに、2022年8月現在。国内のビジネス書コーナーでは『パーパス(Purpose)』が一つのバズ・ワードとなっています。
『パーパス経営』、『パーパス・マネジメント』『パーパス・ブランディング』、『パーパス・ドリブン』『パーパス・モデル』といった具合に、『パーパス〇〇』が次々と生み出されています。
これらの『パーパス(Purpose)』という用語の用法については、既存のミッション、ビジョン、バリューとの棲み分け、位置付けが示されたり、あるいは同一視されることもある等、若干の混乱は見られますが、組織の『パーパス』を意識したビジネス、経営に注目が集まっています。
上記のように、『ティール組織』の出版は、新たな組織像や働き方を実践していくための、ある種のムーブメントを生み出したと言えるでしょう。
※ラルー自身が、『Purpose』をどのように捉えているのかについては、以下の記事も参考になるかもしれません。
『ソース(Source:源)』の概念が国内で初めて語られたのは、いつか?
上記のように国内の『ティール組織』出版に端を発するムーブメントの中、2019年に著者であるフレデリック・ラルーの来日イベント『Teal Journey Campus』が開催されました。
また、『Teal Journey Campus』開催後も、小規模なプログラムが開催され、その中で『ソース(Source)』についての概念がフレデリック・ラルーから語られたと言います。
その時の記録は、『ティール組織』解説者である嘉村賢州氏のブログに残されていました。
上記のブログ記事から、『ソース(Source)』に言及されている部分を参照してみましょう。
私の探した限り、『ティール組織』探求の文脈の中で『ソース(Source)』について言及されたのは、この時が初めてのように思います。
トム・ニクソンとフレデリック・ラルーの議論
なお、『ソース(Source)』の概念および、その生みの親であるピーター・カーニック(Peter Koenig)とラルーが出会ったのは、『Reinventing Organzations』出版以降であり、書籍には反映されていません。
しかし、ラルーは後に『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』というアイデアを自らの考え方の中に取り入れ、
2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で紹介している他、
彼が手掛けたビデオシリーズにおいて『ソース(Source)』について言及しています。
※詳しくは、以下の動画『新しい組織におけるリーダーの役割』をご覧ください。
この背景には、『Work with Source』著者であるトム・ニクソン(Tom Nixon)と『Reinventing Organizations(邦題「ティール組織」)』著者であるフレデリック・ラルーの議論、対話も影響しているようです。
2015年、トムはフレデリックの唱えた『Reinventing Organizations』に対して、『Resolving the awkward paradox in Frederic Laloux’s Reinventing Organisations(フレデリック・ラルー著『組織の再発明』における厄介なパラドックスを解決する)』と題した寄稿を発表しました。
この際トムは、ピーター・カーニックによる長年の企業研究によって得られた考え方(Source Principle)と照らし合わせるような形で『Reinventing Organizations』にパラドックス(逆説)が説かれている事を指摘したのです。
※当記事を翻訳したものはこちら。ご参考までに↓
以前からフレデリックとの対話を重ねていたトムによる寄稿に、さらにフレデリックがコメントを寄せるという議論も加わる中で、フレデリックはこのように述べています。
以降、フレデリックは自説の中に『Source Principle』を取り入れ、自身の手掛けた動画シリーズの中で紹介することにつながったようです。
『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』の現在(2022.夏)
上記、見てきたように、日本国内においてはとても限定的な場で語られた『ソース(Source)』ですが、私自身は『Work with Source』という書籍の出版のタイミングで、初めて直に触れることができました。
この『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』……提唱者であるピーター・カーニック(Peter Koenig)自身はワークショップおよび講演形式で伝えることが多く、ご自身による書籍化は行われていないそうです。
ピーター自ら語る『Source Principle』については、例えば以下の動画(英語)等が参考になるかもしれません。
また、書籍化については、彼のパートナーたちが担うことで実現されてきました。
一冊は、2020年に出版された、ステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)による『A little red book about source』(未邦訳)。
もう一冊が、2021年に出版された、トム・ニクソン(Tom Nixon)による『Work with Source』(2022年9月、邦訳出版予定)です。
海外での出版に際して、英語サイトにはなりますが、『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』に関する情報サイトは現在、2つ運営されています。
2022年8月現在、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』について体系化された書籍は邦訳されておらず、私自身はトム・ニクソン(Tom Nixon)の『Work with Source』を独自翻訳しながら読み進め、その学びを元に、まだまだ数少ないいくつかの日本語解説等と照らし合わせながら、学びを深めている最中です。
現在、私の知る範囲では、国内における『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』探究の入り口づくりを行っているイニシアティブは、大きく2つです。
1つは、『ティール組織』解説者・嘉村賢州が参加し、また、『Work with Source』の邦訳出版プロジェクトを推進している『令三社』。
もう一つは、「自然の畑」からの学びを組織経営に活かす『JUNKANグローバル探究コミュニティ』という、
大きく2つの流れが、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』探求の窓口になっているように思われます。
以上、前置きが長くなりましたが、ここからはトム・ニクソン著『Work with Source』の内容に入っていきたいと思います。
ソース(Source)とは何か?
あらゆる人々がソース(Source)である
ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。
また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。
私たちが生活の中で、人と一緒にアイデアを実現するとなった時、それは様々な形を取って現実に表現されます。プロジェクト、会社、社会運動、芸術作品等もそうでしょう。
そういった取り組みは、本書中においては、アイデアを実現するための展開プロセスである「イニシアティブ(initiative)」と呼ばれます。
ちなみに、イニシアティブ(initiative)は何か大きな取り組みに限ったことではありません。
私たちは日々、大小さまざまなニーズに応えるために、取り組みを始めたり、参加したりしています。お腹が空いたのでサンドウィッチを作ることから、ゼロカーボン経済への移行に至るまで、私たちは様々なアイデアを実現するためにイニシアティブを取ったり、参加したりしています。
このような意味で、ソース(Source)は特権階級だけのものではありません。ソース(Source)は世界のあらゆる場所に存在し、富裕層から貧困層まで、あらゆる階層の人々がソース(Source)として存在しています。
なお、本書中で活用される「ビジョン(vision)」とは、『世の中に何かを生み出したり、変えたりするための、個人の心の中にあるアイデアのこと』を意味しています。
ここまでの用語も踏まえつつ、ソース(Source)について簡単に整理してみましょう。
ソース(Source)は、何かアイデアを実現するために、ある個人がリスクを取った時に自然と生まれる役割であり、そのアイデアの実現のために継続的なプロセスであるイニシアティブ(initiative)を展開し、参画、推進していきます。
イニシアティブ(initiative)はプロジェクト、会社、社会運動、芸術作品、ゼロカーボン経済への移行、サンドウィッチを作ることといった大小様々な形で展開されるものであり、ソース(Source:源)は世界のあらゆる場所に存在し、富裕層から貧困層まで、あらゆる階層の人々がソース(Source:源)として存在しています。
明確さ(Clarity)と疑い(Doubt)の間で
なお、ソース(Source)は、ソース(Source)がめざしてしているビジョン(vision)と深く、個人的に、身体的につながっているものの、イニシアティブ(initiative)がどのように進むのかを正確に知ることはできません。
トム自身、何年も前、最初の会社のソース(Source)が自分であることに気づいて悩んでいたとき、ピーター・カーニックは「ソース(Source)の慢性的な状態は確信ではなく、疑いである」と説明してくれたことがあったと言います。
進むべき方向性が明確になるまでの待っている間、ソース(Source)の責任は聞き続けることです。これは、ソース(Source)自身の創造的なニーズに耳を傾け、自身が利用できる多くの情報源に耳を傾けることを意味します。ソース(Source)の創造的な精神は 、これらの情報を計り知れない方法で処理し、準備が整ったときに明確になります。
この聞き続けることとは、問い続けること、とも言えるかもしれません。
『ソース(Source)は未来を想像し、それを現実のものとします。毎日、彼らは問いかけます。「次のステップは何だろう?」「今、自分にできることは何だろう?」そして、何があっても、必ず次のステップがあることを知っているのです。』
そして、疑い(doubt)の中で明確な判断は、意外な瞬間に訪れるものです。いつ、明確な決断ができるかは、カレンダーに書き込んだり計画することはできないようです。
トム自身もまた以下のように述べています。
『ある日、シャワーを浴びているとき、ランニングをしているとき、朝起きたときなどに、ようやくわかったのです。それは、頭だけでなく、心や腸も含めて、体で感じるような明快さです。ピーター・カーニックが言うように、「知っているときは、本当に知っている」のです。』
なお、このような提案もありました。
『明確になる瞬間が来るまでは、大きな一歩を踏み出さないでください。それはほとんどの場合、後で痛みと、コストのかかる修正を伴うでしょう。』
ソース(Source)とオーサーシップ(authorship)
ソース(Source)とは「あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割」であり、「脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと」と紹介しました。
このような経緯から、ソース(Source)は、私たちがよく知っているような組織の正式な役職や役割とは異なります。誰がその役割を担うかを任命して決めることはできません。それは、最初に何が起こったかを語るときに気づかされ、 認識される、出現する役割です。
ソース(Source)は、ビジョンを実現することを目的とした継続的なプロセスであるイニシアティブ(initiative)と密接な個人的なつながりがあるため、イニシアティブ(initiative)が必要とするものを直感でき、自然なオーサーシップ(authorship:著者・原作者であること、そのことによる権威)を持つことができます。
この自然なオーサーシップ(authorship)は 、ソース(Source:源)に結果として起こることに対する自然で、完全な責任を与えます。
また、自然なオーサーシップ(authorship)について、トム・ニクソンのパートナーでもあるチャールズ・デイヴィス(Charles Davies)は、これをクリエイティブ・オーソリティ(創造的権威:creative authority)とも呼んでいます。これは、伝統的な組織で使われているような、公的な職位に基づく権威ではありません。これは、author-shipのようなauthor-ityであり、この2つの言葉は同じ語源を持っているのです。
この普段、聴き慣れないオーサーシップ(authorship:著者・原作者であること、そのことによる権威)という概念について、トムは本書の冒頭、物語る力、ストーリーテリングの力について力強く語っています。
『人間の心は、ストーリーを語ることで世界を理解するようにできています。私たちが作り、信じ、共有する物語は、私たちの行動のほとんどすべてに影響を与えます』
『私たちのストーリーは、私たちが過去を理解し、共有された現実を創造し、他の人々を私たちと共に巻き込んでいくのに役立っています。ですから、私たちのストーリーは重要です。これは、多くの人々が関わる世界で、目的を持ったアイデアを実現するために必要な創造性に関して、特に言えることでしょう。私たちが力を合わせてこそ、人間の持つ創造的な潜在能力を最大限に発揮することができるのです。』
『私たちは皆、ストーリーを創造し、貢献する能力を生まれながらに持っています。世界に何がもたらされるかを想像したり、何かを実現するためのプロセスを開始したり、他の人が始めた試みに参加したりすることができます。これこそが、ストーリーテリングの実現なのです。』
『多くの人が関わる大きな事業では、会社や社会運動などの創設者の最初の一歩の物語が、参加者の間で語り継がれています。物語である以上、最初に何が起こったのかは、人によって様々な物語があるはずです。多様で曖昧な物語は、人間の文化の豊かな部分ですが、アイデアを実現するためには、明確であることが非常に重要だと思います。[…]言い換えれば、自分が参加するストーリーを理解していれば、より完全に、そして適切に参加することができるのです。[…]重要なのは、客観的に真実の物語を見つけることよりも、価値あるアイデアを実現するための条件を整えるために最も役立つ物語を見つけることです。』
しかし、このようなソース(Source:源)のビジョンやストーリーも、それが重要なものであればあるほど、一人で実現することが難しくなります。
その際、ビジョンの共有およびオーサーシップ(authorship)の共有が必要です。
この時、集団や組織について考えることになりますが、これらのテーマについては以降のクリエイティブ・フィールド(creative field)の章にて扱います。
(中編に続く)
著者来日イベントに関するアナウンス
2022年8月、『Work with Source』著者であるトム・ニクソン氏が来日し、全国各地でイベントに登壇予定です。
出版プロジェクトのメンバーである嘉村賢州氏の投稿を参考に、以下にご紹介させていただきます。
私自身、トムとの邂逅と対話を楽しみにしていますが、ぜひ興味のある方に届きますように🌱
(以下、嘉村氏の投稿より)
【ソース原理に関心をお持ちの皆様へ】
9月にソース原理に関して書かれた英語の書籍「work with source」の
翻訳本が英治出版から発売されます。
私も出版プロジェクトチームに入っております。
それに先駆け著者のトムニクソン氏の来日も決まり
オンライン・北海道・東京・京都でイベントを開催することが決まりました。
もしご興味のある方は是非ご参加ください。
8月8日から11日 経営者リトリート@美瑛 (定員により締め切り)
8月11日(木祝)@オンライン 10:00-11:30 (無料)
8月11日(木祝)@東京 13:30-15:30
8月17日(水)@京都 18:30-20:30
※京都イベントはある程度のソース原理に関する知識をもっていることが
前提になっておりますのでご了承ください。
そのため、8月11日(オンライン)に参加するか、その後配布予定の動画を見ることをお勧めします。
8月22日(月)〜25日(木)@屋久島