探究学習を生かすために【前編】先生/生徒がやるべきことは?
2022年度 入学生から始まった現行学習指導要領が、今年度で完成します。
この指導要領では、2003年度から始まった「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」(以下、総探)に変わりました。名称のとおり「探究」が強調されています。
各校では、教育目標やスクール・ミッションを踏まえた総探の計画を作成、実施しています。総探や探究については既に多くの良書があり、そこでは素晴らしい実践が紹介されています。
他方、私のところには、あちこちから悩みや困りごとが聞こえてきます。
今回は、教員側と生徒側の視点も含め、どうすれば総探をより良い学習にできるのか考えてみました。
前後編でお伝えします!
【教員】探究を行う体制を整える
以下のように、総探を行う教員側の学校体制が整っていないと問題が起こってしまいます。
Point① パーパス(目的、理念)の共有
何のために、総探を行うのか。
総探によって、生徒にどのような人間に成長してほしいのか。
どんな資質・能力を身につけてほしいのか。
学校のスクール・ミッションやスクール・ポリシー(アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、グラデュエーション・ポリシーの3ポリシー)としっかり関連づいて、ストーリーになっていることが大切です。
▼スクール・ポリシーの策定及び運用に係る方向性について(文科 2020.9.7)https://www.mext.go.jp/content/20201021-mxt_koukou01-000010619_03.pdf
▼「スクール・ポリシー」とは何か?(リクルート進学総研)https://souken.shingakunet.com/secondary/special/CG443/PDF_cg443_toku_P3-4_up.pdf
ストーリー、つまり筋が通っていて、わかりやすく語れるということです。皆さんは学校の在り方やめざすものについて、どんな観点から何を聞かれても、一貫性がある回答ができるでしょうか。
いついかなるときでも、パーパス(目的、理念)を短いフレーズで言えることも大切です。その点でもソニーが再生するきっかけとなったパーパスは有名です。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
例えば、「本校は社会をよりよく変える行動力を育む学校です。そのため、総探ではこういう活動を行っています」と言えればよいのです。
教員も生徒も、聞かれればすぐに答えられる。そんなパーパスを持ちましょう。
Point② 組織体制の確立
あなたの学校では、総探の組織はどこに位置付けられているでしょうか。教務等の分掌か、学年横断的な委員会、どちらかだと思います。
新しく出来た組織は、目的や実施内容が不確かにならないよう、注意しなければなりません。管理職から直接ミッションを伝えられずに命課され、結果的に、役割と責任の所在も不明確になってしまうことがあります。
大事なミッションのことを、分掌や委員会の長に任せっきりにするのは、学校経営上適切ではありません。「どこかで言った」「どこかに書いてある」で終わらせるのではなく、校長が組織の目的と目標を繰り返し語り、共通認識ができているか確認する必要があります。
具体的なコミュニケーションによってしか、体制は確立しません。
Point③ 組織マネジメントを機能させる
マネジメントにはいくつかのやり方があります。PDCA、OODAの二つのサイクルが代表的ですが、今回はPDCAで考えてみます。
まず、総探のPlan(計画)。
これは活動項目を単に並べたものではありません。
・内容は生徒の実態を踏まえ、パーパスを反映しているでしょうか。
・スケジュールが窮屈で、生徒と教員に多忙をもたらしていないでしょうか。
・偶発的な出来事に対応できる余裕はあるでしょうか。
・評価の観点は明確でしょうか。
次に、Do(実行)。
・実施上の留意点は明確でしょうか。
・実施しながら、必要かつ可能な改善を施しているでしょうか。
同じ活動でも、そのただ中に省察と修正があるかどうかで成果は随分と異なります。
そして、Check(評価)とAct(改善)が重要です。
1.リフレクションを行い、教員と生徒の声を集める。
↓
2.それらを整理・分類し、成果と課題を明らかにする。
↓
3.課題に優先順位をつけ、何をどんなスケジュールで行うか決める。
年度末の評価会議でありがちなのは、3の改善が曖昧で、次年度に生かされないことです。人事異動、校内組織の変化により分からなくなったり、やり直しになったりしないよう、明確にしましょう。
PDCAは、対話をし、共通認識を高めながら、サイクルを回すことができるかどうかがポイントです。
続いて、生徒側から考えてみましょう。
【生徒】探究の質を上げるには
よく耳にするのは「総探をやっているが、型どおりにやっているだけ」「学びが浅く、質が低い」「プレゼンはそれなりに盛り上がるが、それで終わってしまう」という嘆きの声です。
しかし、そもそも私たちは生徒に何を求めているのでしょうか。
質が高いとは具体的にどういうことでしょうか。
生徒側の問題を作り出しているのは、もしかしたら既述した教員側の不十分な体制かもしれません。
繰り返しになりますが、探究のパーパスと質を評価する観点を定め、教員と生徒が共有することが大切です。
一般的に総探には「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の4つの過程があり、この過程を繰り返します。
▼今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開(文科省 2023年)https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/20230531-mxt_kyouiku_soutantebiki03_2.pdf
そして、どの過程にも共通する重要なポイントがあります。
ポイント1 問いを繰り返す
思考は問いを巡ります。問い、答え、その答えについてまた問う。問答の繰り返しです。”問う“とは、「それでよいか、正しいのか」「他により適切なものはないか」と疑うことです。
まずは設定課題を疑います。その問いでよいか問います。
次に集めた情報が十分なのか問い、仮説も疑います。調査の方針、検証の方法を問います。
そして結論を出す思考が論理的かどうか問います。結論の根拠をなぜかと問い、問題の本質はそもそも何かと問います。
探究を進めるのは問いの力です。そして、問いの質を高めることに終わりはありません。総探のオリエンテーションにおいて、質問の仕方を学び、レッスンができると望ましいです。
”問い“について書かれた本は数多ありますから、生徒たちと一緒に読み、話し合うことも効果的だと思います。
〈参考〉
ポイント2 学びのアップデート
私たちはゼロから答えを生み出すことはできません。
生徒たちは生まれてから学校内外で経験を積み、学習し、様々な知識やものの見方・考え方を身につけてきました。
探究の学びは、既に有するものを生かしながら、新たな答えを発見をしていくものです。したがって、学び直すこと、つまり学びのアップデートが欠かせません。先人が何を見出してきたのか、既にどのような探究がされてきたのかを知ることが大切です。
しかし、学校でも社会でも、先入観や固定概念で思考し、結論を出すことに甘んじている人たちが多くいます。
検索で容易く情報が手に入ることに慣れてしまったからなのか、一つ二つの情報で「知った」「わかった」と満足してしまう傾向があります。便利さやコスパを求め、生成AIの回答で事足れりとしてしまう。
そうではなく、複数の本やネット上の情報にあたり、自分が何を知るべきかを考え、学んでいくことが大切です。ろくに学ばずに、自分の探究の独創性を誇るなら、それは、人類の知的な営みの歴史に対する冒涜ではないでしょうか。傲慢さを排し、謙虚に自分の無知を認める知的誠実さを、生徒に伝えましょう。
〈参考〉
ポイント3 対話からみつける
この「対話」とは、本との対話、自己との対話、そして他者との対話です。
本や自己以上に、他者と対話することは、より創造的な何かをもたらします。自分の同質性を揺り動かす、異なるものとのやりとりが必要です。
生徒と生徒、生徒と先生、学校外の誰かとの対話。
このとき、他者との対話に、安易な同調や遠慮があってはいけません。自分の考えを簡単に認めてもらおうと甘えてはいけません。共に問い、共に頭を悩ませ、共につくるのです。
実りある対話のために先生の伴走も必要ですが、「なかなか時間をとれない」という悩みをよく聞きます。
そのような場合は、生成AIの活用にトライするのもよいでしょう。生徒間の対話や協働の質を高めるトレーニングを行うこともできます。地域の人材を活用することもできると思います。
対話の観点から、探究活動を見直してみましょう。
問い、学び、対話。この三つが探究の質の鍵を握ります。
いずれも、際限はありません。探究は無限に続くのです。サイクルは永遠に繰り返されます。しかし、私たちの時間は有限です。したがって、決められた時間の中で最善を尽くしましょう。
何よりも大切なのは、三つの重要性を身をもって知ること、その質を高める努力を怠らないことです。
後編では、私が「探究」についてどう考えているのか、何を学んでほしいのかを、これまで実施してきた取り組みを紹介しつつ、お伝えしたいと思います。
ぜひご覧ください。
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