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紫がたり 令和源氏物語 第百四十三話 蓬生(一)

 蓬生(一)

源氏が縁を結んだ女性たちは数ありますが、空蝉の継娘・軒端荻や花散里の帖の中川の女のように新しい夫を持って離れていく女人もありましたので、源氏は変わらぬ心を寄せてくれる女人たちを特に鄭重に扱っておりました。
すでに存在を忘れられているようですが、みなさんは末摘花の姫君を覚えていらっしゃるでしょうか。
あの故常陸宮の姫で赤い鼻をした不器用な姫です。
時は前後しますが、この姫があれからどのように過ごしていられたのかをお話し致しましょう。

末摘花の姫は頼りにしていた父宮が身罷れた後は、世間と交わることもなく細々と暮らしておられました。あのいささか破れた邸で共に朽ち果てようというところに、思わぬ源氏との出会いで生活が一変したのはご記憶にあると思われます。
そしてまた思わぬ運命の流転による源氏の失脚は姫の暮らしを暗転させることとなったのです。
源氏が須磨に隠棲した折、不憫なことですが、この姫の存在はすっかりと源氏に忘れ去られておりました。
それまでも形ばかりは、源氏の側近・惟光が何くれと心にかけて邸に伺っていたもので、それで用事は済んでいたのです。
源氏の失脚を知り、姫は悲しみましたが、伝手を頼って消息を出すという手段も無ければ、それを思い立つ才覚も乏しい姫でしたので、ただじっと以前のように、それよりも惨めな零落れた生活に耐えておられました。
源氏が都から離れた三年は頼みの惟光の訪れもなくなり、源氏に繋がりのある者には辛い時勢になってしまった為、俄かに増えた女房たちも暇乞いをして他の邸へ移ったりしてしまいました。
結局残った者は、源氏が訪れる前から仕えている老女房たちと乳姉妹である侍従の君という若い女房だけです。
この侍従の君はいつぞや最初に源氏が訪れた晩に、鐘つきて・・・、と姫の代わりに応えた娘なのでした。
彼女は乳姉妹である姫を慕っておりました。
それは他の姫に比べると歌の才にも乏しく醜女で、これといった取り柄は見当たりませんが、いつでも一生懸命で出来ないなりにも努力を重ねる奥ゆかしい人であることを知っていたからです。
かつて源氏の君がいろいろと和歌を吟じたり、講義してくれることがありました。
姫は後でちゃんと書きつけを復習しながらご自分なりに歌を作ってみたり、思い浮かんだままに書きとめて情趣を理解しようと努力されておりました。
そんな姿が可愛らしく思えて、邸を去る者があっても姫のお側を離れまいと心からお仕えしていたのです。

源氏が須磨へ退去してからというもの、恋しさと心細さで姫は毎日泣き暮らしておられました。
「辛い世の中になったものですねぇ。これからどうやって暮らしていけばいいのでしょう」
一度よい暮らしを経験してしまったばかりに老いた女房達は再びの極貧生活で途方に暮れております。
それももっともなことで、時が経つにつれ邸は荒れて、草を刈る下男などもとうに逃げ出してしまっていたので、草はぼうぼうと生い茂り、まるで狐の住処と見紛うほどに邸は荒廃しておりました。
蓬なども軒の高さにまで伸びる植物であったかと驚くばかりの有様で、垣は壊れ、近頃では牛飼いの少年などが入り込んで牛が草を食んでいることもあるのです。
とても皇族がお住まいだったというお邸には見えません。
このたたずまいが逆に風情があるなどと裕福な好事家然とした受領あたりが邸を譲ってほしいという話もちらほら舞い込んできましたが、姫はどうしても首を縦に振りませんでした。
「わたくしが生きている間はどんなに荒れようとも他へ行くことなどできません」
姫は父宮の思い出の詰まったこの邸を去ることなど到底できないと考えていましたが、そこにはもしもここを出れば再び源氏の君に逢うことができないのではないか、という切ない女心もあるのでした。

次のお話はこちら・・・

オシリス:「蓬生、ですか・・・」

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愛猫オシリス

ママ:「・・・まぁ、そんな感じです」

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