アロハ・オエ
【ひとは苦しいことがあると南の方角に向かいたがる】
そんな通説をいつか聞いたことがある。そしてその通説通り、クリスマスイブに一人、急遽最終便に乗って沖縄に向かったことがある。
沖縄に着いたのは19時くらいだっただろうか。
お金が潤沢にあるわけじゃなかったので、地元スーパーの惣菜コーナーでソーメンチャンプルを買って、ドミトリーに泊まった。(逆にそういうのが好き)
もちろん無目的で向かったわけではない。
沖縄に関する作品に携わることが決まって、ちゃんと自分の目で沖縄という地を見ておきたいと思ったことがきっかけではある。
まあ、あえてクリスマスイブに沖縄に行くこともないじゃないかと今の自分はそう思う。
ただ何があったかは覚えてないが、心は疲れていたし、東京の冷たいからっ風に吹かれることに耐えきれなかったのだと思う。
もう間もなく、今関わっている作品の本番がやってくる。
誰もが根詰めて、心をすり減らして、作品と向き合ってきた。
みんな、きつい。それはどんな作品でも同じ。追い込みの時期は稽古場にいる誰もが余裕がなくなってくる。体力的にも精神的にも。
ぼくもふとハワイに行きたいと思ってしまった。
紛れもなく南の方角である。しかも沖縄では満足ができず、アメリカに入国するためのPCR検査などを受けてでもハワイに行きたいと願ってしまっている。
自覚症状的にはそこまで追い詰められていない。
オフの日にとにかく自分を甘やかして、自分の心と身体の欲求をちゃんと満たしてきたおかげのような気がしている。
でも潜在的には「キツイなあ」と思っているのかもしれない。
自分のことはもちろん、他のひとの“産みの苦しみ”まで背負ってしまっている部分はある。
最近、少しずつ流れに身を任せられるようになってきていても、流しきれない瞬間はまだある。
ぼく自身も“産みの痛み”を知っているし、苦しんでいるときはどうしても孤立していってしまうというのも知っている。
だから思わず寄り添ってしまう。
もし自分が孤立していく立場なら誰かが寄り添ってくれる気がしているし、これまでも寄り添ってくれるひと達がいたから。
ただ、我ながら寄り添い方が下手だなと思う。
だからモテないんだなと同時に思う。
流れに身を任せながら寄り添う方法。
アロハ・オエ【わが愛をあなたに】ということばを運ぶハワイの風はそんな優しさを持っているのかもしれない。