相次ぐ募集停止で問われる、私立大学のレーゾンデートル ④
想定を超えて加速する少子化
私立大を取り巻く、少子化や経営環境の厳しさについて、見てまいりましたが、国や行政は、どのような動きをしているのでしょうか。
中央教育審議会の大学分科会長を務める永田恭介氏(筑波大学学長)は、
日本経済新聞のインタビューで次のように語っています。
国立大学協会(国大協)の会長も務める永田氏は、想定を超えて加速する少子化が国立大学にも迫っていることを認識していることがわかります。
国立大の責任感は伝わってくるが・・・
ところで、永田氏がおっしゃる国立大、私立大が持つそれぞれの役割とは、何を意味しているのでしょうか。
永田氏は、国立大は地域の人口が減って苦しくなっても、学びたい人に門戸を広げないといけない、と述べていますので、国立大学は高等教育における最後のセイフティネットであるべき、というふうに解釈できるでしょう。
この発言を掘り下げれば、仮に私立大学が経営的に苦しくなって募集停止や閉校に追い込まれた場合でも、国立大学はなんとか踏みとどまって、その地域の学生を受け入れる責任がある、ということになります。
国立大学のトップであり、中教審の重責を担っている永田氏ですから、その責任感は、こちらにもひしひしと伝わってきます。
となると、非常事態ではそうした学生を救済するために、国立大は一時的に収容定員の枠を外し、定員を超えて受け入れることもあり得る、ということになるのでしょうか。
国立と私立の役割が入れ替わってしまった?
しかし、一方、私立大学の方の役割はどうなるのでしょうか。
記事を読むと国立大の役割には触れられていますが、私大の役割についての言及はありません。
すでに申し上げた通り、高等教育においては、大学数でも大学生数でも、
圧倒的シェアをカバーしてきた私立大学。
高等教育の歴史を振り返れば、もともと国公立が収容しきれない大学進学の需要を担ってきたのが私立大学であったはずです。
少なくとも、ここでは立場が入れ替わってしまっているように感じますね。
非常事態では、致し方ないことでしょうが、このままでは、私立大のゆくえに不安を覚えてしまいます。
中教審では大学破綻に向けての議論始まる
ところで、中央教育審議会(中教審)の方では、このような事態に対応すべく、大学の経営破綻や閉校についての議論がはじまっています。
2月24日に開かれた中教審の大学分科会では、第11期の審議まとめとして「学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策について」が発表され、「Ⅲ.学生保護の仕組みの整備」(28~32頁)では、大学の募集停止や廃止に関連する内容が登場しています。
とくに、「学生保護の仕組みの必要性と基本的な考え方」には、次のような基本的なコンセプトが述べられています。
つまり、大学が立ち行かなくなった場合を議論するにあたっては、あくまでも “学生保護”を中心に据えた検討をする、という方針が謳われています。
大学が破綻するような状況になって、在籍する学生が行き場を失うようなことは絶対にあってはなりませんから、学生第一主義の方向で検討がなされるのは至極当然の考え方でしょう。
規模の縮小や撤退を促す指導・支援
かたや、大学の破綻を避けるために国がとるべき予防的措置については、次のように示されています。
つまり、危なくなった大学に対しては、規模を縮小させたり、もしくは早めに撤退させたりする指導を行う、と言っています。
でも、この部分も、あくまで学生保護の観点からのメッセージとなっていますね。
「自主性を重んじる」は放任主義→自己責任で
この章全体を読むと、予想を超えて進行する少子化に対しての強い危機感はよく伝わってきます。そして、学生保護を講じる努力や姿勢、言い換えれば、学生ファーストの精神で取り組みたいという気持ちもよくわかります。
しかし、経営困難に陥り、立ち行かなってしまった私立大学に対しての手立ては、いかがでしょうか?
文面からは、基本的に、自主的に設立した“私立”なのだから、自主性を重んじます。なので、全て自己判断でやってください、ということになるのです。もちろん、国や行政から、撤退や方向転換を促す等の指導や支援がなされるとのことですが、いわば“放任主義”が基本路線なのです。
自ら経営状況を分析し、早期の経営判断を行うよう・・・
実は、このような方針は、このほど閣議決定した政府の「教育振興基本計画」からも読み取れるのです。
そうなると・・・
定員割れはあくまで個々の私立大学の努力不足に起因するもの、
18歳人口自体が急速に減りはじめたのだから、我慢をするしかない、
撤退するなら、迷惑がかからないように、さっさと撤退しなさい、
という話になるのです。
自主性・自律性を重んじられる私立大学にとっては、こうした方針は当たり前のことかもしれませんが、それにしても、無慈悲な辛いメッセージですね。
もはや自助努力だけではどうにもならない
しかし、大学分科会の審議取りまとめには、わずかではありますが、逆の注目すべき文言も含まれているのです。
昨今の少子化は、もはや各大学の自助努力だけではどうにもならない、ということは認めているのです。
また、このような記載もあります。
「適正規模も視野に」というフレーズには、おそらく入学定員や収容定員の見直しが含まれているのでしょう。
つまり、一大学ではどうにもならない全体の定員規模については、政府や文科省が先頭に立って、適正化する必要性がある、ということです。
そもそも定員は適正なのか
ここ数年、定員割れの私立大学が続出していることがメディアでも騒がれていますが、そもそも大学の定員は適正なのでしょうか。
前回触れましたが、2023年度入学者選抜においては、定員厳格化が一時的に緩和されました。
ひょっとすると、この緩和により、上位大学や大規模大学が少しずつ合格者数を多めに出したことによって、中小規模大学や女子大学がそのあおりを喰うかたちで苦境に追い込まれているのではないか・・・
緩和の実態と影響は、今後分析がなされ、いずれこのあたりの状況が明らかになることとは思いますが、いずれにせよ、定員そのものが本格的に議論の俎上にのぼるのであれば、私立大学関係者にとっては一条の光が差す話となるのではないでしょうか。
役割、定員を含めた未来ビジョンに期待
大学破綻に関する本格的な議論は、次期の大学分科会でなされると発表されています。
特に、定員の問題については、聖域ではなく、国公立大学も含めた「適正規模=定員」はどのようにあるべきか、抜本的に議論していただきたいと思います。
今後長期にわたって続くことになる少子化を見据え、国立、公立、私立それぞれの役割分担がどうあるべきか、そして、喫緊の課題である“定員のありかた”をどうするのか、これらを含めた将来ビジョンが描かれることに期待したいと思います。
次回は、大学が募集停止し、閉校することの意味や影響について、
あらためて考えてみたいと思います。
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