富山旅【空っぽになって、次へ】
ほぼ何の目的もなく東京を離れて、“何もない場所”を求めて富山にやってきた。
“ほぼ”と書いたのは【美味しいお寿司が食べたい】というゆるい目的があった上で、富山という場所を決めたからだ。
富山に到着したのは15時くらい。
そこからほぼ目的を持たず、富山の街中をぶらぶらしていた。
ここで“ほぼ”と書いたのは【夕日が沈む富山湾を見ながら、立山連峰に圧倒されたい】というまあまあな目的があった上で、富山に来たからである。
ということで1時間くらい富山の街をぶらぶらした後、路面電車に乗って、富山湾にまで出た。
海にはちょこちょことサーファーがいるくらいで、閑散としている。
日の入りまで約30分、立山連峰の壮大さと荒々しい日本海を目の前に砂浜で立ち尽くしていた。
人口密度の低さと広々とした都市作りのおかげで、砂浜に至るまでずっと呼吸がしやすい。
夕日が沈んでいく。
風が冷たくて、冬の足音を感じさせる。
紛れもなく何もない場所に来ることができた。
心のスキマにふっと演劇修行をしていた頃の記憶が甦ってくる。
「目を閉じて、自分の背中側に壮大な自然の風景が広がっていることを想像してみて」
「あなたはその壮大さを背負ってみて」
かつてそのことばをかけられた時、ぼくは漠然とした草原を思い浮かべていた。
テレビで見たようなサバンナの景色だ。
でも富山湾に来て、目の前の景色を見たとき、自分の中でこの景色を持った上で俳優として生きたいと思えた。
目をつぶっても、しばらくは目の裏に残っていそうだ。
荒々しいエネルギーは持っているのだけど、どっしりと構えている。
ぼくは多分、もう少しどっしり構えていて良いのだ。
色々な不安に駆られて、どうしても動きすぎてしまうし、その度に余計なエネルギーを使っている。
でも目の前にある自然の風景はちょうど良いエネルギーを持って、ただそこにある。
定期的にこういう景色を自分の中に取り入れる必要があるのかもしれない。
色んなプレッシャーから解放されつつ、インプットに繋がる旅。
新しい気持ちで稽古に臨めそうだ。