美しい農業
今日の記事は、今月見学させていただいた、八郷のとある農家さんについてです。
八郷には、移住して就農した人がたくさんいます。
20年以上前に始まったゆめファームという研修制度と、7年前に始まった朝日里山ファームという研修制度があるからです。
8月に放送されたいいいじゅー番組内のナレーションによると、石岡市の有機農家のうち8割は移住者なのだそうです。
八郷の数多の*有機農家の中でも稀有な農業をされているのが、2001年に移住したあらき農園さんです。
*正確には、あらきさんの営農スタイルを「有機」という広いカテゴリでは表現しきれません。
あらき農園さんのインスタグラムのプロフィールには、
リジェネラティブ農業(環境再生農業)の実践
無農薬・無化学肥料の不耕起栽培
カバークロップで仕事を楽しく
宿根草、花木で心豊かに
平飼い鶏で農園内が物質循環
と書かれています。
日本ではまだまだとてもニッチな営農スタイルですが、あらき農園さんのインスタグラムの投稿を読んでいると、少しでも農をかじっている人なら、これは単なる有機農業とは違うな、というのがわかると思います。
あらき農園さんでは、八郷留学がまだ生まれたてで、有料でプログラムを開催するようになってから2回目の2020年11月に、さつまいも堀りの体験をさせていただいたことがあります。
また、娘さんが八郷留学のスタッフのお手伝いに来てくれたりと、八郷留学の歴史の中では比較的長くお付き合いがあります。
八郷留学が独自の畑を始めてから1.5年が経った今、以前は分からなかったあらきさんのすごさが、インスタを見ているだけでもひしひしと伝わってくるようになりました。
ちょうど、鶏を飼うことについてお聞きしたかったので、アポを取って見学させていただくことに。
当初は鶏の話を聞くのが主目的だったのですが、実際に伺うと、予想以上に畑での発見が多く、結局2.5時間もお邪魔してしまいました。
こんな畑、初めて見た!
あらき農園さんの普通の有機農業と違うところを挙げてみます。
まず一つが、耕さないという点。
不耕起栽培ってやつですね。
土中には無数の菌類が根を張り巡らしていますが、耕すとそれらを不用意に攪拌してしまうことになるそうです。
多様な菌が活動しているおかげで、耕してないのに土はフカフカで、栄養分が豊かなのです。
次にそれと関連して、絶対に土を裸にしないという点。
普通は収穫が終わったら、トラクターでうなって土を "綺麗に" します。
しかしあらき農園さんでは、とうもろこしやトマト、ナスなどの果菜類の木の根っこが残っているところに、そのままカバークロップ(≒緑肥)をまいたり、次の作付けをしたり、枯れ草などを被せて堆肥化したりします。
こうすることで、常に有機物の豊かな環境となり、菌類にとって(ひいては野菜にとって)とても都合が良くなるのです。
そして目から鱗だったのが、同じ作物を2畝以上並べて作付けしないということです。
出荷を分散するために作付けの時期をずらしたとしても、同じ作物が隣同士に並んでいた方が管理が楽だと考えるのが普通でしょう。
しかし、異なる作物を隣に作付けすることで、収穫が終わった後に、畑に残る非可食部の枝などを、隣の畝に肥料として被せたり、資材として流用できたりするそうです。
あらきさんの圃場の畝は全て22メートルに統一されています。
これは、農業資材が50メートル単位で販売されていることが多いので、歩留まりも考えて資材を無駄なく使うためだそうです。
それらは合理的かつ見た目にも美しく、自然栽培にありがちな、どこが雑草でどこが野菜かわからない状態では決してありません。
生物多様性の名目で雑草取りを怠った結果、害虫が増えて可食部が減る、みたいなのは本末転倒すぎます。
あくまで畑や庭は人間の営みの場であって、原野や山とは違うからです。
主体的に作ることが豊かさなのでは
大規模大量生産の農家からしたら、そんなちまちましたことやってられない、といった感じでしょう。
一般的な有機農家の平均作付け面積の40分の1しか畑をやっていない八郷留学でさえ、あらきさんの真似をしようと思ったら結構大変そうだな、という印象です。
しかしあらきさん曰く、考えることは倍になったけど、打たなければならない手数は半分になったそうです。
さらに、今までと同じ収量を、半分の面積で作れるようになるとのこと。
前回ここでこれ作ったから次は、、、とか、
コンパニオンプランツとしての兼ね合いとか、
確かに、ものすごく頭を使いそうです。
実はあらきさん、一般的な有機栽培農家として営農していた時代に体調を崩したことが、農業のやり方を変えるきっかけになったそう。
農家が心身の不調を経験するという話は、いくつかケースを聞いたことがあります。
都会のストレスに苦しんでいる人からしたら、意外に思われるかもしれません。
自然と一番近くで接している農家であっても、いや、人間が抗えない自然と、人間が完璧にコントロールできると考えられてきた社会との間にいるからこそ、なのかもしれません。
大切なのは、それをいかに愉しめるかなのではないでしょうか。
土中の菌のありようを想像しながら、自分ができることをして、その結果を観察するあらきさんの目の、どれだけ輝いていることでしょう。
6月にインタビューした哲学の先生のお言葉です。
あらきさんの美しい畑が、あらきさんご本人の絶えぬ探究心に突き動かされた、地道な努力と泥臭い試行錯誤の結果だとわかると、ただの美しさでは語りきれないものを感じました。
この記事が参加している募集
もし私たちの活動に共感しサポートしてくださる方がいたら、差し支えなければお名前を教えてください。お会いできればもっと嬉しいです。いただいたお金は、子どもたちと八郷の里山のために使わせていただきます。