長編小説『becase』 4
ピッ、ピッ、っとベッドの脇に置かれた小さな目覚まし時計が音をあげる。時計はぴったり九時を指していて、この時計の目覚ましをセットするのは決まって彼だ。
「日曜日くらい目覚ましをかけるのはやめようよ」
私は彼にそう何度も言った。
「私まで目が覚めちゃう」
そう付け加えて。それでも彼が日曜日の朝に目覚ましをセットしない日が来る事はなく
「沙苗さんはなんでそんなに寝ていられるの?」
と彼は私に何度も言っていたのだ。
「だって、日曜日じゃない。唯一時間の制約のない日だもの」
私はその度に言い返していたけど、そう言うと彼は静かに笑うだけで何も言わなかった。いつもそうだ。いつもその笑顔の先まで、会話が進む事はない。結局私も彼のそういった部分がどうしても我慢できないと、そういう訳じゃなかったのかもしれない。認める事は嫌だけど、彼の気持ちに寄り添う事は好きだったから。