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【掌編小説】なんだかんだ、悪くない

 寝苦しい夜を少しでも快適にすべく、同居人の発案で導入された家庭用プラネタリウム。しかし体温を超える暴力的な暑さの前に二人して撃沈した結果、心地よく冷えた室内は夏布団をかぶって眠るのにちょうど良い空間に仕上がっていた。
 日が落ちてなお緩まない暑さの前に、為す術もなく膝を折る。そんな自分たちに天井を彩る星座を楽しむ余裕なんて、端から残されちゃいなかったんだ。夏の野郎にしおらしいって単語があることを教えてやりたい。
 ぐったりと体を横たえ、早々に眠りに落ちた数時間後。タイマーが作動して運転を止めるエアコンを見上げながら、律儀に回り続ける天体の孤独な仕事ぶりをオレたちは知らない。
 午前六時。熱のこもった布団を蹴り飛ばして起きた。今日も暑い。既に暑い。汗ばむ首筋に手をやりながら、カーテンから漏れる朝日にすべて掻き消された星たちの存在を思い出す。
 誰も見てない気づかない。それでも労働するしんどさが他人事でないオレたちは、天体観測リベンジを誓って労う気持ちで筐体を撫でる。と同時に、今夜はビールに焼き鳥、あとイイ感じのつまみを買って帰ることが決定した。視覚以外からも、この難所を攻略するための要素を与えてくれるとは、デキた奴だ。
「あーナツい!」
 連日聞かされている造語を今朝も飽きずに叫ぶ同居人の声はスルーする。由来は夏と暑いを掛け合わせたものだが、自信満々に言うほどの捻りもないことにそろそろ気づいてくれ。あと仕事中、うっかり使いそうになってこわいからソレ。
 
 

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