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長編小説『becase』 3
私は一人寂しく取り残された部屋に置かれたベッドから起き上がり、外に広がる寒さを足の先に感じながら、彼のお気に入りの湯呑みにインスタントコーヒーを入れ、それをゆっくりと口にした。
熱い、と感じた時には、舌の皮はめくれ、じんわりとした痛みを終始感じながら、残りのコーヒーを飲みきった。ずっと前に私が彼に無断で、冷蔵庫に入っていたプリンを食べてしまった時の仕返しのように感じられた。
彼の湯呑みでなんか飲むんじゃなかった。いくら後悔してみても、もう舌の皮がくっついてくれる事なんてない。ずっと気になる舌の痛みを無視出来ぬまま、外の暖かな光りに包まれた、冷たい風をただ無心で眺めていた。頭の中にあるのは、ただただ舌の痛みだけだった。