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科学コミュニケーションとは何か

「科学コミュニケーション」についてはさまざまな説明がされている。もちろん、おおまかには同じことを言っているのだが、これぞ!という明確な定義はない。

それは、個々人の立場や経験が異なることや、それぞれが目指す「科学コミュニケーション」が多様であることの現れだとも言える。

例えば、以下のウェブページ(講義録)からも科学コミュニケーションの多様性を感じることができる。

私の講義を聞いて「科学技術コミュニケーションとはこういうものなのか」と簡単に納得しないでほしい

「科学技術コミュニケーションとは何か」(5/16)川本思心先生 講義レポート

という川本氏の言葉からも、自分なりの科学コミュニケーションを持つことが大切だと感じる。もちろん、それを考える際には科学コミュニケーションに関わる事柄について学ぶことは欠かせない。

ちなみに、僕が「科学コミュニケーションとは何か」と聞かれれば、「科学に関する話題について、双方向的かつ対等なコミュニケーションを行おうとする理念や活動」と答えるだろうか。

以下には、科学コミュニケーションに対するいろいろな説明文を掲載した。「科学コミュニケーションとは何か」を考える際の参考になるだろう。

科学コミュニケーションに関する説明例

サイエンスコミュニケーションは、科学技術に関する知識の理解だけでなく科学技術に対する意識の向上など、一般の人々と科学技術との関係性の構築を目的として社会の様々な場面で展開されるコミュニケーションであると言える。

日本サイエンスコミュニケーション協会
『科学系博物館におけるサイエンスコミュニケーション活動調査研究報告書』(2015) p2

研究者(専門家)と研究者以外の人々が、科学技術やその社会的課題についての情報や意見を双方向的にやり取りし、より大きな社会の問題として共有していくことを目指す活動を指す。したがって、学術分野としては理農工医歯薬学に限らず人文・社会科学も含み、活動形態としては、アウトリーチから政策への参与等までを広く含む。

科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンター
『研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート調査報告書』(2013)
p2

科学コミュニケーションとは、国民全体あるいは個々のコミュニティの科学的知識や科学に対する意識を高めるための活動をいいます。

美馬のゆり『理系女子的生き方のススメ』岩波書店 (2012) p158

個々人ひいては社会全体が、サイエンスを活用することで豊かな生活を送るための知恵、関心、意欲、意見、理解、楽しみを身につけ、サイエンスリテラシーを高め合うことに寄与するコミュニケーションである。

渡辺政隆「サイエンスコミュニケーション2.0へ」
日本サイエンスコミュニケーション協会誌 Vol.1 No.1 p6-p11 (2012) p6

さまざまな科学の情報や知識、関連する疑問や意見について、専門家政府、企業、市民、メディアのあいだでやりとりし、理解を深めあう活動全般

菊池誠ほか『もうダマされないための「科学」講義』光文社 (2011) p156

サイエンスコミュニケーションとは、科学技術は社会に対して何ができるのか、社会は科学技術に何を期待し、どういう方向を目指してほしいのかなど、行政の専門家や科学技術者のみならず、一人でも多くの市民が関心をもち、社会的なコンセンサスを求めていくべきだという理念と、それを実現するための活動の総称でもある。

渡辺政隆「なぜサイエンスコミュニケーションなのか」専門日本語教育研究 Vol.13 p15-p18 (2011)

欧州では宗教や人文主義に根ざす反科学的思想があり、米国ではキリスト教根本主義による進化論の否定などの非科学が根強く存在する一方、日本の傾向としては科学そのものへの関心の低さがあります。反科学との「対話」、非科学に対する「教育」、無関心層との「共感」。科学コミュニケーションに必要とされる機能は国や地域によって異なります。

岸田一隆『科学コミュニケーション―理科の〈考え方〉をひらく』平凡社 (2011) p37

サイエンスコミュニケーションの要諦の一つは、科学技術研究および科学技術政策の透明性であり、手前勝手な宣伝とは対極にある。

渡辺政隆『一粒の柿の種 ―サイエンスコミュニケーションの広がり』(2008) 岩波書店 p178

非専門家の「知識」や「考え」を正当に取り上げ、専門家と非専門家とが対等に(双方向的に)対話できるようにする-科学技術コミュニケーションは、これを目指しています。

北海道大学CoSTEP『はじめよう!科学技術コミュニケーション』ナカニシヤ出版 (2007) p9-p10

2004年に刊行された『科学技術白書』(文部科学省, 2004)では、双方向的なコミュニケーション、対話、科学技術への市民参加などによって特徴づけられる科学技術コミュニケーションへと国が踏み出す理由として、科学技術と社会との間に生じるさまざまな軋轢を解消するのに、もはや従来のような理解増進活動では立ちいかないという状況認識があった、という趣旨のことが述べられています。

北海道大学CoSTEP『はじめよう!科学技術コミュニケーション』ナカニシヤ出版 (2007) p11

社会の様々な構成者との間を、科学技術に関わる情報を介して結びつける“やりとり”がサイエンス・コミュニケーションです。そして、両者をつなぎ、双方向からの“やりとり”を促進する人材をサイエンス・コミュニケーターと呼びます。

千葉和義ほか 編『サイエンスコミュニケーション 科学を伝える5つの技法』日本評論社 (2007) pii

科学、科学者といっても多様であることを認識すべきであろう。次に重要なのは、科学技術コミュニティと社会との相互理解を深めることであろう。そのためには双方向的なコミュニケーションが重要であり、それこそが科学技術コミュニケーションなのである。そこで科学者が語るべきは、自らが専門とする分野の知見であり、科学者として自ら体験している喜びや苦悩だろう。

渡辺政隆・今井寛『科学技術コミュニケーション拡大への取り組みについて』
科学技術政策研究所 (2005)
p17

国民全体あるいは個々のコミュニティーの科学知識や科学に対する意識を高めるためのコミュニケーション

渡辺政隆・今井寛『科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について』
科学技術政策研究所 調査資料100 (2003)
p28

上記は書籍もしくは論文などからの抜粋だ。

インターネット上にも、科学コミュニケーションに関する解説が掲載されているウェブサイトがあるので、気になる方はいろいろと調べてみてほしい。以下に、例を二つ挙げる。

「科学コミュニケーション」を文字通りなぞると、"科学について、他者とコミュニケーションすること"ですが、"科学の何を""誰と誰が""どのように"コミュニケーションするのかの考え方や取り組み方は多様です。

科学コミュニケーションセンター|科学技術振興機構

科学コミュニケーションとは ・科学を市民に伝える ・科学についての思いを市民から聞く ・科学と社会との望ましい関係についてともに考える活動のことです。

研究者のための科学コミュニケーションStarter‘s Kit|名古屋大学

科学コミュニケーションは一方向講義の否定ではない

ここで留意して頂きたいことがある。それは、科学コミュニケーションの推進は一方向的な講義や講演会の否定ではない、ということだ。科学コミュニケーションは、従来の一方向的な科学啓蒙へのアンチテーゼのような役回りもあるが、それはあくまで一側面と考える方が良い。

「双方的かつ対等なコミュニケーション」ではなく、(分かり易い)一方向的な講義で科学を知りたいという方もたくさんいるだろう。

ただし、より社会と密接に関係した科学の話題(例えば、環境や政策に関わるもの)を扱う際には、科学コミュニケーションという理念が不可欠となってくることも忘れてはならない。

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