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重要なのは、学校=人類の財産としての文化装置を、いかに未来につなげるか。私学にとって継続性、永続性がいかに大切か。ガバナンス・コードにも主要アジェンダとしても扱われ、そのために税制優遇も。

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本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。


継続性・永続性の大切さ

前回、9 月 27 日に実施の「高等教育の在り方に関する特別部会」(第10回)で行われた、日本私立大学協会(私大協)の小原芳明会長の意見表明と、これに対する質疑応答についてご紹介いたしましたが、そのやりとりのなかで、大切なある視点が欠けていることに気づきました。

《前回記事はこちら》

それは、学校という存在にとって、いかに継続性・永続性が大切であるか、という点です。いいかえれば、存在し続けることこそ学校の重要な使命と言ってもよく、先日のやりとりには、残念ながら、この学校に関する“哲学”が欠如していたと言わざるを得ませんでした。

まず、その会議の議事録が文部科学省のHPにアップされましたので、ご紹介しましょう。

<高等教育の在り方に関する特別部会(第10回)議事録>PDF

日本私立大学協会(私大協)の小原会長は、様々な角度から私立大学としての見解を述べられ、重要な指摘をいくつかされていました。
そして、その後行われた慶應義塾塾長の伊藤委員との地方の大学との連携に関する質疑応答のなかで、小原会長は「そのマーケットがなくなればもう撤退するしかないと思います」と述べられたのです。

【伊藤委員】 前向きに捉えれば、例えば、基幹教員制度とか、いろんなことが議論されているわけですけれども、また、ここでもマイクロクレデンシャルとか、様々なことがこれまで議論されてきました。ですから、例えば、一つ一つの私立大学が規模を縮小しても、お互いに、ですから、認証制度の今に何か問題を感じていらっしゃるかという質問にも近いわけですけど、規模を縮小しながらも、お互いに協力できるところは協力をしながら、そのボリュームゾーンに対して、地方とのネットワークも使いながら新たな教育をつくっていくとか、そのために何か障壁があるのかとか、そういうようなことが2040年に向けて何かお考えがありますかという質問なのですが。

【小原会長】 例えば、プラットフォームを使って、その地域の人達の社会人教育、これは提供できるのではないかなと思います。
(中略)場所、オンライン学習ができる環境というものは、つくろうと思えば地方の大学でもできるし、そこへ必要な科目を配信するということで、その大学もある程度生き残っていけると思いますけれども、そのマーケットがなくなればもう撤退するしかないと思います。

文部科学省中央教育審議会 大学分科会 
令和6年9月27日実施「高等教育の在り方に関する特別部会」第10回 議事録より


▶経営が行き詰れば、撤退は当然ではあるが…

大学を日々切り盛りする経営のトップというお立場ですから、マーケットが完全になくなれば、撤退するしかない、というのは、至極当たり前の話ではありますし、そのこと自体を糾弾するつもりは全くありません。
大学は、一般の企業同様、収入や資金が無くなれば、行き詰ってしまい、立ち行かなくなるというのは、常識としては当然であります。

しかし、大学を含めた学校は、果たして、マーケットや市場ばかりを追い求める一般企業と同じ論理で行動してよろしいものなのでしょうか。

一般企業は、利益を上げ、規模を拡大し、それによって社会に貢献していく。逆に、収益が落ち、経営が行き詰れば、店を閉じ、撤退をする。
そのような利益第一とする企業・会社と、学校を同列に並べて、易々と、撤退、消滅を容認してしまっていいのか。

▶Tax expenditure は社会で学校を支える意思表示

学校は、本来、未来を担う子どもや青少年たちへの教育を行う場であり、営利追求を最重要課題とする企業・会社とは根本的に異なり、“営利を目的としない” 組織・機関なのです。

とくに私立学校は、本来、収益を上げるための営業活動を生業としませんから、生徒募集の多寡などによる経営上の浮き沈みの影響をもろに受けやすく、そうしたことで簡単には揺るがないよう、非課税という扱いまで施されているのです。

さらには、学校にはもっぱら生徒・学生の教育・育成に注力してもらう分、運営上必要な経費については、その負担を軽減するため、公的資金が投入されている、というわけです。

★これら優遇措置は、専門用語で租税支出(Tax expenditure)と呼ばれていて、実質的に税金を投入することで、学校の公益活動を支えている、と言えます。

このことはある意味、私立学校は社会にとっても、無くてはならない存在であり、継続してもらわないといけない、というメッセージにもなっているのです。

ですから、私は、学校は教育を施すことはもちろん、持続することも大切で、そして、最大限、長期にわたって存立する“時間”が求められている、と敢えて申し上げたいのです。

つまり、「継続性の確保」です。

▶私大自ら「継続性の確保」を指針に掲げる

実は、私大協や日本私立大学連盟(私大連)は、私立大学のガバナンス・コード(統治における行動規範)のフォーマットを各加盟大学に示していて、どちらにも、「継続性の確保」が重要なアジェンダとなっているのです。
学校を永続させるために、さまざまな指針を定めなさい、と各大学へ示しています。

《参考サイト》

 私大連の事例を見ておきましょう。

《参考資料》
日本私立大学連盟 私立大学ガバナンス・コード【第2.0版】
 令和6(2024)年3月19日(PDF)

基本原則「4.継続性の確保」
会員法人は、それぞれの建学の精神等の基本理念に基づき、その使命を果たすため、大学における教育研究活動の維持、継続並びに発展に努める必要がある。
◎遵守原則4-1
会員法人は、私立大学の教育研究活動の継続性を実現するため、法人内外のステークホルダーからの意見を取り入れながら、大学運営に係る諸制度を実質的に機能させ、自律的な大学運営を行うようにする。
考え方:
私立大学がその使命を永続的に果たすためには、会員法人の継続性の確保は欠くことができないものである。そのためには、自律的な組織に基づく制度運営、財政基盤の安定化、経営基盤の強化の3点は重要な要素である。 (以下略)
 

令和6年3月19日 日本私立大学連盟 私立大学ガバナンス・コード【第2.0版】より

「私立大学がその使命を永続的に果たすためには、会員法人の継続性の確保は欠くことができない」

とあります。

なぜ、私立大学は継続性、永続性を持たなければならないのか・・
この文面には詳細な説明はないものの、「使命を永続的に果たすため」と、しっかり明記されているのです。

つまり、学校としての使命を、社会に対して長期にわたって果たし続けるため、ということでしょう。

▶学校は存在し、存在し続けなければいけない

ちょっと考えれば、ごく当たり前の話であることに気付きますね。
 
たとえば、その地に根付いていた伝統ある学校が、ある日突然、なくなってしまったら・・・
いろいろな意味で、大変困りますね。
いや、多くの人たちが悲しむでしょうし、途方に暮れてしまう人たちもたくさん出てくるでしょう。

学校は社会を支える人を生み出す必要不可欠な組織として存在し、しかも存在し続けなければいけないのです。そうしないと、社会の多くの人々が困ってしまうのです。
裏を返せば、学校というのは、そう簡単になくなってしまってはいけない、という暗黙の共通理解が、皆さんの心の中にあるはずです。

学校とは何か――

私なりに言葉を紡ぐと、

未来にむかって、新たな人材を送り出し続ける学校という組織は、
人類が生み出した最高の智慧の一つとも言え、それぞれがかけがえない文化装置であり、財産である

といってもよいのではないでしょうか。

そういう意味で、学校というものをそう易々と絶やしてしまっては、当事者のみならず、人類にとっても大きな損失になると申し上げましょう。

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私立大自身が、原点に立ち返るとき

皮肉なもので、私立大学自身がこのようなガバナンスを定めているわけですから、私学の皆さんは、何としても、いまこそこの継続性、永続性確保に全精力を傾注すべきでしょう。

ですから、経営が行き詰まりそうになった学校は、
どうやって閉じるのか、ではなく、どうやって蘇らせ継続させるか
が重要なのです。

私立大学関係者自身はもちろんのこと、文部科学省や特別部会の皆さんも含めたすべての人に対して、安易な撤退容認論は、厳に慎まなければいけないことを、老婆心ながら申し上げる次第です。
ですから、一つひとつの私立学校、私立大学の唯一無二の歴史に頭を垂れ、学生、卒業生に心を配るところからスタートすべきなのです。


▶先人たちの苦労に、思いを馳せば

そもそも、それぞれの私学の揺籃期を回顧してみれば・・・
多くの場合、創設者たちがさまざまな困難を乗り越え、苦労して道を開いてきたことは、それぞれの学校の沿革に記されていることでしょう。
もちろん、かつては今のようにいろいろな支援制度や優遇措置は整っていなかったことでしょう。

それでも先人たちは、それこそ採算は度外視し、私財を投げ出して(まさに、寄附行為の起源!)、学校を興したのです。

私立学校の原点は、まさにそこにあるのです!

▶未曾有の苦境こそ、私学の底力を

話を戻しますと、私大協・小原会長のお言葉を非難する意図は毛頭ございません。

小原会長ご自身も、さきほどのやりとりのなかで、「人口が減る、当然学校は少なくなっていくというのは避けられないと思うのですけれども、それを加速度的に撤退させるというのはいかがなものでしょうか」と、毅然とお答えになっていらっしゃいます。
この発言には心より賛同申し上げたいと存じます。

しかし、私立学校は、公立の学校以上に、教育の場、学校という哲学を体現する理想郷でなければいけないはずです。

収入が減った、経営が難しくなった故に、学校の命を自ら断ち切る。
あるいは、断ち切るまでは行かなくても、“マーケットが縮小したのだから仕方がない”として、それを容認してしまうようなことは、決して、決して、あってはならない、と心から願うのです。

私立大学にとって過去に例を見ない厳しい時代だからこそ、いまいちど、私学の原点・根本に立ち帰り、私学の底力を再認識され、前に進んでいただきたい、と思うのです。


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