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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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2023年2月の記事一覧

【ピリカ文庫】いつかの花風

「ねえ、今幸せ?」初対面の女性から開口一番こんな事を言われたら誰だってフリーズする。だが、「少なくとも今にも屋上から飛び降りようとしている人に聞くことではないですね」と返すと「それもそっか!」と彼女はケタケタ笑った。なんか…折角、覚悟を決めたのに興が削がれてしまった。 「一旦こっち来なよ」彼女に言われるがまま、再度フェンスを乗り越えて安全な場所に来る。分かる、こうなればもう死ねない。「ほら座って座って」と彼女は左手で床をパタパタと叩き催促する。僕が彼女の隣に座るや否や、彼女

【ピリカ文庫】桜の木の下で

桜の木の下で私は待っている 今日もあの人が来るのを私は待っている 川辺を吹き抜けるまだ冷たい風 揺れ落ちる白い花びら 待つのは別に苦じゃない 待っている間ずっと あの人のことを考えていられるから 今日もあの人のごつごつとした手に引かれ 川沿いの道を歩くだろう 時折、足を止めて 私が用意した紅茶を水筒の蓋で交互に分け合い おいしいね、あったまるね と言いながら飲むのだ それにしても、今日は来るのが遅いな 私は手提げから本を取り出し 桜の木の根本に寄りかかってペー

【ピリカ文庫】桜が散ったその後に

 今年も桜が咲いた。  川沿いに連なる桜並木は、辺り一面をピンク色に染めたばかりだというのに、早くも花びらを少しずつ散らし始めている。  桜の花は、「別れの花」か。それとも、「出会いの花」か。  今年は、どちらになるだろう。 「だれかが泣いてる声がする」  一緒に桜見物をしていた弟のリツカが急に足を止めた。 「ああ、リツカ、あそこ見て。あのお姉さん達だよ。きっと中学の卒業式だったんだね」  私たちが歩いてきた歩道の先で、三人の制服の女の子たちが抱き合って泣いている。  彼

生涯の仕事

初心にかえれ。 誰に言われたわけでは無いが、ここのところそんな言葉がよぎる。 そもそもなにをしたいと思ってわたしはnoteを始めたんだっけ。 そうだ、そうだ、そうだった。 愛するタロットについて沢山の方に熱く語るためだった。 なので、ここからは真面目に正座して背筋を伸ばして(あくまでもその心持ちで)記したいと思う。 ある日ふと思った。 息子と障がいのある娘のために生きてきた母、そして妻という『役割』ではなく、唯一人のわたしとしてこれから何をしたらいいんだろう。 生きがい?