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過去には文科相の新設大不認可騒動、早大総長の東大・京大の定員削減論も。しかし、自由放任の路線は継続。規模の適正化ははたして実現するのか

高大接続ラウンドアップマガジン📚
本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。




▶特別部会、後半戦スタート

「中間まとめ」に、“規模の適正化” の文言を盛り込んだ「高等教育の在り方に関する特別部会」。
打ちだした方針に沿って、具体的方策を検討すべく、9 月 10 日、後半戦の議論が開始されました。

はたして、規模の適正化に向けての具体的で実現性のある方策が打ち出されるのか、しっかり注視してまいりたいと思います。


▶田中眞紀子元文科相の不認可騒動。いまとなっては・・・

ところで、過去を振り返ると、大学全体の規模をめぐる大騒動が思い出されます。
 
2012年、当時、民主党政権下で文部科学大臣を務めていた田中眞紀子氏が、認可すべきと答申された新設大学3校を、いきなり不認可にする、と発表してしまったのです。

従来行われてきた設置認可のルーチンワークを無視したとして、文教関係者や世論からの猛反発を食らい、一転、認可することになったわけですが。
しかし、今となっては、“大学が多すぎる”という問題を提起した田中氏の発言・判断には、むしろ文科大臣としての責任感、そして先見性が滲み出ていたのではないか、とも感じるのです。


▶規制緩和による自由放任的な流れ

大学の新設、つまり新設大学の設置認可の経緯に一言触れておきますと、自民党・小泉政権からはじまった政府の規制緩和の大きな流れの中で、条件さえクリアすれば設置が認められるという“自由放任”的な流れがあったわけです。
つまり、申請し、条件をクリアさえすれば、どんどん大学ができてしまう・・・

田中氏の不認可は、まさにそれに抗った判断だったものと言えるのです。
 
しかし、その騒動がおさまると、元の鞘に。
その後も、大きな流れはほぼ変わらず、現在に至っている、といってもよいのです。


▶東大、京大が定員を維持していたら・・・

早稲田大学総長の田中愛治氏は、2022 年 6 月、2 期目を迎えてのインタビューのなかで、18 歳人口減少を見据え、次のようなコメントをしていました。

「2012年に約120万人いた18歳人口は、50年には80万人になる。進学率が現状のままだと、60万人いる大学進学希望者が40万人になる。今の定員のままでは学生の質は落ちざるを得ない。海外から留学生を受け入れても厳しい。財務的な手当てをしながら学生定員を徐々に減らすしかない。その時に東京大学や京都大学などのライバル校が今の定員を維持していたら、早稲田がいくら定員を削減しても学生の質は下がってしまう」

2022年6月28日<日本経済新聞>早稲田大学、10兆円ファンド対象めざす 田中総長に聞く

自分の大学の質維持・向上のためには、実は他大学の定員が問題なのである。
たとえ私学トップに君臨する早稲田大であっても、東大や京大などの日本を代表する国立大が定員を維持し続けると、自らいくら定員を削減しても、学生の質が下がってしまう・・・
早稲田大ですらそうであるならば、他の私学は推して知るべし、ですね。

日本の大学全体のことを考えたら、東大、京大がまず率先して、自らの定員の縮減をはかるべき、とはとても大胆な提言ではありますが、私学のトップである田中氏が発信するメッセージだからこそ、傾聴すべき重みがあるように思えるのです。
 
田中総長の危機感はあくまでも、自大学の質低下について述べた懸念ではありますが、結局は、定員充足率についても同じことが言えるでしょう。
 
質の問題、それはやがて量の問題におよび、定員割れ、募集停止を引き起こす。
これは、火を見るより明らか、なのです。


▶この期に及んでも、国立大は定員増へ

では、これに対し、国立大学は 18 歳人口の減少を勘案して、徐々にでも定員を減らす方向で動いてくれていれば、私学にとって、ほのかな希望の光が見えよう、というもの。
しかし、現実には、若干ではありますが、いまだ国立大学の定員は拡大しているのです!


出典:文部科学省HP 令和6年8月30日 令和7年度国立大学入学定員増減予定表 総括表PDF

 この表をご覧いただければお分かりの通り、来春の入試において、全国で440 名の定員増となっています。
(ちなみに、令和 6 年度も 106 名の定員増加となっており、2 年連続増です!)

もちろん、高校 3 年生の大学進学率はまだまだ 100 %には届いておらず、伸びしろがまだ残されていると言えます。また、データサイエンスやAI分野などの人材不足の分野については、枠を広げたくなる気持ちもよくわかります。

しかし・・・
そうした施策をどんどん遂行していくと、多くの大学の経営が行き詰り、片っ端から消えていく・・・
そうなってしまうと、まさに本末転倒ではないでしょうか。


▶国公立大と私立大は、同じ土俵ではない

国公立大と私立大は、同じ“大学”といっても、学生募集では同じ土俵で戦っているわけではない、ということも、強調しておきたいと思います。
 
それこそ、慶應義塾の伊藤塾長の提言で注目されるようになったように、国立と私立の学費がまるで異なるからです。
言い換えれば、学費では、私学に勝ち目は、端から無いのです!
 
その、勝ち組の国立大が、定員を減らすのではなく、逆に、若干ではありますが、増やすわけですから、そのしわ寄せはもろに私立大にやってくるわけです。


▶国立大 「一律75%にダウンサイジングも、あり得る」

ここまで規模の適正化に関して、あれこれ見てまいりましたが、最後に、8月 27 日に開催された特別部会の上位会議体である中央教育審議会でも、この「中間まとめ」について議論が行われました。
そのやりとりの中で、ある委員から、次のような発言があったことも付け加えておきましょう。

2.高等教育全体の「規模」の適正化
(2)高等教育全体の規模の適正化に向けた支援
18 歳人口が現在の 110 万人から 82 万人に 74.5%落ちると、明らかに大学は供給超過になり、私立大学はそれに任せて自然淘汰という考え方も一つだが、国立大学はマーケットメカニズムがないので、全ての大学が一律 75%にダウンサイジングということも、極端な例としてはあり得る。

高等教育の在り方に関する特別部会(第9回)
[配布資料]中央教育審議会総会(第 139 回)における主な意見 (令和6年8月27日)p3より

極端な例としながらも、75 %のダウンサイジングはあり得る
特別部会では否定されていた、定員の一律削減論といえますね。
この発言が、特別部会の後半戦にどう影響を与えるのか・・・

一刻の猶予も許されない危機的状況のなかで、規模の適正化の議論が
迅速に行われ、具体的な施策がまとまるのか。
私学関係者のみならず、われわれも固唾をのんで見守りたいと思います。


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