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言葉の宝箱0953【優柔不断になったわけじゃないんだな、優しくなったんだと思います】


『熱球』重松清 (徳間文庫2004/12/5)


20年前、町中が甲子園の夢に燃えていた。予選を勝ち進んだが決勝戦前夜に悲劇。悲運のエースは38歳になり、夢が壊れ捨てたはずの故郷に戻った。目下失業中で、父と小学5年の娘と3人の同居生活が始まった。留学中の妻はメール家族。故郷で仲間と再会、忘れようとしていた悲劇と向き合った。懐かしいグラウンドでは後輩たちが、あの頃と同じように白球を追っていた。
僕も、もう一度、マウンドに立てるだろうか?
戸惑う日々で見つけた溢れる思いとは?
大人の再出発を描いた物語。

*別居する父に寄り添う娘の話。
健気で痛ましく涙が滲む。
我が子の幸せを最優先に最善を尽くすのが親の義務だと思う。

・夢と目標とは、似ているようで違う。
夢見るものと目指すものとは微妙に違うのだ P21

・「負けず嫌い」という言葉そのものが大嫌いなのだ。
「だって、そうじゃん、負けたくないっていうのはゴーマンだよ。
まけたっていいんだよ。でも、逃げるのって、ずるいじゃん。
あたし、逃げるぐらいなら負けたほうがいいと思うもん。」
東京にいた頃は、ちょっと生意気な正論だな、程度にしか思わなかった。
だが、同じ言葉をこの町で聞くと、胸にちくりと痛い。
負けることすらできなかった二十年前のことを思いだすと、
胸はもっと、絞られるように痛む  P102

・「逃げてもいいんだから、って。
ほんとにキツくなったら、にげちゃってもぜんぜんオーケーで、
ここの町の子は、
逃げたのを追いかけてくるほど根性が悪くないんだから、って。
いちばんよくないのは、逃げたいのに逃げないことで、
逃げられないって思っちゃうと、もうアウトで、
死ぬほどキツくなっちゃうからって・・・」
「そうだよ」
僕は少し強く言った。
「ほんとに、そうなんだよ」と、自分自身に言った  P185

・『誰かのために』っていうのは、
『誰かのせいで』と根っこは同じだと思う P282

・優柔不断になったわけじゃないんだな、と気づきました。
優しくなったんだと思います(略)
優しくなったから、つらくなるってあるような気がします。
優しいひとほど途方に暮れてたたずむことが多いんじゃないかな、って。
だって、「優しい」という字は、ひとが憂うって書くんだものね(略)
家でも何でもそうだけど、
ひとは「帰ってくる」と優しくなるのでしょうか。
「帰る」ためには、いったん「出て行く」ことが必要です  P300

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