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【記事翻訳】フレデリック・ラルー著『ティール組織(Reinventing Organizations)』における厄介なパラドックスを解決する

今回は、『Work with Source』著者トム・ニクソン(Tom Nixon)による、フレデリック・ラルー『ティール組織(Reinventing Organizations)』のパラドックスに言及する英語記事の翻訳および、本記事を取り上げることになった背景等を含めた解説記事です。(英語記事の初出は2015年4月。原文はこちら↓)

トムは、フレデリック・ラルー氏の『Reinventing Organizations』に共鳴している起業家であり、記事本文中でも言及されているピーター・カーニック(Peter Koenig)の提唱した『Source Principle』を書籍としてまとめ、2021年3月に『Work with Source』として出版した人物でもあります。

そんなトムは、フレデリックの唱えた『Reinventing Organizations』にどのようなパラドックスを見たのでしょうか。

また、フレデリック自身もまた、後にピーター・ケーニックの『Source Principle』の考え方を自説の中に取り入れ、

イラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分や、

自身の動画シリーズで紹介している他、

さらに、今回のトムの寄稿に対してコメントを寄せ、そのコメントも追記として掲載されています。

以下、早速見ていきたいと思います。

フレデリック・ラルー著『ティール組織(Reinventing Organisations)』における厄介なパラドックスを解決する

更新:この記事はReinventing Organisationsのコミュニティで広く共有されています。いくつかの小さな修正を加え、最後にフレデリックから直接いただいたコメントを追加しました。

告白(Confession)

私はブリュッセルでフレデリック・ラルーと食事をしていた際、こんな告白をしたことがあります。彼のベストセラー『Reinventing Organisations』は、これまで読んだビジネス書の中で最も優れている。しかし、人に薦める気にはなれない、と。なぜなら、本の中の話と結論が一致しないようなことが、私には起こっていたのです。

フレデリックに会ったとき、私は大きなインスピレーションを受け、私たちは非常に大きな共通点を見いだしました。しかし、私たちは完全に同じ意見を共有することはできませんでした。(Yet we couldn’t get completely on the same page.)それでいいのかもしれません。結局のところ、世の中に「真実」は必ずしも一つしかないわけではないのですから。しかし、反省しているうちに、少しは進歩したような気がするのです。フレデリックや、私と同じように彼の作品に多大なインスピレーションを受けている人たちの役に立つことを願って、これをシェアします。私は『Reinventing Organisations』を強くお勧めします。そして、この記事を補足としてもぜひ活用してください。両方を読み比べてみた上で、対話を深めるためのフィードバックも頂ければ幸いです。

『ティール組織(Reinventing Organisations)』

本書でラルーは、以下に紹介する3つのブレイクスルーを取り入れた、先進的な組織を数多く紹介しています。

全体性(Wholeness):仮面をかぶらず、自分の中の様々な側面や人間性を発揮して仕事をする。

自主経営(Self-management):階層構造や「ボス」による正式な権限が存在しない、自立分散的な経営(decentralised management)

存在目的(Evolutionary Purpose):組織はそれ自身の魂を持ち、時間とともに進化する独立した有機体のようなものであると見なされる。組織は人々によってコントロールされるのではなく、組織がどこに向かおうとするのかを人々が感じ取り、それに従う。

パラドックス(Paradox)

ラルーはこのような組織において、パラドックスを述べています。分散化が進むにつれて、CEO や「トップ」リーダーは、戦略策定、人材管理、業務管理において、公式な権限をますます行使しなくなると言います。しかし、同時にCEOは、先進的な分権化(decentralised)の実践がより伝統的な組織モデルに逆戻りしないように、 「場を保持する(‘holding the space’)」という重要で、そして中央集権的(centralised)な役割を果たす必要があると言うのです。

さらに、すべての先進的な組織のCEOは、非常に先見性のあるリーダーであり、最高レベルのビジョンを設定する上で重要な役割を果たしていることが明確に示されているように思われます。

一方で、ラルーは、これらの組織を熱帯雨林のような生態系のようなもので、「森全体の責任を引き受ける、一本の木は存在しない(‘there is no single tree in charge of the whole forest.’)」と表現しています。しかし、明らかに、創業者やCEOの役割は他のものとは全く異なり、空間を保持するという仕事は、システム全体の健全性のために不可欠です。ですから、実際には真の意味での分散型ではないのです。ラルーの次世代組織のモデルには当てはまらない、厄介なパラドックスなのです。

証拠(The evidence)

この本には、かつて非常に先進的だった企業が、より伝統的な形態に逆戻りした例が2つ紹介されています。どちらのケースでも、先進的なブレークスルーを支えた先見性のある創業者やCEOが、その場を維持する重要な役割から退いたのです。1つはソフトウェア会社で、事業を売却し、新しいオーナーに権限を委譲しました。もう一人のCEOは、前任者から引き継いだエネルギー会社のCEOだったが、比較的小さな問題が生じたときに、株主からそのやり方に対する攻撃をかわすことができなかったのです。

ラルーは、この3つのブレークスルーを実践した最も輝かしい例として、オランダの医療機関ビュートゾルフを挙げています。創業者のヨス・デ・ブロックは、この会社で重要な役割を担っています。彼は、サービスを提供し、新しいアイデアを革新する分権化されたチームに対して、実質的に正式な権力やコントロールを行使していません。この仕組みは非常にうまくいっており、ビュートゾルフは従来の構造を持つヘルスケア業界の同業他社を容易に凌駕しています。

しかし、デ・ブロックの存在は、明らかにすべての人が強く感じています。「ミッション・ステートメント」を成文化するまでもなく、まったく異なる組織モデルを用いて地域医療を変革するという彼の創業時のビジョンを中心に、組織には力強いエネルギーが満ちています。デ・ブロックは、彼のビジョンを実現するためのスペースを確保しながら、それを実現するために必要なすべての力を何千人もの従業員に与えているのであり、それは時にデ・ブロック自身の想像を超えた形で成立しているのです。

ビュートゾルフのメンバーは、デ・ブロックが直接コントロールしなくても、彼のビジョンを実現し、拡大するための方法をどんどん開発し、従来のトップダウン型のリーダーでは決してなしえなかった方法で、ビュートゾルフの影響力を時間をかけて大きくしていくのです。しかし、彼は依然として、最も高次のレベルで全体に対するビジョンを持っているように見受けられます。それは、新入社員の入社式に自ら参加し、彼らが組織の目的を真に理解するように促しているといった実践からも明らかです。パタゴニアのイヴォン・シュイナードもまた、そうしています。これらの創業者は、全体のビジョンが明確であれば、従業員がそのビジョンを自律的に、創造性を発揮して実現できることを知っているのです。

進化する戦略(Evolutionary Strategy)

第三のブレイクスルーは、ヨス・デ・ブロックのような一個人が全体的なビジョンを持っていることから「Evolutionary Purpose」とまではいかないかもしれません。そのような組織で起こっていることは、「進化する戦略(Evolutionary Strategy)」と呼べるようなことでしょう。組織がどこに向かうのかを有機体のように進化しながら、ビジョンを実現する方法を見つけ、中央集権的で形式的なコントロールを必要とせずに、より良い仕事をすることができるようになるのです。組織は有機的に成長し、うまくいっているものを伸ばし、そうでないものを排除していくのです。しかし、全体のビジョンを持っているのは、やはり一人なのです。

この考え方は、ピーター・カーニックが何百人もの創業者や起業家と行った調査と一致しています。よく見ると、どのケースでも(ソシオクラシーやホラクラシーを使った高度な分散型組織も含めて)全体のビジョンを持っているのは常に一人の個人なのです。その個人が認められなかったり、全体に対して責任を持たなかったりすると、必ず問題が発生しています。

組織を超えて考える(Thinking beyond organizations)

最初は、全体に対する個人の権限から完全に解放された、真に分散化された組織を信じたい人にとって、このことは不快で残念な考えかもしれません。産業時代の指揮統制(command-and-control)に逆戻りするように感じられるかもしれません。しかし、これは、組織を私たち自身と全く別の存在として考えることに限定した場合にのみ起こることです。そこには、個々の分散型組織の概念よりもはるかに興味深い、さらに大きな分散型の効果が起きているのです。

人間の組織の境界(edges)は実のところ非常に曖昧なものです。なぜなら、組織の「中」にいる人々はもちろん、大部分を組織の外でも生活しているからです。彼らは他の組織のメンバーでもあります(例えば、「フルタイム」の社員でも、スポーツクラブのメンバーである場合があるのですから)。

人は生活の中で、主に働いている組織の中で、あるいは組織の外で、さまざまな積極的な活動(initiatives)を行っています。

例えば、ソフトウェアエンジニアがオープンソースプロジェクトに貢献するように、人々は一部は職場で、一部は職場の外で活動(initiative)を発揮することもあります。

また、組織が頼りにし、組織の境界(edges)を越えて広がる多くの関係も存在します。ラルーは彼の本の中で、顧客やその他のステークホルダーは、独立した存在やグループではなく、組織の外部に広がるつながりや関係の網を表していると説明してくれており、とても素晴らしい仕事をしてくれたと感じました。

グローバル・ヒューマン・エコシステム(The global human ecosystem)

より包括的な視点として、人類全体をひとつの複雑な、相互に結びついたネットワークとしてとらえることができます(分離された組織の集合体ではなく)。このネットワークの中では、誰もが自分のビジョンを創造し、それを持ち、自分の天命(calling)を生きる可能性を持っています。私たちは皆、自らの人生のビジョンを実現するために、関係やつながりを築き、助けやサポートを求めることができます。私たち一人一人が、自分のビジョンを他の人の助けを借りながら実現し、また、同じように実現しようとしている人に助けを提供することができるのです。

このレンズがあれば、ビュートゾルフのような「組織」を違った角度から見ることができます。ビュートゾルフは世界から切り離された、全く異なる存在であるという考えを手放すことができるのです。私たちは、法律上、組織を別個の存在として見ることに慣れているため、これを行うには多少の精神的な鍛錬が必要です。しかし、ヨス・デ・ブロックは、実際はグローバル・ヒューマン・エコシステムにおける一つの結び目なのだと考えてみてください。ヨス・デ・ブロックは、非常に魅力的なビジョンを持っており、何千人もの人々は彼のビジョンを実現する方法を見つけるために、喜んで集っているのです。ビュートゾルフは、デ・ブロックの人生のビジョンを実現するための継続的なプロセスを描いた物語、オーラルヒストリーのようなものなのです。

この考え方からビュートゾルフを見れば、デ・ブロック以外の誰かが自らのビジョンを実現する機会を減らすことは一切ありません。まさに指揮統制(command-and-control)の対極にある考え方だと言えるでしょう。時には、デ・ブロックのビジョン、ビュートゾルフというストーリーの一部として、自分のビジョンを実現させる人もいるかもしれません。また、それが合わない場合は、外部で実現することもあるでしょう。デ・ブロックは、何がインで何がアウトかということを強く意識しているため、ほとんど権力を発揮する必要がないのです。

ラルーは間違っているのでしょうか?(Is Laloux wrong?)

これは、ラルーが「存在目的(evolutionary purpose)」について完全に間違っていることを意味するのでしょうか?絶対にそんなことはありません。実際、進化していく影響(evolutionary effect)は、彼がこの本で述べているよりもさらに大きな現象なのですから。すべての人間が、世界に現れたいものを感じ取り、創造していることから見られるように、進化は地球規模で息づいているのです。このスケールで捉えると、「組織」というものの周りに人工的な境界線を引くことなく、まさに分散型エコシステムのようなものが存在するのです。

ラルーの研究は、組織に関する考え(organizatioal thinking)を大きく前進させるものです。私はそのことに非常に感謝しています。おそらく、ラルーが考えるように、組織が進化的な目的を持って働けば、個人は次第に組織を超えて思考を広げ始め、その時点でラルーの命題のパラドックスは解消されるでしょう。私は、この認識の基礎の上に、人間の献身的な取り組み(endevour)と、世界に意味のある価値を創造するために協力し合う人間の生来の能力についての理解を深めることができると信じています。

次なる飛躍(The next leap)

次なる飛躍は、現在私たちが知っているような組織に関する考えを超え、人類全体を一つの相互に関連した生態系として考えることだと思います。

これは、ラルーの唱えた「ティール」を超える意識と言えるでしょう。「ティール」という段階においては、組織を別個の存在として見るという単純化をしすぎた部分もあるかもしれませんが、今後、世界はますます複雑化し、相互に連結しているという認識が広がっていくことでしょう。そのような世界に呼応していく(respond to)人間の献身的な取り組み(endevour)を生み出すのに不十分となったとき、「ティール」を超えた意識というものは、発動されるものかもしれません。

私たちは、誰もが自分の天職を見つけ、生きることができるような、機会の豊かさについての考え方を養う必要があります。私たちは、深く思いやりのある人と人とのつながり、そして意味を創造する探求に基づいた人間関係のネットワークにおいて、これを実現することができるのです。

フレデリックからのコメント(Comments from Frederic)

フレデリックがこの記事について送ってくれたコメントを公開することを許可してくれました。以下は、彼のコメントです。

私は、あなたが書いていることに全面的に同意している、と思います。面白いのは、私が創業者やCEOの重要性を強調しすぎていると、かなりの数の読者から言われたことです。しかし、私が彼らの役割を過小評価していると伝えてくれたのは、あなたが初めてです。

誰かが特別な役割を担っていると考えるアレルギーが「グリーン」にあるのはわかりますし、またその認識を気持ちよく受け入れることが「ティール/第二段階(‘Teal’/‘2nd stage’)」であることの一部なのでしょう。そして、組織から生命の網へと視点を変え、私たちは常にあるもののソース(Source)であり、あるもののフォロワー/サブソース(followers/sub-sources)として惹かれている、ということをあなたは見事に表現してくれていますね(brought it out beautifully)。組織への執着を取り払う、実に美しい視点です。この本を書くにあたって、グリーンの平等主義(Green egalitarianism)に陥ることなく、英雄的なオレンジのリーダーシップ(the heroic Orange leadership)を解体しようとするのは簡単なことではありませんでした。

そして、私の深い部分の確信になるのですが、今では私は何か霊的なもの、意志の力、そうあろうと望む何かが、世界に現れる(manifest)ために私たちを使う……ここではソースである創業者やリーダーを使うというものだと考えています。私の視点で言うと、素晴らしいヴィジョンを持った英雄的なリーダーではなく、素晴らしい力(a wonderful force)の方がリーダーを選び、顕現するプロセス(manifestation process)をリーダーに助けてもらっている、と言う感覚です。あなた自身も、この辺りの感覚がとても近いことを示唆してくれているような気がします。

ピーター・カーニックの考え方に出会ったことで、私が「場を保持する(holding the space)」と呼んでいた、組織の目的にチャネリングすることを含む、より良い言葉が得られました。そして、セルフマネジメントの組織(self-managing organizations)では、少なくとも私が見てきた限りでは、その役割さえも軽いタッチで行われていることに驚かされますし、あなたもそれを示唆していますね。ピラミッド型の組織では、多くの意思決定がトップで行われるため、ソースからもまた多くの情報を得たり、話すことが必要になります。

セルフマネジメントの組織(self-managed organizations)では、サブソースのチャネルが突然大きく開かれることがあるのも驚きです。(このことは、リスクが伴います。あなたの視点では、私たちの意見にはもはや差がなくなり、誰もが同じレベルのソースだとみなすことになります。そして、私の経験ではリスクという訳でもありません)(Which carries the risk, in your perspective, that we no longer see any difference and believe that everyone is a source at the same level, which isn’t the case in my experience)。

こうしてみると、私たちは橋をかけたと言うより、同じ場所に立てているような気がします。(It sounds to me like we haven’t just built a bridge, but stand on the same land.)

本記事の背景と解説:ティール組織とソース(Source)

今回、私が本記事を取り上げるきっかけとなったのは、『ティール組織』を探求してきた人々の中で『Source Principle(ソース・プリンシプル/ソース原理)』をめぐるムーブメントが現れ始めたことです。

私自身、新しい組織運営、あるいは組織経営のあり方について探求してきた中で、『ティール組織』、『Source Principle』に出会いました。

『ティール組織』ムーブメントを概観する

2014年にフレデリック・ラルー(Frederic Laloux)によって発表された『Reinventing Organizations』。

日本では2018年に『ティール組織』という邦題で出版され、500ページを超える大作でありながら、現在では10万部を超えるベストセラーとなりました。

それほどに、国内においても『組織の再発明』……これまでとは違った組織のあり方が待ち望まれていたのかもしれません。

ティール組織においては、そこに至るための3つのブレイクスルーとして

全体性(Wholeness)

自主経営(Self-management

存在目的(Evolutionary Purpose)

以上の3つが紹介されました。

そして、この3つのブレイクスルーを実践するために、いくつかの関連書籍も出版されました。

また、ラルーは人類誕生以来の組織構造の変化の歴史を、思想家ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の意識の発達理論・インテグラル理論(Integral Theory)を用いて説明したためか、『ティール組織』出版以降、国内ではケン・ウィルバーの絶版本が再度出版される、新たな邦訳本が出版される等、発達理論および意識の変容に関する書籍が相次いで出版されました。

私自身も、『ティール組織』の事例として取り上げられた『ホラクラシー(Holacracy)』という組織経営法の体得のため、オランダにファシリテーターとしてのトレーニングに向かう等、より良い組織運営および組織経営の方法の探求と国内における普及、実践に取り組んできました。

また、国外に目を転じてみれば、『Enlivening Edge』という次世代型組織に関する事例を調査・研究し、寄稿する情報プラットフォームや、

現在は年に一回程度の頻度で開催されるイベント、『Teal Around The World』といった取り組みが存在しています。

さらに、2022年5月現在。国内のビジネス書コーナーでは『パーパス(Purpose)』が一つのバズ・ワードとなっています。

『パーパス経営』、『パーパス・マネジメント』『パーパス・ブランディング』、『パーパス・ドリブン』といった具合に、『パーパス〇〇』が次々と生み出されています。

これらの『パーパス(Purpose)』という用語の用法については、既存のミッション、ビジョン、バリューとの棲み分け、位置付けが示されたり、あるいは同一視されることもある等、若干の混乱は見られますが、組織の『パーパス』を意識したビジネス、経営に注目が集まっています。

上記のように、『ティール組織』の出版は、新たな組織像や働き方を実践していくための、ある種のムーブメントを生み出したと言えるでしょう。

※フレデリック自身が、『Purpose』をどのように捉えているのかについては、以下のnote記事も参考になるかもしれません。

『Source』の概念が国内で初めて語られたのは、いつか?

上記のように国内の『ティール組織』出版に端を発するムーブメントの中、2020年に著者であるフレデリック・ラルーの来日イベント『Teal Journey Campus』が開催されました。

『Teal Journey Campus』エンディング風景

また、『Teal Journey Campus』開催後も、小規模なプログラムが開催され、その中で『Source』についての概念がフレデリック・ラルーから語られたと言います。

その時の記録は、『ティール組織』解説者である嘉村賢州氏のブログに残されていました。

上記のブログ記事から、『Source』に言及されている部分を参照してみましょう。

フレデリックが一つ大事にしている考え方にソースというものがある
プロジェクトや組織には必ず一人は存在するというそのソースは
要は存在目的から呼びかけられるラジオのような声を一番近くで聞くような
立場だ。誰にでも聞こえるはずだがソースの役割はそのセンスが強い。
決してトップダウンの権力は持たないが、組織には必要な役割だという。

良く事業継承などを行う際、このソースの引継ぎがうまくいかないことが
多いという。その引継ぎをうまくいかせる方法について彼はいった。
儀式をする必要があると。きちっと明け渡す方も終わりの儀式をし
そして受け取る方も新たな始まりを祝福する。そして周りもそれを
見届ける。そんな儀式が必要だというのだ。
(中略)
最終日の最後の最後、少人数でこの5日間を振りかえる少人数のダイアログ。

「この2日間を儀式として、日本におけるティール組織のソースを
賢州に引き渡します。」

どこかで確信はあったけど、フレデリックの口からその言葉を聞けて素直にうれしかった。

【フレデリック・ラルーとの回想録①~一番忘れたくないもの 嘉村賢州】

私の探した限り、『ティール組織』探求の文脈の中で『Source』について言及されたのは、この時が初めてのように思います。

なお、『Source』の概念および、その生みの親であるピーター・ケーニック(Peter Koenig)とラルーが出会ったのは、『Reinventing Organzations』出版以降であり、書籍には反映されていません。

しかし、ラルーは『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』というアイデアを自らの考え方の中に取り入れ、彼が手掛けたビデオシリーズにおいて、その顛末および『Source』について言及しています。

※詳しくは、以下の動画『新しい組織におけるリーダーの役割』をご覧ください。

『Source Principle』の現在(2022.春)

このように、とても限定的な場で語られた『Source』ですが、私自身は『Work with Source』という書籍の出版のタイミングで、初めて直に触れることができました。

この『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』……提唱者であるピーター・ケーニック(Peter Koenig)自身はワークショップおよび講演形式で伝えることが多く、ご自身による書籍化は行われていないそうです。

ピーター自ら語る『Source Principle』については、例えば以下の動画(英語)等が参考になるかもしれません。

また、書籍化については、彼のパートナーたちが担うことで実現されてきました。

一冊は、2020年に出版された、ステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)による『A little red book about source』(未邦訳)。

もう一冊が、2021年に出版された、トム・ニクソン(Tom Nixon)による『Work with Source』です。

この記事を書いている2022年5月現在、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』について体系化された書籍は邦訳されておらず、私自身はトム・ニクソン(Tom Nixon)の『Work with Source』を独自翻訳しながら読み進め、その学びを元に、まだまだ数少ないいくつかの日本語解説等と照らし合わせながら、学びを深めている最中です。

現在、私の知る範囲では、『ティール組織』解説者・嘉村賢州が参加し、また、『Work with Source』の邦訳出版プロジェクトを推進している『令三社』および、

「自然の畑」からの学びを組織経営に活かす循環グローバル探求コミュニティ』という、

大きく2つの流れが、『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』探求の窓口になっているように思われます。

※2022年10月末追記。同年10月に邦訳出版されました。

終わりに

今回の記録については、以前、私がティール組織探求の一つの区切りとした『人が成長するとは、どういうことか』の読書記録とは異なり、

これを機に新たな探求の旅路が始まる予感を感じつつ書き始め、そうして書き終えることができたように思います。

『ティール組織』出版前後から、私の人生は大きく変わりました。

組織運営のお手伝いをするファシリテーターという立場から、その取り組みを一旦すべて休止させ、実家の兼業米農家を引き継ぐことに全力を注ぐことになりました。

その中で、様々な視点(perspective)を自分の中に取り入れることができました。

『農業』という資本主義と相性の合わない産業モデルと、『農』という暮らしに結びついた生業という異なる視点。

また、『生命体のような組織』などという単なる比喩ではない、自然のあり方や自然と人との関わり。

そして、時代背景によって変化してきた国策、文化、外部環境に翻弄された日本における農業という、数十年単位、また、国単位の視点……。

このような多様な視点を取り入れながら、3年目の田植えを終えた今。
これからの人生を捧げていきたいと願うのは、『Reinventing Organizations』からの『Reinventing Society』です。

この世界に生きる一人ひとりが自らのポテンシャルを花開かせて生き、自然と調和し、世界に貢献していこうとなったときに、一つの組織だけではなく、社会そのものにも目を向ける視座が必要だと感じられるのです。(そのために、身近なひとを大切にすることから始めることは、言わずもがな、です)

心地よい居場所づくり、組織ファシリテーション、そして農というこれまでの経験や叡智を未来の世代に遺すべく、想いを乗せて文章に起こす。書く。また、出会いを大切にしながら情熱を持って語る、伝える。

このようなことを、これからの人生で成していきたい。

新たな決意が、こうして書くことで明確になり、定まってくるところですが、今回の記録はこの辺りで筆をおきたいと思います。

今回の記録を土台として、次は『Work with Source』の邦訳記録にてお目にかかれれば幸いです。

※2022年9月追記。

現在、『Work with Source』著者のトム・ニクソン関連の翻訳記事をまとめています。

また、2022年8月に来日しているトムとの対話や、循環畑づくりの時間を共にすることができました。



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大森 雄貴 / Yuki Omori
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