『短編』あなたが好きなあの人より、あなたが好き 第5回 /全7回
「ルールは簡単。この店に次に入ってくるのが男の人だったら俺の勝ち。女の人だったら美希ちゃんと奈々ちゃんの勝ち」
「っていうか、仮にですよ。もし私たちがサークルに入りたかったとして、それで私たちが勝ったとしたら入れなくなるってことですか?」
「ゲームだからな、そういうことになる」
ゲーム、ゲーム、ってよく分からないけど、深夜のこの時間、私たちはそうでもしないと朝までの退屈な時間を過ごせなかった。渋々承諾すると、皆が入り口の方に目を向ける。だけどこんな辺鄙(へんぴ)な時間だからか、一向に誰も入って来ない。私たちが待っているから無理にでもそうさせているような気がした。なんだか少ししらけてきた時に、
「いらっしゃませー。お煙草はお吸いになりますか?」
と声が聞こえ、皆で入り口に目を向ける。男の人が立っていた。
「はいー!俺の勝ちー!」
突然立ち上がりながら鳴沢先輩が大きな声を上げる。さほど賑やかでもない店内にその声が響き、私は居心地の悪さを感じた。周りにいる人をみるとたまたま目が合った他のお客さんは、酷く迷惑そうな顔をしていた。
「ちょっと、鳴沢。騒がないでよ」
真野先輩が喝を入れた。最初賑やかだった鳴沢先輩は、急にその勢いをなくし、静かになったかと思えばテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。女三人で話していたけど、美希もその内「ちょっと寝てもいいー?」と言ってテーブルに顔を埋めてしまった。
「大体いつもこう。鳴沢って最初だけなの」
「そういう人っていますよね」
「そう、正にそういう人」
「どうですか?サークルは?実は私、結構真剣に人工知能とか興味あって、その研究とかやってみたいって思ってるんです。それでそんなサークルがあるって知った時は結構嬉しくて、話を聞きに行ったんです」
「うん、うん」
「鳴沢先輩も、大学で会った時は結構真剣にやってる感じに見えたんですけど。……なんていうか」
「今日はそんな感じじゃなかった?人工知能なんて適当にやってる感じに?」
「ああ、……まあそんな感じです」
真野先輩は笑った。
「確かに。今日だけ見たらそう見えるかも」
「で、どうなんですか、実際」
「実際……」
真野先輩は一度呼吸を置いてから、話を続けた。
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