マガジンのカバー画像

小説まとめ

56
今までにあげた小説です。ショートショートです。
運営しているクリエイター

2014年8月の記事一覧

夏の最悪

夏休み中の校舎はしんと静まりかえっていてお通夜のようだった。 

教室ではザリガニを飼っており、ぼくは夏休み中のザリガニを世話する係なのだが、今日まですっかりそのことを忘れていた。もう夏休みも半ばを過ぎている。どうせ死んでしまっているのだろうが、やはり気になるので様子を見に来たのだ。

それに深刻な問題がある。

そのザリガニはリョウタがドブ川で捕まえてきたものだったのだ。リョウタは乱暴者でしょっ

もっとみる

イッツ・ア・スモールワールド②

「どうぞ、こちらへ」 

死を覚悟して臨んだ賭けであったが、相手方の対応はごく丁寧なものだった。どうやらこの事態をなんとか収拾したいのは相手方も同じらしい。思ったよりも成功する確率は高いのかもしれない。それにこちらにはとっておきの秘策があるのだ。地球の外交官であるY氏は下唇に歯を突き立てる彼独特の笑みを浮かべた。

会談に応じた数名の中にはソゴル星の大統領もいた。まさかトップが出てくるとは思わなか

もっとみる

イッツ・ア・スモールワールド①

バスの車内での出来事だった。 

道路上のくぼみかでっぱりか何か小動物の死骸か定かではないが、何かしらをタイヤで踏みつけたバスは上下に揺れた。当然、これに乗っている人々も上下に揺れた。この揺れがスイミングスクールの帰り、疲労でうとうとしていた少年の脳に異変をもたらした。正確に述べると少年の人生経験、疲労の度合い、今朝食べたヨーグルトの消化具合、これらの要素とともにバスの揺れが少年に異変をもたらした

もっとみる

誰そ彼(2/2)

目覚めて窓の外を眺めると夕暮れだった。 

予想はしていたが、やはりショックではあった。ついに観念するときがきたか。生命の危機にでも瀕さない限り外には出ないと誓っていたがその時がきたようだ。厳粛な儀式を行うかのようにものものしい手つきで靴ひもを結び、玄関を出た。久しぶりに触れる外の空気は爽やかで瑞々しく少しの緊張を帯びていた。夕日の赤さになんとなく夏のような雰囲気を感じたが暑くはなく、風はなかった

もっとみる

誰そ彼(1/2)

目覚めて窓の外を眺めると夕暮れだった。 

1回目は何も思わなかった。2回目はああ、またかと思った。3回目はあれ、おかしいなと思った。4回目には考え込んでしまった。俺が家にひきこもるようになって何日になるだろうか。幸いなことに金には困っていないし、食糧や衣類も通信販売を利用することでなんとかなっている。生活上、なにも問題はないし、不満もない。ストレスもない。

つまり、精神衛生的には…少なくとも今

もっとみる