マガジンのカバー画像

ちいさな、ちいさな、みじかいお話。

199
短編小説を掲載しています。 https://furumachi.link
運営しているクリエイター

2017年9月の記事一覧

『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

「おいおい、別にいいだろう?お前だってどうせ彼女いないんだから」

と何度かのやり取りをした後、業を煮やしたのか

「あの、すみません。一緒に飲みませんか?」

と気付けば将が声を掛けていた。女の子たちは一瞬怪訝な表情を浮かべ、同じタイミングで見合わせた。それからまた少しの間があって、二人は僕たち二人の顔を見定めているようだった。それからまた少しの間があり

「ああ、いいですよ」

と一人の女の子

もっとみる
『短編』再会はどこか不安定 第1回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第1回 /全5回

「あの二人、なんだか深刻な雰囲気だよな」

将(まさる)は他の席に座っていたカップルを見ながらそう言う。

「そうか?和気あいあいと見えるけど」

「ダメだな、啓介(けいすけ)は。あれはどう見ても喧嘩してるよ」

将はそう言うが、僕にはそうは見えなかった。だってさっきから彼女も彼も柔らかな笑みを浮かべている。もし深刻な空気なら、もっと表情は固いはずだし、深刻そうな雰囲気を纏っていそうなものだが。

もっとみる
『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第7回 /全7回

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第7回 /全7回

「あと一時間だね。始発まで」

時計を見ると、四時を指していた。

「あと一時間。長いですかね、この一時間」

「早いよきっと。ここまであっという間だったんだから。……あ、そうそう一応言っとくけど、鳴沢がやってたあのゲームとか気にしなくていいからね。入りたくなかったら入らなくていいし、もしその気があるならいつでも待ってるから」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ、全然気にしてないんで」

「そ

もっとみる
『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第6回 /全7回

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第6回 /全7回

「私たちは結構真剣に人工知能の研究をしてる。もちろん今世の中に出ているものに比べたら遥かに及ばないけど、プロトタイプを作ったりもしてる。型をつくるのはそんなに大変じゃないんだけど、それにどんな情報を読ませるとか、どういった入力に対してどういった出力をするとか、そのアルゴリズムを作っていくのが大変なの。
 ……だからなんていうか、私たちがやってることってざっくりと〝人工知能〟を理解しようとしているの

もっとみる
『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第5回 /全7回

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第5回 /全7回

「ルールは簡単。この店に次に入ってくるのが男の人だったら俺の勝ち。女の人だったら美希ちゃんと奈々ちゃんの勝ち」

「っていうか、仮にですよ。もし私たちがサークルに入りたかったとして、それで私たちが勝ったとしたら入れなくなるってことですか?」

「ゲームだからな、そういうことになる」

ゲーム、ゲーム、ってよく分からないけど、深夜のこの時間、私たちはそうでもしないと朝までの退屈な時間を過ごせなかった

もっとみる
『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第4回 /全7回

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第4回 /全7回

 私たち含め、残った四人で電車に乗り込んだ。

「私の家があるから、ダウンしたらそこで寝たらいいよ」

と言ってくれたのは、真野(まや)先輩だった。飲み会の時から浮ついた感じが一切せず、一歩引いたところから冷静に場所を眺めている感じでいた先輩は、こんな時でも冷静だった。

「ああ、そうだな。じゃあとりあえず真野んちの最寄りまで行こう」

渋谷から少し電車に揺られ、やがてその駅に着いた。空いている居

もっとみる
『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第3回 /全7回

『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第3回 /全7回

 美希は別に人工知能などに興味はない。プログラミング言語だって書けないし、キーボードを打つ時、大体のキーを人差し指で押した。そんな人だ。なぜだか私はこの美希に好かれていた。よく分からない。
 だって私たちは出会ってまだ一ヶ月ちょっとしか経ってないのに、その間のほとんどを私は美希と一緒に過ごしていた。というか、美希が常に私と一緒にいた。

「急に東京に来て不安なんだよー」

といつも言っている。ずっ

もっとみる