あまりにもイカツき期間noteの更新をしそびれたというか、そもそも「しよう」と思う発想の間隙すらなかったのだが、別に多忙とかそういうのんではなく単に筆力が死んでいた。 心あるいは身体の不調ではないか、いやまあそんな節はある。特に最近の寒暖差で完全にやられちまっているのだが、筆力というのは別に心と身体、どっちゃともあんま関係ないのではないか。知らんけど。 ハァ、狂人になりてえ。35歳から始められる狂人入門みたいな本、どっかに売ってないすか。ないすよね。だって35歳つっ
凍るような眠り。覚めて、生きている。怒る声。ミシミシと、鼓膜と骨が。 摩耶は土のうえに倒れていた。手をついて立ち上がろうとすると全身がとても痛む。このまま寝そべっていてもいいかもしれない。けれど、そうしていたくなかった。 身体を起こして周りを見渡すと、蒼かった。木々の幹の茶色が、やけに濃い。おそるおそる一歩目を踏み出した。摩耶がはだしで踏みつぶしている葉もまだ若い。地面は少しかたむいて、どこまでも続いていた。山とか森とかの中にいるようだった。変だ。最後に眠ったのはい
なんというかこう、「それっぽい事」を言うために生まれてきたとこがあるな、と最近思うようになった。 掌編の在庫が尽きそうなのでこうして雑記に手を染めているわけだが、以前に雑記を書いたのが一年半前、2022年の総括だった。あな怖ろしや、一年半も経過しておる。あっという間、という感じはない、というか総括で何を書いたか全然憶えとらん。 で、冒頭の話なのだが、最近は相変わらず人と話す機会に多く恵まれておるのだが、そのたび俺は、舌を回しながら「なんかそれっぽいこと言うとるなあ」
「俺たちは時代の寵児かね、それとも被害者かね?」 肉を捌く音の中で彼は楽しげに問うてくる。 「どちらでもない」僕は彼を見ず……努めて冷静に応じた。「ただの加害者だろう」 「ここに」今彼は、恐らく彼女の腹を指差している。「黒電話が突っ込まれたのは何時だっけ」 「一九八八年」僕は最早彼に背を向けて諳んじた。「ギリギリ昭和だ」 「嗚呼、そうか」案の定彼はせせら笑った。「そいつは惜しい……いや、僥倖だったと言うべきかな」 「本当にこれで良かったのか?」 「どういう意味
私のことをよく知っている貴方へ。 もしもその駅を猛スピードで通過してくれる電車が無いのなら、隣の駅まで移動すれば良い。それをする気力すら失われているからって、何も心配することはないんだ。手段なんて、他にもたくさん用意されている。焦ることは無いんだ、決めた以上は。 月曜日に死にたがっているのか。それが少し恥ずかしいのかも知れないね。でも、そんなの全然気にすることないんだよ。いくら自殺者が最も多い月曜日に、統計的に以外はまるで目立つことの出来ない死を迎えることになったと
市営団地のF棟は、見るたびに汚れが取れて、ピカピカに近づいているような気がする。 一○一号室の賢者ちゃんはいつもと同じ、固まったような笑顔でぼくを迎え入れてくれた。彼女の家にはいつも家族がいないし、ついでに家具もほとんどない。空っぽのリビングでぼくはナップサックからゲーム機を取り出し、彼女にコントローラを貸してあげる。地べたに座って昨日の続きを黙々とプレイする。夏休みのおかげで全身の痣は、少しだけ薄くなったようで、滑らかな女の子っぽさを取り戻し始めているようだった。でも
始発列車が到着した先に降り立った男は、そこで初めて自分が記憶を喪ってしまっていることを漠然と理解した。対面のホームでしばし待っていれば元の駅に戻ることができるのかもしれない。しかし男は自分の乗車駅を把握していない。手元にあるのは具体的な切符ではなく抽象的なICカードだ。駅員に訊けば正確なことが分かるだろうか。しかし生憎と男にはそれを実行するだけの勇気が無かった。 だから男は真っ直ぐ歩いて改札にカードをかざし、駅を出た。カードが入っているのは茶色の、年季が入っていると思わ
某地方の海岸には、秋の彼岸を過ぎて肌寒くなってきた頃に、数多の死者が波濤となって打ち寄せるという。 それは文字通りの死者であり、即ち遺体の群れである。その内訳は老若男女多種多様であり、腐乱し、半ば液状化したようなものもあれば、比較的綺麗な肉体を遺しているものもあるようだ。 人里から遠く離れており、交通手段も皆無、そもそも徒歩で辿り着くにも幾つかの山々を踏み越えなければならず、故に明確な事実関係が掌握されているわけではないが、当該地方の集落や寺社仏閣には、死者の波に関
運送業者の段ボールからまろび出てきたポープリにはもはや、最初出会った時の面影が無い。 何しろ四肢はもぎ取られ、下腹部も切断されている。眼球にあたる視覚デバイスも先週に抜き取られてしまった。今のポープリに遺されているのは発話と音声認識……そして、それらを維持する心臓と脳味噌の機能を兼ねる動力コアのみである。 「そこまでして生きたいものかね」 今日、ポープリは動力コア以外の全てを差し出す。観葉植物みたいに佇む灰色のアンドロイドは、俺の嫌味にややあってから返答する。
これは私の日記だ――。 そう宣言したところで、いまいち自信を持てない。何故なら自死を決意したその日に、私は一切の思想を放棄することにしたからだ。にも関わらずこうして日記を書いているのはやや矛盾めいているが、事情が事情だけにやむを得ない。つまり、私は最早常識の埒外に置かれてしまったのだ。 元来、私は自らを記録するのが趣味であった。公に露出させるためのものではない。あくまでも自分の中で秘匿しておくための記録である。故に私は遺言状の類いを書く必要が無かった。私の人生、或い
最後に書き終えたのは、それまでの執筆歴で最も時間をかけた長編でした。そこに詰め込まれたのは僕が生きてきた中で獲得した経験や形質の大部分であり、最後の段落を書き記した時には、もはやこれ以上に書くことなど何もないのではないか、と思ったものです。 とはいえ、振り返ってみれば僕は一つの作品を書き終えるたびに、その長短にかかわらず、もう次に書くことなどないのではないか、と怖れ続けてきました。それは毎回杞憂に終わり、たとえ書いたものが大作であったとしても、いずれ次に書くアイデアは出
代わり映えのしないクソみたいな一日にアルコールを浴びせた帰りの夜道。だるっだるなのはシャツの首元だけじゃない、頭ン中も、もうすっかり出来上がって現実の認識を拒否していた。そんな帰路だ。住宅街の薄暗い路地を曲がったところ、薄ぼんやりと光る街灯の下で、一匹のモグラが座り込んでタバコをふかしていた。 「よう」俺の立ち姿に気付くと、チョイと片手を上げて見せる。まるで職場にいる中年のハゲた上司みたいな振る舞いだ。手元の煙草はもうすっかり短くなっていて、今にも爪を燃やしそうでヒヤヒヤ
私は何のためにこの画面の空白を文字で埋めているのだろう。そんなどっちらけの疑問が端緒である。どうせ見せるならば十分まともな作品でありたい。しかし果たして今の自分にその最低限の役目を全うすることができるのだろうか。そもそも私はこれまでに一度たりともまともな作品を書いたことがあっただろうか。そもそも『まともな小説』なるものを小説と呼んでいいものだろうか。今度はどの小説にインスパイアされる? いつの自分を使い回す? どの流行を適当に取り入れる? 畢竟それらは小説を構成する要素たり
僕らはいつでもさよならごっこ。今日も彼女と喧嘩した。もう別れるとか、愛想がついたとか、さんざんにお互いを貶して、罵って、泣いて押し黙ったりもしたりして。何となく終わっていく夜の次の朝には、何でもないみたいにラインで連絡し合うんだ。いくらやったって飽きやしない。そう言う僕らのさよならごっこ。 もう死にたいとか呟いて、カッターナイフを手にあてて、ちょっぴり流れた血を見て想う。ああ、なんて僕は死にたくないんだろう。きっと世界の誰よりも、僕は生きていたいんだ。ビルの屋上から落ち
沈んだ酔客ばかりが乗る始発で最寄り駅まで帰る。ドアが開いた途端に紗菜と一緒に、投げ捨てられたように転がり出た。お互い何も話さず、顔を見合わせることもせず、のろのろと階段を降りる。地下道を通って向かい側まで行き、改札を出る。世界の始まりみたいな朝日が、化粧の溶けきった顔に刺さる。日焼け止め……まあもうどうでもいいけど……けど一応……。反射的にバッグへ手を突っ込んだけれど、宿酔に変わりつつあるアルコールと眠気が身体を拘束して、取り出せない。 「タクで帰る?」と紗菜。 「どう
どす赤い夕焼けに不安になるほど大きな月が立ち上りはじめた頃、サトの命はホームから電車に飛び込んで、そしてこの世から消え去った。当時の私たちはどうでもいい具合の女子高校生で、しかも、どうでもいい具合に腐れ縁で、親友だった。 飛び込む直前まで、サトは汗ばむくらい強く私の手を握りしめていた。私は何してんの、って言った。きもいし、とか笑っていた。サトは私の言葉とか感情をまるっきり無視して、ただぼけっと何も見ていないみたいな色の目で前だけを眺めていた。その時の私には、サトの考えて