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2018年3月の記事一覧
長編小説『becase』 5
彼は昨日の夜、目覚ましをセットしたのだ。いつも七時に鳴っている目覚まし時計が、九時にセットされているという事でそれは分かった。彼は間違いなく、昨日、この目覚まし時計が九時に鳴るように時間を合わせた。彼は今日、九時に起きようとしていたのだ。でも、彼の睡眠を何かが邪魔をして、九時前に起き上がった彼は突然姿を消してしまおうと思ったに違いない。どうしたって、彼が今コンビニやパチンコ店に行っているとは思え
もっとみる長編小説『becase』 4
ピッ、ピッ、っとベッドの脇に置かれた小さな目覚まし時計が音をあげる。時計はぴったり九時を指していて、この時計の目覚ましをセットするのは決まって彼だ。
「日曜日くらい目覚ましをかけるのはやめようよ」
私は彼にそう何度も言った。
「私まで目が覚めちゃう」
そう付け加えて。それでも彼が日曜日の朝に目覚ましをセットしない日が来る事はなく
「沙苗さんはなんでそんなに寝ていられるの?」
と彼は私
長編小説『becase』 3
私は一人寂しく取り残された部屋に置かれたベッドから起き上がり、外に広がる寒さを足の先に感じながら、彼のお気に入りの湯呑みにインスタントコーヒーを入れ、それをゆっくりと口にした。
熱い、と感じた時には、舌の皮はめくれ、じんわりとした痛みを終始感じながら、残りのコーヒーを飲みきった。ずっと前に私が彼に無断で、冷蔵庫に入っていたプリンを食べてしまった時の仕返しのように感じられた。
彼の湯呑みで