『短編』再会はどこか不安定 第1回 /全5回
「あの二人、なんだか深刻な雰囲気だよな」
将(まさる)は他の席に座っていたカップルを見ながらそう言う。
「そうか?和気あいあいと見えるけど」
「ダメだな、啓介(けいすけ)は。あれはどう見ても喧嘩してるよ」
将はそう言うが、僕にはそうは見えなかった。だってさっきから彼女も彼も柔らかな笑みを浮かべている。もし深刻な空気なら、もっと表情は固いはずだし、深刻そうな雰囲気を纏っていそうなものだが。
「確かにそうは見えないけど、あの二人はそう単純な仲じゃない。......だってな、さっきあの横を通りがかった時、引き止めに来たんじゃないの?って女の方が言ってたからな」
「なんだよ、盗み聞きかよ」
「聞こうと思ったんじゃない。聞こえてきちゃったんだよ」
「っていうか、それお前の予想でもなんでもないのな」
「俺が予想したなんて誰も言ってないだろ?啓介にはどう見えるか聞きたかっただけだよ」
彼はそう言いながらグラスに立ったストローを啜る。何杯目かも分からないアイスコーヒー。僕には飲めないから、そんなに飲む将の気持ちがちっとも分からない。
「それにしても、さっきの子可愛かったなー」
「ああ、そうだな」
さっきまで俺たちは渋谷で飲んでいた。そこでたまたま隣の席に座っていた女子二人組を将が気にかけ、「おい、声掛けてみようぜ」と言ってきた。特に何が嫌な訳でもなかったが、僕は「嫌だよ、面倒くさい」と言った。
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