僕がコントや演劇のために考えていること
私が心の底から尊敬している劇作家「小林賢太郎」の著書『僕がコントや演劇のために考えていること』は人生という創作活動において悩める全ての人にオススメしたい至極の一冊です。
アイデアは思いつくというよりたどりつくもの
「僕がコントや演劇のために考えていること」より引用
この本は劇作家「小林賢太郎」が面白くて美しい、不思議で笑える作品を作る際に大切にしている99の思考を紹介するものです。
小林賢太郎とは何者なのか?
小林賢太郎は1973年生まれ、多摩美術大卒の劇作家/元パフォーミングアーティスト。なぜ「元」パフォーミングアーティストなのかというと2020年12月に芸能界の全ての表舞台から引退表明をし、演者としての肩書きを外したためです。
小林賢太郎の創作活動は多岐に渡り、多摩美術大在籍時代に片桐仁と結成したコントグループ「ラーメンズ」を初め、小林賢太郎プロデュース公演やソロプロジェクトPOTSUNEN、コント集団カジャラといった舞台活動を中心に様々な媒体で出演、脚本、演出などを行ってきました。
小林賢太郎の創作する世界は既存の「お笑い」の枠組みの外に向かっており、「面白い」の領域を拡大し、コントの可能性を広げ、「芸術」とまで評価される高いアート性と、観るものを魅了し、思考させる高いエンターティメント性が特徴です。
ラーメンズのコントは2021年時点では古いものは20年以上前のネタになるにも関わらず、今見ても「新鮮」で「面白い」ものです。
時に天才と称される「コントバカ」こと小林賢太郎の思考についてまとめた書籍が『僕がコントや演劇のために考えていること』なのです。
クリエイターだけじゃない、多くの人に読んでもらいたい理由
『僕がコントや演劇のために考えていること』というタイトル通りこの本は「小林賢太郎がコントや演劇のために日常的に考えている思考」についての本なので、小林賢太郎と同じく「創作活動」をする方がターゲットなのだと思います。
小林賢太郎の頭の中を除いて「創作活動のヒントを得る」ための本。
つまり、創作活動を仕事にしていない方は本書を読んでも「小林賢太郎という人物について深く知れるだけ」なのではないか?と、思う方もいると思いますが、実際はそんなことはありません。むしろ、どのような人が読んでも得られることのある本であると自身を持って言えます。
人生とは創作の連続です。
クリエイティブとは「芸術作品」だけではありません。
日常生活の中に「創作活動」は潜んでいて、最終的に自分の人生として作品が完成します。
この本は全ての創作活動において指標となる本質が紹介されています。
それはきっとあなたの創作活動におけるヒントになること間違いないでしょう。
あと、小林賢太郎が好きな方は読んで損はありません。
彼の作品が何十倍にも面白くなること待ったなしですので!
①「行動」に対する新しい視点が得られる
小林賢太郎は自分自身の意思で物事を「決定」することが大切であると説いています。
小林賢太郎はテレビに出ません。これは小林賢太郎自身が自分の作品を守ためにテレビとの距離を取っているためです。メディアによって作品の面白さよりも「認知度」が先行してしまうことで「面白さ」が評価されないことを防ぐのも目的とのこと。
また、作品作りに関しても「難しいことを選ぶ」と述べています。なぜなら難しい方を選ばなければ「新しいもの」は生み出されないため「誰かがだした結果」しか得られないためです
小林賢太郎は「自分への投資」についても述べており、これは全ての人にとって刺さる思考だと思います
僕は本をよく買います。しかし読書家というほどの本を読むわけではありません。
〜中略〜
僕は本屋さんでパラパラと本をめくって、1行でも自分のためになると思ったら、その本は買っていいことにしています。
「僕がコントや演劇のために考えていること」より引用
「環境」や「経験」にも惜しげなく投資をすると述べており、「お客さんの視点」に立つために一流のエンターテイメントに触れることも忘れないようにする。そして何よりも私が重要だと思ったのが「自分で決める力を養う」ということです。
小林賢太郎は何かモノを選ぶ時に「口コミ」や「レビュー」を参照にするのではなく、自分が「面白そう」「美味そう」と思ったかどうかで選択をするそうです。
これは「良いモノを見極める能力」を鍛えるトレーニングにもなり、自分と対象が誰にも干渉されずに自身の思考で選べるようになるというもの。
「選ぶ力」はアーティストだけでなくビジネスマンや学生など様々な領域で生きる考え方だと私は思っています。
②「ビジネスのヒント」が詰まっている
小林賢太郎の作品は数年前の作品でも古さを感じさせずに観ることができます。時間に対する耐久性が非常に優れているのです。
これは耐久性のある事柄を題材にコントを構成しており、最新のものを簡単に使用しないことが耐久性を上げるポイントなのだそう。
また、ラーメンズの「箱と白または黒の衣装のみの舞台」に代表されるように小林賢太郎の作品は舞台上の情報をあえて制限している傾向にあります。これによって「顧客の頭の中で場面を補う」という作用が働き、どの時代で見ても古さを感じさせずに「その時代を反映した」景色を連想させることができるのです。
小林賢太郎はコントを作るときに「既存の枠組みを外す」「普遍性のある言葉選び」「顧客個人に場面を補完させる」「顧客が芸を感じれる瞬間を作る」といった考え方で組み立ていくそうですが、これはビジネスにおいても言えることです。
最新のトレンドに振り回されるビジネスにおいて「本質」を押さえておくとトレンドが廃れた後も新しい切り口でビジネスを続けられることがあります。
これも「時間の耐久性」を上げることがヒントとしてありそうです。
本書には他にも「ファンに対するサプライズ」「ファンを作る方法」「効果的なチラシの使い方」「客観視の重要さ」も述べていることもビジネスに役立つポイントだと思います。
③「アイデア」の見方が変わる
「代案のない否定をしない」「できる方法を考える」「自分の好きを言語化する」「何をやるか」「完成品を素材にする」と小林賢太郎は創作活動のアイデアのもとになるパーツを常日頃からストックするそうです。
様々な要素を組み合わせてくと「アイデアにたどり着く」瞬間が訪れます。
本書では「オリジナルを創作する」ことに対して色々な角度から創作論を述べていますが、中でも私の心に刺さったのは「0から1」を作ることから逃げないという教えです。
0から1をつくるということは、とても難しいことです。けれど、必死にもがき苦しめば0.1くらいは生み出せるものです。あとは、それを10回繰り返せばいい。
「僕がコントや演劇のために考えていること」より引用
④「面白い」の領域が広がる
「面白いの領域は無限」と小林賢太郎は述べます。
「面白い」は「お笑い」だけではなく、「美しい」も「不思議」も「恐怖」も「悲しい」も「愛おしい」も「快感」も「悍しい」もすべて面白いに含まれるため「面白いの領域は無限」であるとのことですが、私はこの考え方を知った時、改めて小林賢太郎の作り出すコントは奥深いと思ったものです。
「笑い」が必ずしも「面白い」ではないということ。
本書では「楽しみ方が下手な人」についても述べられています。「感情を出すことが恥ずかしいこと」と思っている人は一定数いるもので、小林賢太郎の作品はそういう人たちに向けて作られていると。
「面白い」という現象に対して私自身が何も考えたことがなかったことに対して恥ずかしく思ったのと同時に、「何かを創作すること」に対しても作品に対する様々な角度から見る気づきにも繋がりました。
⑤「創作」への意欲が上がる
『僕がコントや演劇のために考えていること』を読むと自身も何か表現をしてみたいと思うようになります。
創作の世界の厳しさは本書を読むとひしひしと感じるものです。それでも創作をしてみたいと思えるのは本書の持つ最大のエネルギーだと私は思います。
「芸で食っていくには、憧れよりも覚悟が大事」と本書でも述べている通り、クリエイティブな世界で生きるのであれば覚悟が必要です。でも、それは「生きること」全てに言えること。
一度きりの人生しかない「という覚悟」を決めることで創作活動を今から始めたって良いと私は背中を押された気がしました。創作活動を始めるということに対しても「始める覚悟」「続ける覚悟」が必要なのです。
『僕がコントや演劇のために考えていること』を読んで
私はラーメンズのファンであり、小林賢太郎のファンです。
ラーメンズのコントは映像化されている作品は全て観ていますし、ラーメンズに関する書籍や雑誌のインタビューも集めて読んでいるほど好きです。
小林賢太郎のファンでもあるため、彼の手がけた作品を一通りチェックしています。
彼を「天才」だと思い、天才が作り上げた創作の世界を体験できる時代に生きている自分は幸運だと何度も思ったほどです。
本書『僕がコントや演劇のために考えていること』はそんな小林賢太郎への憧れをいい意味で崩してくれるものでした。
彼の「努力」を見て見ぬ振りをしていたのだと思い、恥ずかしくなるのと同時に、私自身も「人生の創作活動」に対してもっと覚悟を決めて取り掛かろうと気付かされました。
この本は私のバイブルで、何度も読み返しています。
何度も何度も読み返して、私は私の世界を表現する。
『僕がコントや演劇のために考えていること』はあらゆる人の背中を押してくれる厳しくも優しい一冊なのです。
【小林賢太郎の創作活動】
コント、演劇、演出、脚本、役者、パフォーマー、コメディアン、漫画家、アニメ監督、小説家など多岐にわたる小林賢太郎の創作活動を紹介。
・コントグループ「ラーメンズ」
お笑い芸人/俳優/粘土造形作家の片桐仁と多摩美大在籍時代に結成したコントグループ。舞台を中心に活動し、コントでは日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常を描く。シンプルでミニマルな舞台芸術と、コントとも演劇とも言える絶妙な空間設定が特徴。 YouTubeにて本公演の全コントが公開されている。
・小林賢太郎プロデュース公演「K.K.P.」(小林賢太郎演劇作品)
小林賢太郎がプロデュースする舞台で、脚本・演出を務め、自らも出演する。チケットは即完するほどの人気を誇る。実力派舞台俳優とのやりとりも本公演の魅力の一つ。笑いあり涙あり驚きありの舞台芸術の世界。一部作品トがYouTubeにて公開されている。
・ソロプロジェクト「Potsunen」
出演、脚本、美術のすべてを小林賢太郎が手がける一人芝居。実験的な作品が多く、パントマイム、マジック、イラスト、パズル、舞台装置、映像、言葉遊び、音遊び、光の演出など様々な演出で観客を独特な世界へと誘う。ラーメンズと同じく笑いとも演劇ともつかない独自の世界観が特徴。2012年にはパリとモナコで海外公演も行われた。全作品YouTubeで公開されている。
・コント集団「カジャラ」
小林賢太郎が脚本・演出を手がける新作コント公演。第1回公演『大人たるもの』はラーメンズ片桐仁と7年ぶりの舞台共演となり大きな話題を生んだ。「コントマンシップ」に乗っ取った作品で、小林賢太郎が描く正々堂々としたコントが特徴。第1回公演のみYouTubeで公開されている。
・コント番組「小林賢太郎テレビ」
NHK BSプレミアムにて2009年から2019年にかけて年に1回放送されていた小林賢太郎が手がけるコント番組。内容は新作コント、インタビュー、制作過程がメインで、番組の後半には制作期間3日、カメラ1台、編集・合成なし、セットや小道具は自作という条件で、お題に沿ったコントを制作し披露する『お題コント』のコーナーがある。
・映像製作ユニット「NAMIKIBASHI」
小林賢太郎と映像作家の小島淳二(teevee graphics)による映像製作ユニット。国内外におけるショートフィルムフェスティバルにて多数の受賞をしており、日本の伝統を面白おかしく表現した映像作品『THE JAPANESE TRADITION 〜日本の形〜』に代表されるように小林賢太郎の独自の世界観を映像という媒体を通じて表現するもの。
・大喜利ユニット「大喜利猿」
小林賢太郎と升野英知(バカリズム)による大喜利ユニット。芸風の特徴は二匹の大喜利猿が与えられたお題に対して答えていくというもの。大喜利猿は書籍展開されていることも特徴の一つ。
・音楽ユニット「SymmetryS」
小林賢太郎と田中知之(Fantastic Plastic Machine)による前衛的な音楽コントを展開する「ヘッドフォンオペラ」。エクレティックな音楽とコントという組み合わせは今までのコントとは一癖も二癖も違う独自の「面白い」を与えてくれる。
・漫画「鼻兎」「ハナウサシリシリ」「ハナウサカイグリ」
「鼻兎」(講談社 2001年9月 - 2004年12月)とイブニングにて連載中の「ハナウサシリシリ」(講談社 2019年1月 - 2020年1月)は小林賢太郎が手がける漫画作品。2020年4月よりTwitterにて「ハナウサカイグリ」が不定期連載されるようになった。小林賢太郎が描くシュールな日常が特徴的な漫画。
・絵本「うるうのもり」
2016年2月に発表した絵本「うるうのもり」はうるう年にだけ上映されていたKKP『うるう』の絵本。小林賢太郎は度々「うるう」をテーマにコントを描いており、「うるうのもり」はその絵本という特徴から描かれた作品。悲しくて、切なくて、面白い…そんな不思議な世界観が特徴。また小林賢太郎は絵本『オレ、ねたくないからねない』などの翻訳も行っている。
・アニメ監督「カラフル忍者いろまき」
小林賢太郎が監督、脚本、キャラクター原案を手掛けたアニメーション作品。キャラクターデザインから小林賢太郎の世界観が伝わり、非常に暖かい作風。
・書籍「短篇集 こばなしけんたろう」
小林賢太郎による短編小説(コント)。ラーメンズやPOTSUNEN、KKP、カジャラを観たことある人は自然と脳内で舞台が広がる作品群が特徴。2019年に東京と名古屋で『小林賢太郎の「本」展 ~ 絵本と漫画と短編小説の、原画と原稿とメイキング資料 ~』も開催された。また、書籍活動としてラーメンズのコントは『小林賢太郎戯曲集』として書籍化もされている。
・note「小林賢太郎のノート」
2021年1月から始まった「小林賢太郎のノート」は25年創作活動をしてきた中で学んできたことを種明かしするノート。「表現を仕事にするということ」を中心に小林賢太郎の周りに起きたことなどを自由に記す場。
・俳優/役者
小林賢太郎には「俳優/役者」としての一面もあり、様々な映像作品に出演している。代表的なのは椎名林檎の『茎 (STEM) 〜大名遊ビ編〜』のPVや映像作品『短篇キネマ 百色眼鏡』への出演。ケンタッキー、トヨタホーム、三井住友海上のCM出演などが挙げられる。