【ビブリオバトル日本一がガチで30日間本紹介してみた】6日目『母の待つ里』
アメリカに旅立って早くも3ヶ月が経ちました。
新天地に胸を躍らせる反面、ふと心に浮かぶのはやっぱり母の顔ですね。
ということで、今日は母にまつわる一冊を紹介します。
『母の待つ里』:あらすじ
今、あなたが会いたい人は誰ですか?
「推しに会いたい」「恋人に会いたい」「ペットに会いたい」・・・人それぞれあると思います。
しかし、この質問に「お母さん」と答える人はどのくらいいるのでしょうか?そして、大人になるにつれて、この言葉の重みというのはどう変わっていくのでしょうか。
今回紹介するのは、浅田次郎作『母の待つ里』です。
このタイトルからわかる通り、この本のテーマは大人の里帰り。「母」に会いたいと願う男女3人の視点から描かれていきます。
この本に登場するのは、大会社の社長、病院勤務の女医、そして会社の部長と、周囲から見れば「成功している」と思われるような大人ばかりです。
ただ、その中身は真逆でした。
社長ではあるけれど、家族のいない孤独な松永。女医の夏生は母を亡くしたばかりであり、部長の室田は定年と同時に妻に離婚を言い渡されてしまいました。そんな人生に疲れた3人が選んだのが「里帰り」だったのです。
もう一つの顔:仮想のふるさと
さて、ざっとあらすじを聞いた感じ、なんだか穏やかなエッセイのような雰囲気ですね。社会に疲れた大人たちが、故郷に帰って母の胸に飛び込むという温かいお話ーーまさにドキドキハラハラという言葉の対極にあるような物語です。
ただ、私としてはこのビブリオをそんな感動系で終わらせる気はありません。実はこの本、第二の顔を持っています。
この本は3人がそれぞれ里帰りしている・・・ように見えて、実は重大な繋がりがあります。
帰る「ふるさと」は同じ場所。そして全員が同じ「母」に会っているんです。
三人は兄弟?いえいえ、全くそんなことはありません。
これはユナイテッド・ホームタウン・サービスという会社が提供する里帰りサービスだったんです。
つまりこの本の本当のテーマは、故郷を持たない大人たちが1日だけ戻れる「理想のふるさと」。
ちなみにお値段はなんと一泊二日で55万円なのですが、これを聞くとばかばかしいと思われるかもしれません。しかし、今そう思っているあなたにこそこの本を手に取っていただきたいんです。
年齢が上の方ほど、登場人物の年代と自分の現状を重ね合わせて、その深い感情の揺れに共感できてしまうはずです。そして物語が進むにつれて、どんどん引き込まれ、気づけば一気読みしてしまっていること間違いありません。
一度この「ふるさと」に足を踏み入れれば、そしてこの「母」に出会ってしまえば、このサービスの計り知れない魅力に虜になってしまいます。
この本のターゲット:人生に疲れたあなたへ
人生に疲れた時、大事な仲間が自分から離てしまった時、自分のしていることが正しいのかわからなくなった時。
そんなあなたを、「何があってもあなたの味方だから」と包み込んでくれる人がいるというのは、大人にとってどれほど貴重な存在なのでしょうか。
自分を迎えてくれるふるさと、そしてそこで待つ母の無償の愛。そんなお金で買えないものを、もしもお金で買えるとしたらーー現実から離れた設定ではありますが、そんな温かい世界を見せてくれる至福の一冊です。
そしてこの本は、現代を生きる私たちに大切な問いも投げかけます。
あなたは母を大切にしていますか?
今の生活に後悔はありませんか?
家族との繋がり以上に、他のものばかりを追い求めてはいませんか?
フィクションとは言いながら、どこまでも私たち読者の胸に迫ってくるこの一書。ぜひ手に取ってみてください。