紫がたり 令和源氏物語 第四百十五話 夕霧(十八)
夕霧(十八)
夕霧は覚悟を持って今さら後には引けぬと一条御息所の御法要をすべて先頭に立って取り仕切りました。
その様子をやはり世間では女二の宮は夕霧の大将と再婚なさるのだと見て取り、致仕太政大臣には複雑な心境でいらっしゃいます。
亡き愛息・柏木の妻であった女二の宮と愛娘・雲居雁の婿であり、かわいく思っている夕霧が結婚するなど、よもやそのようなことはあるまい、と噂を信じることができないのです。
こうして外堀を埋められるように追い詰められた宮は小野で一生を終わりたいと願いますが、京へ戻りたいと望む女房などから自然に御父・朱雀院に宮の思し召しが伝わったのでしょう。
院から消息が届きました。
消息:小野はもう寒さが身に染みる頃合でしょうか。
じきに冬がやって参りますが、その前に京にお戻りなさるがよろしいでしょう。
御身が出家を切望されておられるとのことを聞きましたが、それはあってはなりません。
世話をする者もない女人が尼になるなど何かと世間は噂の種にすることでしょう。
女三の宮が出家したばかりですし、世が辛いからと出家をするのは愚かなことです。
そのような心持ちでは御仏も御赦しにならないでしょう。
朱雀院はどうやら此度の夕霧との浮名をお聞きあそばしたようで、関係がうまくいかないからと気を腐らせて宮が出家をされるなど、と取沙汰されるのを心配されているのです。
それほどに二人の噂は広まっているもので夕霧は宮の固い心を恨みながら、すでに御息所は赦されたと世間に知らしめ、いつからともなく通っていたように既成事実を作ってしまおうと決意しました。
いざとなればあの御息所の手紙に記された通りに関係があったと吹聴すればよい、などと賢しくも策略を巡らすのです。
御息所が心配された通りに亡き人へ罪を被せようというのは気が退けるものの、もはやそれ以外に宮との結婚を進める手立てはないのです。
夕霧は大和守を呼び、暦に吉日と記された日に女二の宮を小野から一条邸へお迎えする旨を伝え、邸を修理し、新しい調度なども差配するよう指示しました。
大和守はこの話を殊の外喜びました。
ようやく懸案の宮の身の振り方が定まり、大きな荷を下ろすことができるのです。
宮の御前に伺候するとその旨を伝えました。
「御承諾の否やは承りません。大将の君の細やかな配慮がなければ御息所の法要もあれほど整いはしませんでしたでしょう。皇女の再婚というのも例がないこともないですし、どうしてまぁ、世間から非難されるようなことがありましょうか。大将のお気持ちは真であると私は思います。それは御身の心で身ひとつならばどうにでもなりましょうが、やはり頼りがいのある男君に崇められることほど女人の幸せはなかろうかと思われますよ」
大和守はきっぱりと言い切ると、側に控える女房に向き合いました。
「そうした思慮分別をお教えすることこそ女房の務めであるというのに、それを抜きにしてお文のやりとりをなさるとは心得違いも甚だしい」
それは妹の小少将の君にも向けられた厳しいものでした。
女二の宮の女房たちもこれはもう仕方のない流れであるよ、と気を引き締めて、宮が勝手に髪を下したりせぬように鋏や剃刀などをすべて隠してしまいました。
なんとも思うままにならぬ上に自分の味方は一人もいなくなってしまったよ、と宮は深く嘆かれました。
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