【ビブリオバトル日本一の本紹介】13日目『残像に口紅を』
あなたにとって、世界から消えたら困るものってなんですか?
家族とか友人、それか大事にしている宝物、もしくはお金なんて人もいるかもしれません。
ですが、今絶対に誰も思いついていない、とある大切なものがこの本の世界からは消えてしまうんです。
それは一体なんでしょうか?
今日は、2021年のビブリオバトル全国大会で紹介した思い出の一冊を紹介します。
*前回の本紹介も併せてご覧ください!
世界から〇〇が消える?
今回私が紹介するのは、筒井康隆作『残像に口紅を』という本です。
さあ、みなさん気になっていると思います。この本から消える「とある大切なもの」ってなんなんだ?
それはズバリ、文字です。
日本語の五十音、ありますよね。あれが、時間が経つごとに一つまた一つとこの世界から消えてしまうんです。
消えるというのは、どういうことかっていうと、たとえば、「い」という文字が消えたなら、犬っていう動物も消えます。他にも、名前に「い」という文字が入っている人やものはすべて世界から消えちゃいます。これが文字が消えるっていうことなんです。
ちょっとまだイメージできない方もいらっしゃると思うので、1つのシーンを紹介させて下さい。
主人公が家族とフランス料理を食べに行ったときのこと。
そのとき「ふ」という言葉が世界から消えました。
すると、さっきまでそこにあったナイフとフォークは消えます。そして運ばれてくるはずのフランス料理も、別の料理に変わっていました。
更に、さっきまでそこに座っていたはずの娘・文子(ふみこ)さんも、世界から消えてしまうんです。
これが文字が消えるということなんです。
この本からも文字が消えていく
ここで、私が思うこの本の最大の魅力を紹介させてください。
この世界では、最初から「あ」という文字が消えているのですが、この本の文章中にも最初から最後まで「あ」という文字は出てきません。
お分かりでしょうか?
実はこの本、ただ文字が消える世界を描いたってだけじゃありません。
ストーリーに合わせて、実際にこの本自体からも、使える文字が減っていくんです。それなのに、この物語は止まることなく、進んでいきます。
いやいや、文字が消えていったらもう小説として成り立たないんじゃないか?!
そう疑っちゃいますよね。
でも、今そう思っている人にこそ読んでほしい。
必ず驚きます。
私自身この本を読んでいるときに、「ほんまに文字消えてるん?」と何度も疑ってしまったほど、作者の巧みな表現力によって物語はスムーズに進んでいくんです!
文字が消えていく恐怖
さて、この本では、誰かが殺されるわけではないし、なにか重大な事件が起こるわけでもありません。
だから私は実際にこの本を読むまで、
「文字が消えるだけか・・・自分にはちょっと刺激が足りないだろうな」って思ってました。見くびってたんです。
でもこの本を読み終わった身としてこれだけは言わせてください。
文字が消えるというのは、あなたが想像しているよりスリリングです。
少し思い出してください。最初に私が「世界から消えたら困るものってなんですか?」と聞いた時、きっと誰一人として「文字が消えたら困る」なんて思わなかったでしょう。
そう、決して失われるはずがないと思っていた文字というもの。
それが1つずつ消えていくことへの恐怖と、それを上回るドキドキ感。
そして、ついページをめくってしまう止まらない好奇心があなたの頭をいっぱいにしてしまいます。
さあここまで話してきましたが、文字が消えていくと言っても半分以上残るんだろうなんて見くびらないでください。
この本では残る文字が4つ、3つ、2つ・・・
そして最後の1つになるまで、物語は続いていきます。
極限まで文字が消えた世界で生き続ける主人公の結末をぜひ、その目で見届けてください!
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