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行列計算を使わない線形代数 #1 〜 ベクトル空間とは

第1回はベクトル空間の定義と、それに関する諸概念を整理します。ベクトル空間の定義についてはポイントだけ覚えればOKです。具体的な例をイメージしながら考えてください。

ベクトル空間とは

$${K=\mathbb{R}}$$もしくは$${K=\mathbb{C}}$$とする

■定義1.1(ベクトル空間)

集合$${V}$$が$${K}$$-ベクトル空間であるとは、写像$${P:V\times V\to V}$$と$${S:K\times V\to V}$$が存在して、任意の$${u,v,w\in V}$$と任意の$${\alpha, \beta\in K}$$に対して以下を満たすときにいう:

  1. $${P(u,P(v, w)) = P(P(u, v), w)}$$が成り立つ。

  2. $${P(v,w) = P(w,v)}$$が成り立つ。

  3. ある元$${0_V\in V}$$ が存在して、$${P(v, 0_V) = v}$$が成り立つ。$${0_V\in V}$$を零ベクトルという。

  4. $${v\in V}$$に対して、ある$${v^{*}\in V}$$が存在して、$${P(v,v^{*}) = 0_V}$$が成り立つ。$${v^{*}}$$を$${v}$$の逆ベクトルと呼び、$${-v}$$と表す。

  5. $${S(\alpha,P(v, w)) = P(S(\alpha,v), S(\alpha,w))}$$が成り立つ。

  6. $${S(\alpha +\beta,v) = P(S(\alpha,v) , S(\beta,v))}$$が成り立つ。

  7. $${S(\alpha,S(\beta,v)) = S(\alpha\beta,v)}$$が成り立つ。

  8. $${1\in K}$$に対して、$${S(1,v) = v}$$。

$${V}$$が$${K}$$-ベクトル空間であることを、$${K}$$が自明である場合は単にベクトル空間であるという。また、$${v+w:=P(v,w)}$$および$${\alpha v=S(\alpha,v)}$$と書き、それぞれ$${v}$$と$${w}$$の和(加法)および$${v}$$の$${\alpha}$$倍(スカラー倍)という。

■定義1.2(部分ベクトル空間)

$${V}$$をベクトル空間とし、$${W}$$を$${V}$$の部分集合であるとする。$${W}$$がベクトル空間$${V}$$の部分ベクトル空間であるとは、$${V}$$の加法$${P:V\times V\to V}$$とスカラー倍$${S:K\times V\to V}$$の$${W}$$への制限を考えたときに、$${(W, P|_{W\times W}, S|_{K\times W})}$$がベクトル空間であることをいう。このとき、単に$${(W, P|_{W\times W}, S|_{K\times W})}$$を$${W}$$と書く。

■命題1.3(ベクトル空間の直和)

$${V,W}$$をベクトル空間とする。このとき、$${V}$$と$${W}$$との加法とスカラー倍から直積空間$${V\times W}$$にも加法とスカラー倍が定義され、ベクトル空間になる。このベクトル空間を$${V\oplus W}$$と書き、$${V}$$と$${W}$$の直和と呼ぶ。

■定義1.4(同値関係)

集合$${X}$$の同値関係とは、$${X\times X}$$の部分集合$${E}$$であって、任意の$${x,y,z\in X}$$に対して以下の1〜3を満たすときにいう:

  1. $${(x,x)\in E}$$

  2. $${(x,y)\in E}$$ならば、$${(y,x)\in E}$$

  3. $${(x,y)\in E}$$かつ$${(y,z)\in E}$$ならば、$${(x,z)\in E}$$

$${E}$$が集合$${X}$$の同値関係であって、$${(x,y)\in E}$$のときは単に$${x\sim y}$$と表す。さらに、$${x\in X}$$と同値な元からなる集合を$${x}$$の同値類といい、$${[x]:=\{y \in X | x\sim y\}}$$と書く。さらに、同値類全体の集合を$${X/E:= \{ [x] | x \in X\}}$$と書き、$${E}$$による$${X}$$の商集合と呼ぶ。

■命題1.5(商ベクトル空間)

$${V}$$をベクトル空間とし、$${W}$$を$${V}$$の部分ベクトル空間とする。このとき、$${v \sim w \Leftrightarrow v-w \in W}$$という同値関係を定義することができる。
さらに、商集合$${V/W}$$にもベクトル空間の構造を定義することができる。$${V/W}$$を$${V}$$の$${W}$$による商ベクトル空間という。

演習問題

【1】定義1.1において、任意の$${v\in V}$$と$${0\in K}$$に対して、$${0\cdot v = 0_{V}}$$であることを示せ。

【2】命題1.3を証明せよ。

【3】命題1.5を証明せよ。

【4】$${V}$$をベクトル空間とし、$${V_1, V_2}$$を$${V}$$の部分ベクトル空間とする。共通部分$${V_1 \cap V_2}$$も部分ベクトル空間になることを示せ。また、和集合$${V_1 \cup V_2}$$は部分ベクトル空間になるか?

<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間

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