自分らしく生きるためのセルフコミュニケーション分析と改善のヒント#8「自分も他者も縛りつけるMUST思考」
これまでの人生、周りに振り回されてばかりの「他人軸」のしんどい毎日を送っていたとしても、心の中の自己対話(セルフコミュニケーション)を見直すことで自分軸に軌道修正できるということをコンセプトに、シリーズでお届けする記事の8回目です。
前回の記事で、他人軸で生きてきた人が人生の主導権を取り戻すには、自分の「思考・感情・行動(反応)」が自分らしさに向かう方向に一致している感覚に慣れ親しみ、その一致感を体にしっかり染み込ませていくことが大切だということ。
そして「思考・感情・行動(反応)」の一致感を阻害する大きな要因の一つに抑圧と呼ばれる心の防衛規制があるというお話をしました。
抑圧以外にも「思考・感情・行動(反応)」が自分らしさに向かう方向に一致することを阻害するものに「MUST思考(べき論)」があります。
今回は「MUST思考(べき論)」でがんじがらめになった自分を緩め、ありたい自分軸に軌道修正するセルフコミュニケーションのヒントをお伝えします。
自分のみならず他人をも縛るMUST思考(べき論)
MUST思考とは、なにかを判断したり行動を起こすときに、自分の中にある厳格なルールに照らし合わせ、そのルールに沿っているか否かをいちいち確認せずにはいられない、そしてルールに従わずにはいられない思考パターン(癖)のことです。
その厳格なルールは自分にとっては疑うまでもない絶対的なルールであり、自分と同じように他人もそのルールに従いルールを守るのが当然だと思い込んでいます。
たとえば、
・上司たるもの部下よりなんでも知っているべき。
・上司は部下よりも仕事ができるべき。
・上司は部下のよきお手本になるべき。
・入社したら少なくとも3年は働くべき。
・仕事中には余計な話をするべきじゃない。
・上司よりも先に帰るべきではない。
・親は子どもに寄り添い話を聞くべき。
・親は子どもの意思を尊重するべき。
・親なら子どもに手作りの食事をだすべき。
・親は子どもに無条件の愛を与えて育てるべき。
こうしたもなにごとに対しても「こうするべきだ」「ねばならない」と極端に決めつけ、グレーゾーンを許さない考えで自分や他者を縛るのがMUST思考(べき論)です。
他にも、「常識的には」「普通は」など、自分のルールがあたかも万国共通ルールかのように表現して縛るものや、「女(男)のくせに」「もう歳なんだから」と性別で年齢で縛るものや、「上司(部下)のくせに」「母親なんだから」と役割で縛るなど、自分だけのルール(固定観念)の枠の中に、自分や相手を縛りつけルールに従うことを強要するといったMUST思考の変形バージョンもあります。
MUST思考(べき論)は認知にゆがみを生じさせる
私たちがものごとを理解・解釈するプロセスのことを「認知」といいます。
たとえばコンビニでペットボトルを見たときに「これはペットボトルだ」と理解できるのは、いうまでもなく過去にペットボトルに関する情報(プラスティック製品・液体を入れるもの・軽い・薄い・キャップが付いている・柔らかくて握りつぶせるものもある・ほぼ透明など)を五感から仕入れているからです。
もしもこれまでペットボトルの存在を見たり聞いたりしたことが全くなければ、コンビニでペットボトルを見たとき「これはガラス瓶だな」と認知するでしょうし、ガラス瓶だと思って手に取った瞬間に「なんだこの柔らかくて軽いガラス瓶は!」と驚愕するのではないでしょうか。
この認知のプロセスをGoogle検索にたとえると、脳内には「ペットボトルとはプラスティック製品・液体を入れるもの・軽い・薄い・キャップが付いている・柔らかくて握りつぶせるものもある・ほぼ透明」といったペットボトルに関するさまざまな情報があって、実際にペットボトルを見たとき脳内で該当する情報を検索した結果(一瞬で検索は終了します)、「あ、これはペットボトルだ」と理解・解釈するというイメージです。
MUST思考が認知をゆがめてしまうのも、ペットボトルのときと同じように脳内で「こうするべき」「こうしなければならない」という検索フィルターを通して認知してしまうからです。
実際のところ、人は自分独自の解釈の仕方を持っていて、大なり小なり誰もが認知のゆがみはが持っているものです。
ただし、そのゆがみが極端に非合理的だったとしても、なかなか自分ではゆがんでいる事に気づくことができないのが悩ましいところと言えます。
MUST思考(べき論)の認知のゆがみを修正するヒント
「認知のゆがみ」「改善」といったキーワードで検索すると、きっと「認知行動療法」といった言葉が多く目に留まるはずです。
「認知行動療法」では、その名のとおり自身の「認知」と「行動」を分析しながら現実世界と認知世界に生じているゆがみを修正していきます。
たとえば職場で挨拶したのに挨拶が返ってこなかったとき、「私は嫌われている」「無視された」と反射的に思考してしまう癖(認知のゆがみ)を持っていることに無自覚だった場合、挨拶が返ってこないだけで「嫌われている」「無視されている」と認知するのですから、人間関係ではなにかと悩みを抱えやすくなるとは思いませんか?
そうした認知の癖に対して、
・もしかしたら聞こえていなかっただけかもしれない。
・考えごとをしていて挨拶に気づけなかったのかもしない。
・自分の声が小さすぎたのかもしれない。
など、反射的に結論づけてしまった認知癖以外の「可能性(選択肢)」に気づく練習をすることで、生きやすい認知に修正していくといったアプローチが認知行動療法です。
「無くて七癖」と言われる癖を修正していくのですから、専門家のサポートが必要ですし時間もかかるかもしれませんが、内部に浸透した思考癖を手放し修正するにはとても効果的なやり方と言えます。
今回、こちらの記事では自分一人でできる、シンプルな「MUST思考」を緩めるトレーニング方法を2つのステップに分けてお話しします。
必要なものはノートとペンの2つだけです^^
ステップ1
「~しなければならない」「~するしかない」「~するのが決まっている」といったMUST思考に気づいたら、忘れないうちにそのとき考えたことをノートに記録してストックしておく。
(例)
挨拶をされたら挨拶を返すべきなのに、挨拶を返してこないということは嫌われている証拠だ。
自分の弱みを見せるべきではない。
ステップ2
書き留めたMUST思考(べき論)を「できれば~したほうがいいかもしれない」に修正し、修正したものを声に出して何度か言ってみる。
(例)
挨拶をされたらできれば挨拶は返したほうがいいかもしれない。
自分の弱みはできれば見せないほうがいいかもしれない。
トレーニング方法は以上です。
はじめにお話ししたようにMUST思考(べき論)は他者にもルールに従うことを当然のように強要していることに無自覚でいるため、なにかと人間関係が悩ましいものになりがちです。つまり、MUST思考(べき論)の強さと、自分や他者に対する許容範囲の狭さは比例の関係にあるのです。
ということで、今回の「セルフコミュニケーション分析と改善のヒント」は、自分は当然だと思っているし、絶対的に正しいと信じていることを悪気なく相手にも求めているだけなのに、なぜか相手との関係性が悪化してしまう……。
そんな悩ましい状況を生み出す大きな要因の一つ「MUST思考(べき論)」を緩めることに役立つセルフコミュニケーションのヒントについてお話しました。
最後までご覧いただきありがとうございます。何か一つでも参考になれば嬉しいです。