『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第3回 /全7回
美希は別に人工知能などに興味はない。プログラミング言語だって書けないし、キーボードを打つ時、大体のキーを人差し指で押した。そんな人だ。なぜだか私はこの美希に好かれていた。よく分からない。
だって私たちは出会ってまだ一ヶ月ちょっとしか経ってないのに、その間のほとんどを私は美希と一緒に過ごしていた。というか、美希が常に私と一緒にいた。
「急に東京に来て不安なんだよー」
といつも言っている。ずっと東京暮らしの私からしたら理解出来ない感覚だが、不安になるのは無理もないか。その内他に友達が出来て、いずれ私の元を離れていくんだろうか。なんて考えると少し寂しくもなる。だけど今のところそんな様子は見えない。
……というより、鬱陶しいくらいにいつも私と一緒にいた。だから私の趣味に付き合う様な形で訪れた人工知能研究サークルで、美希はそんなことを答えてしまったのだった。「行きます!」
まあそれは別に良かった。だってそもそもここに興味があったのは私の方だし、飲み会が始まって最初の方は割と真面目に人工知能談義が始まったりなんかして、私は結構面白かった。多分、美希はつまらなかったと思う。あくびを何度もしていたから。時間が経ち、皆程よく酔っ払った頃には人工知能の話などどこか行ってしまった。学生時代何してた?とか、趣味は何?とか彼氏いるの?とか。
私たち含め、新入生らしき人たちは数人いたから、先輩方も楽しくてしょうがないのかもしれない。適当にあしらっている内になんだか面倒くさくなってきて、私は何度もあくびをもらした。ふと美希を見ると、彼女は楽しそうに先輩方と話していた。
先輩もまんざらでもない様子で。……そういえばこの子は人に好かれるのが随分と上手だ、ということを不意に思い出して。私はその餌食の一人であったことを再確認してなんだか少しだけがっかりもした。
「ほらー!もうここの店出ないとダメだって!」
先輩の一人がその場にいたみんなに聞こえるような声で行った。「えー」「もうかよー」なんてみんな文句を言いながらも、次第に自分の荷物をまとめ始め、それから十分後くらいには皆大方帰る準備が整っていた。ぞろぞろと連れ立って店を出て、「この後行く人ー!」と鳴沢先輩は手を挙げた。大分酔っているように見える。
「おいおい!もう電車なくなるぞ。今日は解散しとけよ」
「そうだよ。とりあえず今日は帰っとこ、な、鳴沢」
とそばにいた先輩たちは鳴沢先輩をなだめようとしていた。だけど、そんな時たまたまそばにいた美希に「美希ちゃんは行くでしょ?」と鳴沢先輩は声を掛け「行きますー!」と(多分……、ほとんど何も考えずに)答えていて、「奈々も行きますー」とまた無責任なことを言ってしまったのだった。
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