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34歳の夏、ぎりぎりになりましたが夏休みの宿題を提出します

これを言うとたいてい「うへえ……」という顔をされるが、小学生のとき、読書感想文を書くのはまあまあ好きだった。学習机にまっさらな原稿用紙を並べては「さあ、なにを書こう」とわくわくしたものだ。

時が流れ、34歳になった私は(かなり大雑把に言うと)読書感想文を書く仕事に就いている。

ある春の日、仕事の情報収集のために登録しているGoogleアラートが「青少年読書感想文全国コンクール」のニュースを届けてくれた。懐かしく公式サイトを開く。今年の課題図書もどれもおもしろそうだ。「そうだ、今年の夏は課題図書18冊を全部読んでみよう。夏休みの宿題だ」と決めた。

今年の課題図書たち

ふだん読まないジャンルの本にふれることで、仕事にいい影響があるかもしれない。「34歳になった私が子ども向けの本を読んだらどんなふうに感じるんだろう」という好奇心もあった。

宿題のルール

宿題に取りかかる前に3つのルールを決めた。

①課題図書18冊をすべて買って読むこと
②ラフでいいからnoteに読書感想文を書くこと、できればプロっぽく読書感想文のアドバイスなんかも入れてみること
③公式サイトにある「選定理由」は読まず、自分の感性を信じること

率直な感想

すべてを終えたいまの率直な感想は2点に集約される。

①読むのが意外と大変

「児童書だし余裕でしょ!これでも私、本を読むことでお金をいただいてるんでね……」と自信たっぷりだったのは最初だけ。読み切るのはそれなりに大変だった。

本を手に入れたのは春だったが、仕事・生活が立て込む時期と重なってしまったこともあり、先週まで放置した挙句、休日を2日使って集中的に読んだ。けっこう疲れた。

②大人からのメッセージが手に取るようにわかる

どの本も、読み始めてわりとすぐ「ははーん、この本を通してこんなことを学んでほしいのね」とピンとくる。どれもすばらしい作品だと思ったし、ストーリーとして楽しく読めたけど、大人たちの意図がスケスケでちょっとおもしろかった。

……ということで、私はあえて大人たちからのメッセージに目をこらしつつ読んでいくことにした。

「小学校低学年の部」4冊の感想

課題図書は「小学校低学年の部」「小学校中学年の部」「小学校高学年の部」「中学校の部」「高等学校の部」の5つの部門に分かれている。

まず、「小学校低学年の部」の4冊のあらすじと感想を書く。

『アザラシのアニュー』

タテゴトアザラシの赤ちゃん・アニューが「だいすきなおかあさん」と別れて北極を目指す物語。

成長すること、タテゴトアザラシの生態、北極の気候、環境問題……わずか40ページほどの中に、子どもに気づきをもたらすフックがたくさん準備されていたのが印象的。どこに注目するかによって、いろいろな読書感想文が出てきそう。

それにしても、アザラシの赤ちゃんに共感する(だろうと思われている)小学校低学年って、本当に幼い子どもなんだな……。どんな字でどんな感想文を書くんだろうと想像して、胸がきゅんとした。

『ごめんねでてこい』

おばあちゃんに「きらい!」と言ってしまって後悔しているのに、どうしても「ごめんね」が出てこない――。相手は誰であれ、誰もが身に覚えのあるような出来事がテーマ。絵の構図がユニークで、眺めているだけでも楽しい。

大人たちはきっと、本書を通して言葉の重みを伝えたいのだろう。読書感想文としては「まわりの人の愛情に目を向け、感謝すること」「常に思いやりをもって行動すること」「自分の気持ちに素直になること」にフォーカスをあてることになるはず。

『おちびさんじゃないよ』

他の子どもたちより小柄な女の子と男の子の友情物語。男の子が意地悪な上級生にからかわれているところを、女の子が勇気を出して守ってあげる。言うべきことをしっかり言える女の子の姿は、シンプルにかっこいい。

大人目線で言うと、「友情の大切さ」や「自分の正義を貫くこと」、「ありのままの自分を愛し、自信を持つこと」について感想文を書いてほしいところ。

『どうやってできるの? チョコレート』

「おいしい チョコレート、なにから どうやって できるのかな?」という問いかけから始まる一冊。

イラストはなく、写真と文字で進んでいく。単調になるかと思いきや、カカオの実がなっている「とおい みなみの あつい くに」から、日本のチョコレート工場、そして自宅へと、どんどん場面が変わっていくので飽きない。本のつくりも個性的で、ページの大きさが違ったり、ひらけるページをあったりする。

「普段何気なく食べているものがどんなふうにできているのか」はもちろん、地理や産業、働くことにも興味を持たせるつくりになっている。「他の食べ物のことも調べてみたいと思いました」と結ばせるのが狙いなのかな。

「小学校中学年の部」4冊の感想

続いて「小学校中学年の部」の4冊について。

『いつかの約束1945』

戦争と平和がテーマ。小学生のゆきなとみくは、読書感想文の本を探すために図書館に行こうとしたところ、困っているおばあちゃんを見つける。その人は、見た目はおばあちゃんだけど、中身は9歳の「関根すず」ちゃんで――?というストーリー。

教育的観点からは「平和は当たり前じゃない、先人たちの努力と苦労あってこそ」「ずっと平和を大切にしたい」「戦争経験者のお話を聞いてみたい(世代的に難しいか……)」といったことが書けたら満点のような気がする。

『じゅげむの夏』

男子4人の夏休みをビビッドに描き出した作品。

田舎に住んでいるらしい彼らの遊びは、ブレーキをかけずに自転車で坂を駆け下りたり、近所のおっかないおじいさんの家を覗きに行ったり、橋から川に飛び込んだりと、かなり昭和。それでも、子どもたちにとっては冒険で、こちらまでわくわくが伝わってくるよう。

4人の中には難病の子がいて、残りの3人は自然と彼のあり方を受け入れている。夏らしい生命力と、いつかいなくなってしまうかもしれない子の対比がなまなましい。友情や冒険、未来、夢あたりが読書感想文のキーワードになりそう。

『さようなら プラスチック・ストロー』

「ストローはどのように発明されたのか」から「プラスチック・ストローがいかに環境を破壊してきたか」、そして「この状況を改善するにはどうすればいいか」までを、教育的に示した一冊。

アメリカ国内だけでも毎日5億本のストローが捨てられている(スクールバスに換算すると125台以上)など、おとなが読んでも勉強になる。

物語ではないため「共感しました」は使えないものの、大人が受け取ってほしいメッセージが明瞭なので、読書感想文は書きやすい。

さあ、この問題は、どうしたら解決できるんだろう?
第一歩は、わたしたちひとりひとりの行動のなにもかもが、環境に影響をあたえるのだと知ること。
そして、わたしたちがちゃんと考えて行動を変えることで、大きな変化を生むことができるのだと知ること。

P23より引用

あなたにもできることがある。
レストランやファストフードの店にいったとき、「ストローは、いりません」という。
飲みものをコップからちょくせつ飲む。紙のストローを使う。
ステンレスや竹、シリコンなど、なんどでも利用できる材料でできたストローを使う。
学んで知ったことを、ほかのひとにつたえる。

P28より引用

『聞いて 聞いて!:音と耳のはなし』

音が聞こえる仕組みをやさしいテキストとカラフルなイラストで教えてくれる一冊。

……と書くと理科の教科書のようなものをイメージされそうだが、赤ちゃんの泣き声や太鼓、鉛筆削り、トライアングル、セミ、コウモリなど、身近なものの「音」についてたっぷりのイラストとともに示されているため、説明的になりすぎないのがすごい。

読書感想文を書くのは難しい部類の本だと思うけれど、私が小学校中学年だったら「生活の中で、いろいろな音に注目してみたいです」と結んでいると思う。

「小学校高学年の部」4冊の感想

続いて「小学校高学年の部」の4冊について。

『ぼくはうそをついた』

おじいちゃんとともに広島で夏休みを過ごすリョウタの物語。みずみずしい夏休みの風景に、淡い初恋、友情、家族の愛、そして戦争の記憶がうまく絡んで、「課題図書」らしさ満点である。

リョウタの大人っぽい行動にちなんだタイトルが象徴的なので、私なら、本を開く前にこのタイトルを見て感じたことから始めて、読み終えた後の素直な気持ちにも焦点を当てるかな?

『ドアのむこうの国へのパスポート』

(明言されないが)一般的な学級に馴染めなかった子どもたち10人が通う学校が舞台。

担任の先生はいつも子どもたちに、ラヴィニア・アケノミョージョという児童文学作家の作品を読み聞かせてくれる。どの物語もスリリングで、子どもたちは次の展開が気になってたまらない。

ある日、主人公のラウレンゾーは、先生に指名されてラヴィニア・アケノミョージョの自宅を訪れることになる。自宅には開かずの間があり、ドアの向こうには”コスモポリタン連邦”という国があるらしい。そしてその国に入るには、パスポートに加えてビザも必要だそう。子どもたちはパスポートとビザを手に入れようとして……というストーリー。

大人が読めばオチは簡単に想像できるのだけれど、それでも続きが気になり、主人公たちとともに胸をときめかせながら読み終えた。読書感想文を書くなら、「こんな国があればいいな」という妄想でページを埋めることになりそう。

あざとくまとめるなら、「本の中には自分の知らない世界が広がっていることがわかりました。もっとたくさんの本を読みたくなりました」という方向性もある。クラスの子どもたちの多様性に注目して、お互いに理解し、尊重し合うことの大切さに触れてもいいだろう。

『図書館がくれた宝物』

舞台は第二次世界大戦下のロンドン。唯一の肉親だったおばあちゃんを亡くし、12歳のウィリアム、11歳のエドマンド、9歳のアンナの三兄弟は学童疎開をすることになる。大きな秘密を胸に隠して――。

「子どもが主人公の物語には入り込みづらいんだよな……」と思っていたのがウソのように、疎開先でうまくいかない3人に終始、感情移入。ところどころ登場する本がスパイスになり、物語はテンポよく進んでいく。

読書感想文を書くときには、戦争や家族愛、人を愛することの尊さなどに触れつつ、“本とわたし”をメインにするのはどうだろう。

『海よ光れ!:3・11被災者を励ました学校新聞』

岩手県山田町にある大沢小学校では、毎年秋、1年生から6年生までが全員で「海よ光れ」という劇を作り上げる。この伝統は昭和63年から継承されており、出演する児童たちはもちろん、地元の人々も劇の上映を心待ちにしている。

またもう一つ、大沢小学校には大事な伝統がある。児童会執行部が作る新聞「海よ光れ」だ。岩手県小・中学校新聞コンクールで毎年連続で最優秀賞を受賞しており、2010年には全国1位を獲得したほどのクオリティだ。

2011年3月11日、そんな山田町を東日本大震災が襲う。この出来事を児童たちはどう乗り越えたのか――。

この本を読む子たちは震災後に生まれたはずなので、どのような感想を抱くのか興味深い。私が子どもだったら、震災直後の避難所での子どもたちの活躍ぶりに焦点を当てて書いてみるだろう。令和を生きるキッズなら、YouTubeで「海よ光れ」の劇を探して、その感想なんかも添えるかもしれない。

「中学校の部」3冊の感想

続いて「中学校の部」の3冊について。

『ノクツドウライオウ:靴ノ往来堂』

オーダーメードシューズの老舗「靴ノ往来堂」に生まれた夏希。現マエストロ(職人)である母方の祖父は65歳で、現場で働けるのは残り10年ほどだと思われる。母は手先が不器用なので職人には向かず、後継者候補だった兄は突然海外ボランティアに旅立ち、祖父が信頼していた職人さんは店を去り、中学生ながらに「自分が継ぐしかないのか?」と思っている今日この頃である。

だがそんな夏希の将来の夢は、オーダーメードシューズの職人ではない。女性向けのおしゃれな靴のデザイナーだ。祖父の工房に出入りしながらデザイン画を描きためている。

ある日、祖父の元に、目の敵にしている同級生・宗太が弟子入りを志願してくる。さて、往来堂の行方は――?

単純に物語としておもしろく、すらすら読み進められる。今回の課題図書のラインナップでは、一番「課題図書的」ではないように感じた。

読書感想文では、将来の夢に向かって努力を続ける夏希に自分を重ねて書くことになるだろう。もしくは、職人のプロ意識や、少し高価でも良いものを大切に愛し続けることについても書けそうかも。

『希望のひとしずく』

工場経営者の家庭で生まれ育ったアーネスト、父親がアーネストの工場で働くライアン、成績優秀なリジー、引っ越してきたばかりのウィンストン、いじめっ子のトミー……中学生にしてはちょっと幼い感じもする子どもたちが登場する物語。

アーネストたちの地元には、願いを叶えてくれるとされる井戸がある。それぞれに悩みを抱えたアーネストとライアンは、ひょんなことから井戸に入り、町の子どもたちの願いを盗み聞きすることになり……。

登場人物が多いこともあり、海外文学を読み慣れていないと序盤まではハマりにくいかもしれない。東野圭吾と伊坂幸太郎が大好きだった中学生の頃の私には、たぶん読めなかったと思う。

けれど、物語の進む方向が理解できてからは、笑いあり涙あり、ユニークな仕掛けあり、ドミノ倒し的なおもしろさもあり、という感じで、続きが気になってどんどん読み進められるはず。

読書感想文的な観点から言うと、勇気と友情、助け合いのストーリーということになるのかな。定番の「自分が登場人物Aの立場だったら、こうは行動できなかっただろう。なぜなら~」というフォーマットが使えるかもしれない。

『アフリカで、バッグの会社はじめました:寄り道多め仲本千津の進んできた道』

ウガンダでバッグ工房を経営している社会起業家・仲本千津さんの物語。

仲本さんの子ども時代のこと、高校生で「私、ぜったいに国連で働く」と宣言したこと、世界の民族紛争を研究した大学・大学院時代、新卒で銀行に入行したこと、アフリカに行くと決めたときのこと……社会経験の少ない中学生でもイメージできるよう、非常に丁寧に説明されている。

仲本さんの人生は波乱万丈だ。紆余曲折ありながらも、持ち前の行動力と発想力、そして正義感で問題を解決していく様子は、見ていて気持ちがいい。

読書感想文としては、素直に感動を綴るだけでうまくまとまるはず。サブタイトルにある「寄り道」の効用について考えてみるのもいいかもしれない。

「高等学校の部」3冊の感想

最後に「高等学校の部」の3冊について。

『宙(そら)わたる教室』

金髪とタバコがトレードマークの柳田岳人、新大久保でフィリピン料理店を経営する越川アンジェラ、保健室登校を続けるSFファンの名取佳澄、金属加工の工場を経営していた74歳の長嶺省造。新宿の都立高校の定時制に集った個性豊かなメンバーたちが、理科系授業を受け持つ藤竹先生に導かれ(陰で操られ?)ながら、科学部員として火星のクレーターを再現する実験を始める――というストーリー。

登場人物たちの年齢が比較的自分と近いこともあってか、序盤から引き込まれ、共感しながら読み進めることができた。うまくいきすぎじゃない?と思ってしまいそうなところもあるが、ときどきハプニングが挟まれ、テンポよく読める。

個性派が団結して感動的な成果を生み出す王道ストーリーなので、読書感想文は書きやすい。王道の感想文にまとめるなら、学ぶことの大切さについて書く。ちょっとあざといけれど、藤竹先生の立場に立って「自分がこのメンバーの担当なら……」と書き出してみるのもおもしろいかもしれない。

『優等生サバイバル:青春を生き抜く13の法則』

韓国の名門高校に合格して大喜びしたのもつかの間、厳しすぎる勉強競争に巻き込まれた主人公・ジュノ。親友のゴヌと討論サークルで出会ったユビン、元芸能練習生のハリム、学年トップのビョンソ、秀才のボナ先輩とともに、(正直全然あんまり楽しくなさそうな)スクールライフを送る。

とにかく彼らの勉強生活はあまりにも忙しそうで、こちらまでプレッシャーに押しつぶされそうになる。ただ、自分の信念を持ちつつ、友人たちと価値観を交換しながら突き進む様子はまさに青春って感じ。

今どきのストーリーで非常に好みだったが、その分(というかなんというか)読書感想文は書きづらいかもしれない。ストーリーの中ではいろいろな事件が起こるし、主人公たちはそれぞれに悩みを抱えたり困難にぶつかったりするので、自分だったら友人としてこんなふうに手を差し伸べたい……という感じで無難にまとめることになるかな。

韓国のリアルな勉強事情が描かれるので、カルチャーショック的なところと「共感できた箇所」「できなかった箇所」に触れてもいいかも。

『私の職場はサバンナです!』

南アフリカ公認サファリガイドとして活躍する太田ゆかさんの著書。

前半では「なぜサファリガイドを志したか」「サファリガイドになるためにはどのようなトレーニングが必要か」が、後半ではライオンやチーター、アフリカゾウ、ハゲワシといった野生生物たちの生態が、写真つきで丁寧に書かれている。最後の章では、動物と人間が共生する未来についても丁寧に語られる。

「こんな仕事(生活)があるんだ」と、大人もわくわくすること間違いなしの一冊。読書感想文を書くとしたら、将来の職業的なことをテーマにするか、SDGs的に動物との共生や生物多様性に思いを巡らせるか。努力して夢を叶えた人への憧れを素直に綴ってもいいだろう。

最後に

感想を書くのはまだしも、すべての課題図書を読むのは正直大変だった。「一応プロなんだし余裕」「なんなら読書感想文のアドバイスだってできる!」と思っていた自分が恥ずかしい。8月31日にぎりぎり終えられてよかった。

ただ、ふだん触れないジャンルの本を集中的に読むのはとても良い刺激になった。読書感想文をうきうきと書いていたあの頃の私に「本を読むのが仕事になってるよ」と言ったらどんな顔をするだろう?


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