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「本をつくる」だけが出版社の仕事じゃない

私たち出版社は本をつくることを生業としています。遊泳舎の場合、雑誌は刊行していないので、これまでに売り出した商品の100%が書籍です(書籍と雑誌の違いについてはこちら)。

では、出版社は本以外のものは一切つくらないのでしょうか? そんなことはありません。商品の100%が本だとしても、売り物ではない「本以外」のものを日々制作しています。

書店に本を知ってもらうための「注文書」


出版社がつくった本は、書店で販売されます。食品ならコンビニやスーパーマーケットで、家電なら家電量販店で販売されているように、メーカーが直接商品を販売するわけではありません。メーカーとお客さんをつないでくれる存在が、小売店なのです。

つまり、メーカーである私たち出版社は、つくった本を読者の方々に届けるために、まずは書店に本を置いてもらうことから始めなければなりません。いわゆる「書店営業」です。やり方は出版社によっても営業担当者によっても千差万別だと思いますが、要となるツールの一つに「注文書」があります

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『GOOD DESIGN FILE 愛されつづけるデザインの秘密』の注文書

注文書には、タイトルや定価、ページ数やISBNといった本の基本的な情報が載っています。また、書店側が注文冊数を記入する欄や、書店固有のIDとなる「番線」を押印したり、住所や書店名を記載したりする欄が設けられている点は共通しています。しかし、逆にいえばそれ以外のルールはありません。そのため、少しでも本の魅力を伝えるために、各出版社があの手この手で工夫を凝らしています。

弊社も例外ではありません。弊社の場合はビジュアルを武器にした本が多いため、A4用紙一枚という限られたスペースの中で、いかにして本の情報とビジュアルの魅力を伝えるかに、頭を悩ませています。

たとえば書影を大きく扱えばインパクトはあるけれど、中のページや、情報を載せるスペースは少なくなってしまいます。逆に情報を詰めこみすぎると、毎日書店に山ほど届くであろう注文書の中で際立つことができません。

また、FAXで営業を行う際は、紙面がモノクロになってしまうため、なるべくモノクロでも雰囲気が伝わりやすいページを選ぶといった配慮も必要です。


読者に本を見つけてもらうための「拡材」


さて、書店の担当者に本を気に入ってもらい、置いてもらえることが決まりました。いざ、発売日を迎えます。あとは指をくわえて見ているだけで、飛ぶように本が売れていく……なんてことは、まずありません。数え切れないほど本が並ぶ書店の棚で、お客さんに本を見つけてもらう必要があるのです。

著者はもちろん、デザイナーや印刷会社、それに本を気に入ってくれた書店員など、一冊の本が書店の棚にたどり着くまでには、多くの人々の想いを背負っています。どんなに魅力的な本であっても、まずは手に取ってもらうことができなければ、その魅力を知ってもらうことすらできません。

そのためのアピールとして、POPやパネルなど、本の魅力をより効果的に宣伝する「拡材」をつくります。一般的に、POPは書店ごとに手描きでつくっているものをイメージするかもしれませんが、出版社がつくったものを飾ってもらう場合もあります。

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弊社の場合は、ポストカードの半分くらいのサイズに、本のイメージを伝えるためのビジュアルを入れ、短いコピーを添えたタイプが多いです。作り手側からすると、意気込みすぎてついつい情報を山盛りに入れたくなってしまいますが、いざ試作品ができたときに、文字が小さすぎて読めないこともしばしば。

結局、最後に本を買うかどうか決めるのはお客さんです。そして、その判断を左右するのは、本自体の魅力です。だとすれば、POPの役割は、本を手に取ってもらうための最初のひと押し、つまりそっと呼びかけるくらいのイメージで良いのではないかと思っています。

本を購入したいと思ってもらうための「特典」


ここまでの過程があって、ついに本を手に取ってもらうことができました。書店にひしめき合っている本の中で、一瞬でも触れてもらうことができたら、それは奇跡と言ってもいいかもしれません。

最後は、本を買ってもらえるかどうかです。もちろん「この本の表紙可愛い」とか、「面白そうだから立ち読みしてみよう」とか、そう思ってもらえるだけでも嬉しいことではありますが、やはり「買ってもらうこと」がその本に関わった人すべての願いであることは間違いないでしょう。

本は、決して安いものではありません。欲しい本は他にもたくさんあるでしょうし、本以外にも欲しい物やお金が必要な場面はあるはずです。そんな中で、せっかく書店に足を運んでくれた人が、奇跡的にその本を手に取ってくれて、買うかどうか迷っている……。そんなとき「この本を連れて帰りたい!」と思ってもらう動機の一つとして、そして「このお店に来て本を買ってよかった」と喜んでもらう要素の一つとして、「特典」を用意することがあります。

特典は、単にデザインを変えるだけでなく、本ごとの相性を考えて、どんな物にするかを決めています。

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たとえば『悪魔の辞典』と『ロマンスの辞典』では、本に掲載したイラストと言葉を使用したコースターをつくりました。『くらやみ祭ってナンだ?』では、著者・かぶらぎみなこさんと、コラボした映画「くらやみ祭の小川さん」主演・六角精児さんの似顔絵が可愛いポストカードを。

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言の葉連想辞典』『26文字のラブレター』『GOOD DESIGN FILE』では、本に挟んでPOPとして書棚を彩り、購入した方がそのまま持ち帰って栞としても活用できる「栞型POP」をつくりました。

つくっている側の私たちも、毎回アイデアを出し合うのが楽しくもあり、悩ましくもある瞬間です。


今や、本は情報を得るための手段としての役割を終えつつあります。そんな中、私たちは「読む」だけでなく「体験」できる本づくりを追求しています。装丁を始めとする「モノ」としての本の魅力にこだわる一方、直接購入してもらうわけではない拡材や特典といった制作物にも気を配ることで、少しでも本を取り囲む世界を盛り上げていけたら——、そう願うばかりです。


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