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「黄泉比良坂」を書いて
黄泉比良坂の旅館 構想や設定
今回は自分としましてはとてもお気に入りの短編となりました。
あとがき的なものを書くのは「二階堂の幻」「令和黒蜥蜴」以来三作目となります。
読了頂いた皆様ありがとうございます🙇
今回は執筆前と途中に書いていた設定をちょちょっと纏め直したものを以下に掲載致します。
本編と合わせて読んで頂けたらまた違う感じ方になるかもしれません。
あくまでもメモベースなので、散文ご了承下さいませ。
執筆時の前書き
気がついたら私は温泉に浸かっていた。
死んでしまった事に気づいた。
湖の向こうに見える再生の場所。
ここは人生を休む場所だった。
世界観
死者が集まり転生するまでを過ごす場所。
天国側。神奈川県ブロックの天国。
芦ノ湖の湖畔にあるが実際のその場所ではない空間。モデルは芦ノ湖の旅館「龍宮殿」
意思や意識に一定の統一的な縛りがかかっていてここに来た人間は全て平穏に過ごす事が出来る。
誰と話し、誰と親交を深めるのかは決まっていないものの、生きている現実世界よりは運命的な作用が強い場合が多い、それはウェイターに扮装している神宮寺やツネ子によるものもある。
人物設定
澤口文香
美しい女性ではあるが目立つ人間ではなく、とても優秀でもなく、落第生でもない、大学を出て企業に就職して、職場で出会った男性と結婚をしたが離婚している。
子供はいない。夢は保育士になりたかった。
優しくさばさばした性格で皆に好かれる人物。
所謂現代の女性、もしくは現代の人。
しかし流行りに流されない純粋な心と愛情を持ち、同時に人生というものに悩みを持つ人。
この世界を自然な眼で見て、透明な心で感じる人。
文香の視点で物語は進行していく。
晃一
人間の醜さに囲まれた美しい心の子供。
まだ汚れを知らないままに、真実だけを内包して生きる人。
生前は環境によりほとんど口を聞かない暗い少年だった。
本来の魅力が死後の世界ではそのまま表に出ている為明るく快活である。
人の残酷さと純粋な心の美しさの対比になるエピソードを担い、生きる事の負の部分を表しながらも誰よりも微笑みを絶やさない人物。
ツネ子
水先案内人。
長い間ここにとどまって役目をこなしている。
ツネ子も含めてこの旅館で働く人々は皆「罪人」であり、生まれ変わりをするまで資格を得るまでここで働いて得を積んで生活している。
神宮寺を除けば一番ここの事や滞在者の事を知っている。
神宮寺と定期的に話しをしている。
しかし神宮寺が向こう岸に現れる審判の人とまでは知らない。
文香か晃一いずれかの血縁者?
神宮寺(初出は新宮寺)
審判を下す者、この黄泉の世界の管理者。
普段は一労働者としてレストランの給仕をしている。
新しい死者が来た時には話しかけて何かのきっかけを作る。
文香と晃一を繋げる役目をする。
この神宮寺だけが全てを知っている。
物語に包み込むもの
尺度。距離。記憶。未来。幸福。
前向きとは?苦しみとは?
微笑み。人と人。
次に向かう事。
何かと別れる事。
誰かを思う事。
別々の道をゆく者。
人に苦しめられて、人に救われる。
それを繰り返す痛みと美しさ。
様々な事象の起こる人生、その先に待つイコールに書かれる言葉や観念、そういった結末を表現しない作品にする。
正解や不正解では無い世界。
強制の無い世界。
現世に新たな人生として産み落とされる。
悩み苦しみ、喜び幸福。
人生の中でも小さく、時に大きく感じるこれらはそもそも何度も輪廻していた場合として考えると小さく感じる事も出来る?乗り越えていける?
そんな中で文香の前に晃一という苦しみを乗り越え様のなかった少年に出会う。
文香にとってはこの不幸にして微笑みを絶やさない晃一との出会いはかけがえのないものであり、
また晃一も、自然体で優しい心を持ち人の痛みが分かる文香という姉の様な存在にあたたかいぬくもりを感じて救われていく。
しかし具体的な話しをする事はなく、
言葉ではなく心の交流とする。
あくまでも
「人柄」と「人柄」
「感性」と「感性」
言葉の慰め合いという描写を入れない。
エンタメや涙を誘う作品にしない為に絆を深めていく過程も描かない様にする。
晃一の生前のエピソードは文香は後になって聞く事にする。
余談。私、不肖葉隠れ書房は時々考える事がありまして、晃一君の生前の教室の様な状況に立たされた時に身を犠牲に出来るのか?
私は前に歩み出る人でありたいと思っています。
なんてったって三島由紀夫研究者ですから笑
そういう意味を込めて私の本名である「晃一」という名前を彼につけさせてもらいました。
まとめ
題材は非現実的ではあるがSFではなく、転生ものでもない為、消えたり、光ったりという表現は極力無くす。また、短編の良さを考えて詰め込み過ぎずに短く、そして少し抽象的に。
「苦しみと幸福の不文律なスパイラル」を生と死の繰り返しに重ねた物語にする。
そして、答えを書かない。
今回感性を刺激してくれたもの
Special Thanks
「万葉集」大伴家持
「言の葉の庭」新海誠
「熱海の捜査官」三木聡
「守ってあげたい」ユーミン
「ひこうき雲」ユーミン
「はるよっぴー」(友人)
「自分の娘達」(親族)
そして、いつもながら、
三島由紀夫に敬意を込めて。