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行列計算を使わない線形代数 #2 〜 ベクトルの一次独立・基底・次元

ベクトル空間の基底・次元などの概念を定義します。基底の取り方は一意には決まりませんが、その個数(=次元)は基底の選び方に依らず一定であるということがポイントです。

■定義2.1(ベクトルの線形結合)

$${v_1, \cdots, v_k}$$を$${K}$$-ベクトル空間$${V}$$の$${k}$$個のベクトルとし、$${c_1, \cdots, c_k\in K}$$とする。これらを使って、スカラー倍と和で定義されるベクトル

$$
c_1 v_1 + \cdots + c_k v_k
$$

を$${v_1, \cdots, v_k}$$の線形結合と呼ぶ。

■定義2.2

$${X}$$をベクトル空間$${V}$$の部分集合とする。$${X}$$の有限個ベクトルを使った線形結合の全体からなる集合を、

$$
\mathrm{Span}(X) := \{ c_1 v_1 + \cdots + c_k v_k \in V \,|\, v_1, \cdots v_k\in X, c_1,\cdots, c_k \in K \} 
$$

と書き、$${X}$$により張られる空間という。定義より、$${\mathrm{Span}(X)}$$は$${V}$$の部分ベクトル空間になる。

■定義2.3(ベクトルの一次独立)

$${K}$$-ベクトル空間$${V}$$の$${k}$$個のベクトル$${v_1, \cdots, v_k}$$が一次独立であるとは、

$$
c_1 v_1 + \cdots + c_k v_k = 0_V
$$

を満たす$${c_1, \cdots, c_k}$$は$${c_1 = \cdots = c_k = 0}$$以外にないときにいう。また$${v_1, \cdots, v_k}$$が一次独立でないとき、一次従属であるという。

■定義2.4(ベクトル空間の基底)

ベクトル空間$${V}$$の一次独立な$${n}$$個の元$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$が基底であるとは、任意の$${v\in V}$$が$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$の線形結合で書けるとき、つまり

$$
V = \mathrm{Span}(\{e_1, \cdots, e_n\}). 
$$

が成り立つときにいう。

■定義2.5(ベクトル空間の次元)

ベクトル空間$${V}$$において$${n}$$個のベクトルからなる基底が存在するとき、$${n}$$を$${V}$$の次元といい、$${\mathrm{dim} V}$$と書く。

この一連の記事では、特に断らない限り$${\dim V = n < \infty}$$と仮定する。このとき、$${V}$$は有限次元であると呼ぶ。

■参考(無限次元ベクトル空間)

任意の自然数$${n}$$に対して、一次独立なベクトル$${e_1, \cdots, e_n}$$が存在するとき、$${V}$$は無限次元ベクトル空間であるという。

■命題2.6

$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$をベクトル空間$${V}$$の基底とする。$${v\in V}$$を二通りの線形結合

$$
v = \alpha_1 e_1 +\cdots + \alpha_n e_n = \beta_1 e_1 + \cdots + \beta_n e_n
$$

と書いたとき、$${\alpha_k = \beta_k \, (k=1,\cdots, n)}$$が成り立つ。

■命題2.7

ベクトル空間の次元は、基底の選び方によらず一定である。

(証明)$${V}$$を有限次元ベクトル空間とし、$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$と$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$をその基底であるとする。
$${\{e_1, \cdots, e_{n-1}\}}$$と一次独立なベクトルを$${ \tilde{e}_{1},\cdots, \tilde{e}_{m} }$$の中から選ぶことができる。もし選べなければ、$${\{e_1, \cdots, e_{n-1}\}}$$が基底になってしまい矛盾である。いま、そのベクトルを$${\tilde{e}_{\ell_{n}}}$$とする。$${\tilde{e}_{\ell_{n}}}$$は$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$とは一次従属なので、

$$
\tilde{e}_{\ell_{n}} = \alpha_1 e_1 + \cdots + \alpha_n e_n
$$

と書ける。一方で、$${\tilde{e}_{\ell_{n}}}$$は$${\{e_1, \cdots, e_{n-1}\}}$$は一次独立なので、$${c_n\ne 0}$$でなくはならない。よって、

$$
e_n = \frac{1}{\alpha_n}\tilde{e}_{\ell_{n}}-\frac{\alpha_1}{\alpha_n} e_1 - \cdots - \frac{\alpha_n}{\alpha_n} e_n
$$

となる。これより、$${\{e_1, \cdots, e_{n-1}, \tilde{e}_{\ell_n}\}}$$は基底になる。
この操作を繰り返していくと、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$から$${n}$$個のベクトルを選んで、$${\{\tilde{e}_{\ell_1}, \cdots, \tilde{e}_{\ell_n}\}}$$が基底になるようにできる。$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$は基底であったので、$${n=m}$$でなければならない。$${\square}$$

■命題2.8

ベクトル空間$${V}$$の部分空間$${W_1, W_2}$$に対して、$${W_1 \subset W_2}$$ならば$${\mathrm{dim}W_1\leq\mathrm{dim}W_2}$$である。

■命題2.9(補空間の存在)

$${V}$$を有限次元ベクトル空間、$${W}$$は$${V}$$の部分空間であるとする。このとき、以下の(1)と(2)を満たす$${V}$$の部分空間$${W^\circ}$$が存在する。
(1) $${W\cap W^\circ = \{0\}}$$。
(2) 任意の$${v\in V}$$に対して$${w\in W}$$と$${w'\in W^\circ}$$が存在し、$${v=w+w'}$$。

このとき、$${W^\circ}$$を$${W}$$の補空間と呼ぶ。補空間の次元は、$${\mathrm{dim} V - \mathrm{dim}W}$$で与えられる。補空間は一意に定まらないが、次元は補空間の取り方によらないことに注意する。

(証明)$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$を$${V}$$の基底、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$を$${W}$$の基底とする。命題2.8より$${m\leq n}$$である。

$${m=n}$$の場合は、$${W^\circ=\{0\}}$$とすればよい。

いま、$${m < n}$$の場合を考える。$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$の中のある$${e_{\ell_1}}$$で、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m, e_{\ell_1}\}}$$を一次独立にすることができるものが存在する。もしそうでないとすると、$${e_1, \cdots, e_n}$$はすべて$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$の一次結合で書け、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m\}}$$は$${V}$$の基底となってしまい、$${m < n =\mathrm{dim}V}$$の仮定に反するためである。

このようにして、$${e_1, \cdots, e_n}$$の中から$${n-m}$$個のベクトル$${e_{\ell_1},\cdots, e_{\ell_{n-m}}}$$を選んで、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m, e_{\ell_1},\cdots, e_{\ell_{n-m}}\}}$$を一次独立にすることができる。$${n=\mathrm{dim}V}$$なので、$${\{\tilde{e}_1, \cdots, \tilde{e}_m, e_{\ell_1},\cdots, e_{\ell_{n-m}}\}}$$は$${V}$$の基底である。ここで、

$$
W^\circ = \mathrm{Span}( \{ e_{\ell_1},\cdots, e_{\ell_{n-m}} \} )
$$

とおけば、これが求める補空間である。$${\square}$$

演習問題

【1】$${X}$$をベクトル空間$${V}$$の部分集合とする。$${\mathrm{Span}(X)}$$は$${X}$$を含む$${V}$$の最小の部分空間であることを示せ。

【2】命題2.6を示せ。

【3】$${V, W}$$を有限次元ベクトル空間であるとする。このとき、

$$
{\mathrm{dim} ( V\oplus W ) = \mathrm{dim} V + \mathrm{dim} W}
$$

を示せ。

【4】命題2.9の証明を完成させよ。つまり、証明の中で定義した部分空間$${W^\circ}$$が命題の条件を満たすことを示せ。

【5】$${V}$$を有限次元ベクトル空間、$${W}$$は$${V}$$の部分空間であるとする。$${\mathrm{dim} ( V/W ) = \mathrm{dim} V - \mathrm{dim} W}$$を示せ。

<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間

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