行列計算を使わない線形代数 #12 〜 線形写像(その5) 対角化・最小多項式・一般固有空間
■定義12.1(再掲:対角化可能)
有限次元ベクトル空間上の線形写像$${A:V\to V}$$の固有空間$${E_\lambda , \lambda\in\sigma(A)}$$が$${V}$$を直和分解するとき、$${A}$$は対角化可能であるという。
■定理12.2(再掲)
有限次元ベクトル空間上の線形写像$${A}$$が対角化可能であるための必要十分条件は、
$$
\displaystyle
\prod_{\lambda\in\sigma(A)} (A-\lambda I ) = 0
$$
が成り立つことである。
(証明)$${T=\prod_{\lambda\in\sigma(A)} (A-\lambda I )}$$とおく。まず$${A:V\to V}$$が対角化可能ならば、$${T=0}$$であることを示す。$${V}$$は$${A}$$の固有空間で直和分解されるので、任意の$${v\in V}$$に対して、
$$
\displaystyle
v = \sum_{\mu\in\sigma(A)} v_{\mu}, \quad v_{\mu} \in E_{\mu},
$$
と分解できる。$${v_\mu}$$に対して$${T}$$を作用させると、
$$
\displaystyle
T v_\mu = \left( \prod_{\lambda\ne\mu} (A-\lambda I ) \right)\left( (A-\mu I ) \right)v_\mu = 0.
$$
よって、$${Tv=0}$$になる。$${v}$$は任意なので、写像として$${T=\prod_{\lambda\in\sigma(A)} (A-\lambda I ) = 0}$$である。
逆に、$${T=0}$$ならば、$${A}$$は対角化可能であることを示す。そのために線形写像の合成に関する補題を考える。
■補題12.3
$${A_1 : V_1 \to V_2, A_2 : V_2 \to V_3}$$をそれぞれ有限次元ベクトル空間の間の線形写像とする。このとき、
$$
\mathrm{dim} \, \mathrm{Im}\, ( A_2 \circ A_1 ) \geq \mathrm{dim} \, \mathrm{Im} A_1 + \mathrm{dim} \, \mathrm{Im} A_2 - \mathrm{dim} V_2
$$
が成り立つ。
証明は後回しにして、この補題を認めることにする。$${T}$$は線形写像$${A-\lambda I, \lambda\in\sigma(A)}$$の積になっているので、この補題を適用すると、
$$
\displaystyle
\begin{align*} 0 = \mathrm{dim}\,\mathrm{Im} T & \geq \sum_{\lambda\in\sigma(A)}\Big( \mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, (A-\lambda I) - n \Big) + n \end{align*}
$$
となる。次元定理から$${n-\mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, (A-\lambda I) = \mathrm{dim}\,\mathrm{Ker}\,(A-\lambda I)=\mathrm{dim}\, E_{\lambda}}$$なので、これを使って上式を整理すると、$${\sum_{\lambda\in\sigma(A)} \mathrm{dim}\, E_{\lambda} \geq n}$$となる。
また$${E_\lambda \cap E_\mu=\{0\}, \lambda, \mu\in\sigma(A)}$$なので、$${\bigoplus_{\lambda\in\sigma(A)}E_\lambda \subset V}$$。よって、$${\sum_{\lambda\in\sigma(A)} \mathrm{dim}\, E_{\lambda} \leq n}$$となる。
これより、$${\sum_{\lambda\in\sigma(A)} \mathrm{dim}\, E_{\lambda} =n}$$となるので、$${\bigoplus_{\lambda\in\sigma(A)}E_\lambda = V}$$が成り立つ。つまり、$${A}$$は対角化可能である。$${\square}$$
(補題12.3の証明)$${A_2:V_2\to V_3}$$を部分空間$${\mathrm{Im} \, A_1}$$への制限を$${A_2|_{\mathrm{Im} \, A_1}}$$と書く。このとき、
$$
\displaystyle
\begin{align*} \mathrm{dim} \, \mathrm{Im}\, ( A_2 \circ A_1 ) &=\mathrm{dim} \, \mathrm{Im}\, ( A_2|_{\mathrm{Im} \, A_1} )\\ &= \mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, A_1 - \mathrm{dim}\,\mathrm{Ker} \, ( A_2|_{\mathrm{Im} \, A_1 } ) \\ &\geq \mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, A_1 - \mathrm{dim}\, \mathrm{Ker} A_2 \\ &= \mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, A_1 - (\mathrm{dim}\, V_2 - \mathrm{dim}\,\mathrm{Im}\, A_2 )
\end{align*}
$$
となり、補題が証明された。$${\square}$$
対角化の議論は、線形写像の最小多項式と関係がある。そのために記号の約束を述べておこう。
有限次元ベクトル空間$${V}$$上の線形写像を$${A:V\to V}$$とする。$${x}$$を変数とし、$${K}$$を係数とする多項式全体の集合を$${K[x]}$$と書く。いま$${\Phi(x)\in K[x]}$$に対して、$${x}$$を$${A}$$に、定数$${1}$$を恒等写像$${I}$$に置き換えた線形写像を$${\Phi(A)}$$と書く。すなわち、$${\Phi(x) = a_n x^n + a_{n-1}x^{n-1}+\cdots a_1 x + a_0}$$のとき、
$$
\Phi(A) = a_n A^n + a_{n-1}A^{n-1} + \cdots + a_1 A + a_0 I.
$$
■定義12.4(再掲:最小多項式)
$${\Phi(x) \in K[x]}$$であるとする。上記の前提のもとで、$${\Phi(x)}$$が$${A}$$の最小多項式であるとは、以下の(1)および(2)を満たす多項式の中で最高次数が最小のものをいう:
(1) $${\Phi(x)}$$の最高次数の係数は$${1}$$,
(2) $${V}$$上の線形写像として、$${\Phi(A)=0}$$.
■命題12.5
有限次元ベクトル空間上の線形写像の最小多項式がただ一つ存在する。
(証明)$${A:V\to V}$$を線形写像とし、この最小多項式の存在と一意性を証明する。
$${\Phi(A)=0}$$となる多項式$${\Phi(x)\in K[x]}$$は存在する。これはケーリー・ハミルトンの定理($${\Phi(x)=\det(x I_n -A)\Rightarrow\Phi(A)=0}$$)より示される。この存在については認めることにして、最小多項式がただ一つであることを示す。
いま、最小多項式の一つを$${\Phi_A(x)}$$とし、$${\Phi(x)\in K[x]}$$が$${\Phi(A)=0}$$であるとする。$${\Phi(x)}$$を$${\Phi_A(x)}$$で割った商を$${G(x)}$$、余りを$${H(x)}$$とする。$${\Phi(x) = \Phi_A(x) G(x) + H(x)}$$である。$${H(x)}$$の最高次数は$${\Phi_A(x)}$$の最高次数よりも、真に小さいことに注意する。
$${x}$$に$${A}$$を代入すると、
$$
0 = \Phi(A) = \Phi_A(A) G(A) + H(A) = H(A)
$$
となるので、$${H(A)=0}$$である。
しかし、$${H(x)\ne 0}$$であれば、の最高次数は最小多項式$${\Phi_A(x)}$$の最高次数よりも真に小さくなってしまい、矛盾になる。よって、$${H(x)=0}$$でなければならない。
つまり、$${\Phi(x)\in K[x]}$$が$${\Phi(A)=0}$$であれば、$${\Phi_A(x)}$$は$${\Phi(x)}$$を割り切ることが分かる。これより、最小多項式の一意性が示せる。実際、もしほかに最小多項式$${\Psi(x)\in K[x]}$$が存在したとすると、$${\Phi_A(x)}$$は$${\Psi(x)}$$を割り切る。しかし、$${\Phi_A(x)}$$の次数は$${\Psi(x)}$$の次数を一致し、最高次数の係数の係数は1でなければならないから、$${\Psi(x) = \Phi_A(x)}$$でなければならない。$${\square}$$
■命題12.6
有限次元ベクトル空間上の線形写像の最小多項式の根は、その線形写像の固有値に一致する。
この命題の証明でもケーリー・ハミルトンの定理を用いるので、証明は省略する。
この命題から、最小多項式$${\Phi_{A}(x)\in K[x]}$$は
$$
\displaystyle \Phi_{A}(x) = \prod_{\lambda\in\sigma(A)} (x - \lambda)^{r_\lambda}
$$
の形で書けることが分かる。根$${\lambda}$$の重複度$${r_\lambda, \lambda\in\sigma(A),}$$は以下の一般化固有空間の次元と一致することが示せる。
■定義12.6(一般化固有空間)
有限次元ベクトル空間上の線形写像$${A:V\to V}$$に対して、固有値$${\lambda\in\sigma(A)}$$の一般化固有空間を
$$
\widetilde{E}_\lambda = \{ v \in V \,\,|\,\, \exists N \in\mathbb{Z} \,\,\,\text{s.t.}\,\, (A - \lambda I)^{N}v = 0 \}
$$
で定義する。
■定理12.7
$${A:V\to V}$$を有限次元ベクトル空間上の線形写像とする。このとき、$${V}$$は$${A}$$の一般化固有空間で直和分解される:
$$
\displaystyle
V = \bigoplus_{\lambda\in\sigma(A)} \widetilde{E}_\lambda.
$$
さらに、$${A}$$の最小多項式$${\Phi_{A}(x)\in K[x]}$$の根$${\lambda}$$は$${A}$$の固有値に一致し、その重複度は$${\mathrm{dim}\,E_\lambda}$$に一致する。
定理12.7の証明は省略しますが、詳細は下記の書籍を参照してください。
<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間
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