『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第6回 /全7回
「私たちは結構真剣に人工知能の研究をしてる。もちろん今世の中に出ているものに比べたら遥かに及ばないけど、プロトタイプを作ったりもしてる。型をつくるのはそんなに大変じゃないんだけど、それにどんな情報を読ませるとか、どういった入力に対してどういった出力をするとか、そのアルゴリズムを作っていくのが大変なの。
……だからなんていうか、私たちがやってることってざっくりと〝人工知能〟を理解しようとしているの。もし自動運転に使うんならこういった型、音声認識に使うならこういった型、とかそれぞれあると思うんだけど、……そうじゃなくて、もっと大きな枠で人工知能ってこういうもの、っていうことを研究するサークルなのよ。……ごめん、ちょっと分かりづらいかな?」
「いえ、そんなことないです」
「鳴沢もね、こう見えてもちゃんとやる人なのよ。それに頭も良いし、ひらめきもある。うちのサークルでは間違いなく一番優秀。……ただまあ、毎日頭をこれでもかって疲れさせてるから、こうやってたまに息抜きしないといけないんだと思う。だからもし奈々ちゃん、……あ、ごめん奈々ちゃんでいい?……奈々ちゃんがそういった部分で人工知能を理解しようと思ってるんだったら、このサークルは正解かもしれない」
真野先輩はそこまで説明すると、「これで説明になってたかな?」と確認した。
「はい、ありがとうございます」と私は返して、やっぱりその後サークルや人工知能の話なんてほとんどしなかった。……何の話をしてたかな。
ただ思ったのは、そこから窓を薄く照らす陽が出るまでの時間があっという間に感じられたことだった。鳴沢先輩も、美希も、その時間まで一度も起きずにぐっすりと寝ていた。
「私ね、鳴沢のこと好きなの。結構本気で」
「え?そうなんですか?」
「鳴沢には一回振られてるんだけどね」
「えー!こんなに綺麗な人振るなんて、……先輩だけど、馬鹿ですか」
「彼からしてみると、お前とずっと一緒だと、四六時中人工知能のことを考えないといけないから辛いんだって。そんな理由で振られてもこっちも納得出来ないよね」
真野先輩はそう言いながら笑っていたけど、彼女が彼に持つその気持ちの度合いも一緒に感じられたような気がした。
「鳴沢先輩も随分勝手な人なんですね」
「……まあ、そんな勝手な鳴沢に惚れてるところもあるから」
惚れてる、なんて、真野先輩はさらっと言ったけど、そんな簡単に言えることなんだろうか。私は誰かに、惚れてる、なんてこと言ったことあっただろうか。こんな時間、みんな寝静まったこの時間なら、なんかさらっと言えそうな気がする。言いづらいこととか、恥ずかしいこととか、さらっと。
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