『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第4回 /全7回
私たち含め、残った四人で電車に乗り込んだ。
「私の家があるから、ダウンしたらそこで寝たらいいよ」
と言ってくれたのは、真野(まや)先輩だった。飲み会の時から浮ついた感じが一切せず、一歩引いたところから冷静に場所を眺めている感じでいた先輩は、こんな時でも冷静だった。
「ああ、そうだな。じゃあとりあえず真野んちの最寄りまで行こう」
渋谷から少し電車に揺られ、やがてその駅に着いた。空いている居酒屋もいくつかあったが、なんだかんだ私たちはどこにでもあるようなファミレスに入った。鳴沢先輩はまだ賑やかで、美希や真野先輩に絡んでは鬱陶しがられていた。私たちは席に着き、適当に注文をした。既にお腹はいっぱいだったので私と真野先輩はドリンクバーだけ、美希はドリンクバーとパンケーキを注文した。
「出たー!女子ってほんと時間とか関係なく甘いもの好きだよなー」
鳴沢先輩はそう美希に言う。
「いいじゃないですかー。この時間に食べるから美味しいんですよ」
「なんでこの時間だと美味いんだよ?」
「うーん……、なんていうか、罪悪感?こんな時間に甘いもの食べちゃうんだ、っていう罪悪感がより美味しくさせるんです」
美希のその言い訳を理解したのかしていないのか、鳴沢先輩は「ふーん」と言って、頷いていた。
彼は終始賑やかだった。その中で人工知能の話なんてほとんど出てこなかったけど、私たちはそれなりに盛り上がっていた。灰皿に鳴沢先輩の吸い殻が三本溜まった頃、
「よし、ゲームをしよう」
と突然言いだした。
「そう、ゲーム。美希ちゃんと、奈々ちゃんがうちのサークルに入るか入らないかのゲーム。俺が勝ったら入るに決定」
「え、ちょっと待って下さい。そのゲーム、っていうかよく分からないですけど、私たちが入るか入らないかはそのゲーム次第ってことですか」
私は口を挟む。
「まあゲームだから、そういうことになるね」
鳴沢先輩は軽い口調でそう言うと、
「まあいいんじゃない奈々。なんか面白そうだし」
と美希はそれに乗っかった。まあ所詮ゲームだし、真野先輩の落ち着いた感じを見ると、こういうことはよくあるのかも、と感じた。鳴沢先輩のいつものノリがこういうものなのかもしれない。
*********************
アマゾンKindleにて各種電子書籍を販売しています。https://furumachi.link/kindle/
その他短編小説はこちら↓
■古びた町の本屋さん
https://furumachi.link