ままならない日々を生きる
日々が不完全であればあるほど、光は輝きを増していく。ままならない毎日のなかで見つけた光を今日も抱いて生きている。
横顔が好きな理由
今朝5時に起きて、涼しくまだ静かな外を歩きながら人の横顔が好きな理由を考えていた。
真正面からその人を見るときの好きは、「目が合う」というところにすべてがあると私は思っていて、じゃあなぜ、横顔はこれほど特別に感じるのだろうと考えていた。
横顔はその人にしかない輪郭が美しく、愛しくもあって、瞳に反射する光がとても綺麗だ。それを盗み見するのは限りなく贅沢なことで、自分以外の何かを見ているその人を見ているのが好きだ。心を奪われている表情をしているなら尚更、私はその表情を見て心が動く。
横顔を見ているときにその人が真正面からこちらを向く瞬間がとても好き。
こちらを向いてくれるとき、人はとても優しい顔をしている。私はその瞬間が大好きなのだ。隣にいていいんだよと言われているような気がする。そして一緒に前を向く瞬間に心は軽くなる。
この感覚をはじめて知ったのは、幼い頃祖母が花火を見ている様子を横から見ていたら祖母がこちらを向いて「大きい花火があがるよ」と笑ってくれたときだったような気がする。そして思ったのだ、ひとりにしないでくれてありがとうと。
人の横顔を見ているとき、自分は孤独から果てしなく遠い場所にいるのだと錯覚する。
ずっと隣にいてね、ずっと隣にいさせてね。そう願う気持ちもあるのかもしれないな。
恋人の隣にいると彼はよく私の方を向いて「帰ろっか」という。前を向くと同時に私の手を取ってくれる。
うん。帰ろう、一緒に。
感性の違い
彼は文学的なものにまったくと言っていいほど関心がない。歌に関しても「歌詞がいいんだよね」と言うことはほとんどないし、彼と言葉に関して語ることはまずない。
そんな彼がある日、私が詠んだ短歌のメモを見てそのなかのひとつを指さし「濁点がなくてなんかいいね、(私)って感じがする」と言った。この言葉に鳥肌が立って目頭が熱くなったのは、過去に恩師からも同じことを言われたからだった。
私が腑抜けた顔をしていると「なにそのかお」と彼が笑ったので「いや、先生と同じこと言うからびっくりして」と答えたら「なんていうか、(私)って濁点が似合わないからね」と返ってきた。「(私)の名前がひらがなって知ったとき納得したのと同じ感じかも」と。
彼は言葉どうこうではなく、音の印象を聞いてそう感じているのだなと思った。
私は手紙で普段言えないことを文章を綴ることで伝えたりすることもあるけれど、彼はすべて声で伝える。だから目で見た言葉の印象より耳で聞く言葉の印象に敏感なのかなとも思った。本人は特にそんなことを考えてはいないだろうけど。
先生は書くことも話すことも好きな人だったけれど、どちらかといえば書くことが好きな人だった。一方で彼は書くことよりも話すことに重きを置く人だ。
ふたりの生き方や表現の仕方は違えど、その言葉に対する感じ方や私に対する見方が同じだったことが、なぜかとても嬉しかった。
親友がこの短歌をこの文章この本を見たら、きっとここが好きだと言うだろうなと大体わかるしそれが外れたことはない。それは私と親友の感性がほんとうに近いからで、そういう他の人とは分かり合えない深いところまで話せるのは嬉しい。
けれど、自分にはない感性で私自身や私がつくった何かを見てくれるというのもとても嬉しいことだなと思う。
だってそこにはあなたが私に惹かれた理由が隠れていたりするから。
ごめんねの代わりに
彼を仕事へ見送るとき、いってらっしゃいと言うと同時に今日も無事に帰ってきてねと思う。願うというよりもはや念を送っているのに近い。
前日喧嘩したままで気まずい朝がきたとしても、いってらっしゃいと送り出したい。たったひとこと「昨日はごめんね」と言い出せないとしても「いってらっしゃい」はごめんねのかわりになるかもしれない。
そのあとでもいい、喧嘩の原因があなたでも私でも、謝り合うのは帰ってきてからでもいい。ひとまずは今日一日の無事を願いたいと思う。
明日死ぬと思って今日を生きるなんてことは私にはできないし、明日も図太く生きるつもりだから今日も私らしくマイペースに生きるけれど、大切な人との別れ際「これが最後になるかもしれない」と本気で思うことはある。実際にそうなってしまった経験をしている以上、ありえることなのだと知っている。
だからいつも通りに、いつもの私たちらしく言葉を交わす。これが最後になるかもしれないという恐怖が頭にちらついたとしても、特別な何かを起こすわけでも起こせるわけでもない、ただいつも通りを繰り返すだけ。私にとって当たり前を交わし、当たり前に別れるだけ。
いつだって「ただいま」を聞くための「いってらっしゃい」だ。それだけだよ。
短歌
最近詠んだ短歌。
秋は好き。でもまだ私は秋服を着ない。
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